11.冒険者達の選択(前編)
さて、今日もこの場に来てくれた君にまずは感謝を。ついに邂逅した二組のパーティー。その出会いはそれぞれに大きな選択を迫る。では始めよう、冒険者達の物語を。
マーハル大聖堂、貴賓室。ヴァネッサからの親書をダベルフ大司教に無事手渡した一行は、ケインら3人と対話する機会を得る事となった。
まずはケインが、これまでの経緯、そしてモルゲス=ヘイドラーと名乗った魔術師を追っている事を彼女達に語る。
「その魔術師なら、オレがやっつけたぜ。死霊術師だろ?」
シュロスは、しれっとモルゲスの討伐完了を語る。
「何?!」
「アンタなら特に驚かないわ。」
「お仕事、終わっちゃったね。」
「で、では私達の経緯について語らせていただきますね。」
ルフィアは同じく、自分達の経緯について語る。
「・・・以上が私達のこれまでの経緯です。」
「ルフィア様は心のお強い方だ。俺は未だ迷ってばかりです。」
ケインは自嘲気味にその心情を吐露する。そんな彼を思ってか、ルフィアは他の仲間にしばらく二人だけにしてもらえないか、と依頼する。その願いを受け、他の一行はそのぞれ部屋を退出していった。
「ケイン、聞いていただけますか。」
「はい。」
「私は、ヴァネッサ様に今回の一件を報告した後、南王陛下に謁見します。そして、ラインフォート領奪還の為の兵を借りる予定です。」
「!?」
「しかし、この想いを共有する者は私の元にいません。領地を略奪され、家族を失った悲しみは、体験した者にしか分かり得ません。」
「・・・その通りです。」
ケインは、ぐっと拳を握りしめる。
「ケイン=ラインフォート。同じ姓を持つ貴方に、私の剣となって欲しい。」
「俺は元冒険者です。北方領にも友人がいます。ラインフォート領も北方風に名称を変え、既に多くの北方民が入植しました。この二年の平和を崩壊させる気ですか。」
「そうです。戦争で奪われたものは、戦争で奪い返す。ただそれだけです。」
「・・・考えさせてください。」
「明日にはマーハルを発ちます。次にマーハルに立ち寄る時は、ラインフォート領攻略戦の総大将としてでしょう。」
ルフィアは、そう言い残して部屋を出る。
「・・・俺は、どうすればいい。」
ケインは部屋の天井を見上げ、ただ呟く。
夕刻、ルフィアは、シュロス、フィリスを呼び、改めてラインフォート領奪還の件について二人に話す。
「なら、オレはお役御免って訳か。」
「強制はしません。殺し合いに嫌気がさして冒険者に鞍替えした貴方に、今更傭兵に戻れと言う権限は、私にはありません。」
「まぁ、でも勝つぜ。間違いなく、今回の主戦力はあの第四騎士団だ。あのケインってヤツに詫び入れたって事は、ルフィアちゃんにも負い目を感じるところは持ってるだろう。」
「シュロス・・・」
「だから邪魔をする。本気の聖騎士様と戦場で戦える日なんて、そうそう無いチャンスだろ?」
「え?」
驚いた表情のルフィアにシュロスは顔を近づけ、警告する。
「君の欠点は、考え方に柔軟性が乏しい事だ。その部分は御父上と全く同じ。机上の軍略なんざ、実戦では何の役に立たなかった、なんて戦いは何度も見てきた。だから警告しておくぜ、前には出るな。あっという間に出来立ての亡者に足元をすくわれるぞ。」
シュロスの助言に、ルフィアは無言で頷く。
「私はシュロスと同行する。ラインフォート姓も返上して、ただのフィリスに戻る。」
「フィリス、貴女まで!?」
「これはルフィア、お前の戦いだろう?私は私の道を行く。北のギルドに興味を持った。」
「あれ、もしかして本当にフラグ立った?」
「ばーか。勘違いするな。」
「二人とも今までありがとう。」
「でも、逃げ出してもいいんだぜ?君は十分不幸を背負ったんだ。」
「じゃあな、ルフィア。こちらこそ礼を言う。ありがとう。」
二人はルフィアに別れの言葉を残し、部屋を去る。ルフィアもまた自室に戻り、明日の準備を始めるのだった。
同時刻、ケインも同様にシアナ、ティム、ヘイニーグ、ガロア牧師の四人を大聖堂の一室に招集する。
「警備の仕事はいいの?ケイン」
シアナがケインに尋ねる。
「昨日も結局『ハーベスター』は現れなかったし、元凶はルフィア様の方で片付けているみたいだから大丈夫だろう?」
「いい加減ねぇ・・・で、全員集めて何の話。」
「俺は明日、ルフィア様と共に王都へ向かう事に決めた。そして、ラインフォート領奪還戦に参戦する。同行したい者があれば、話を聞く。」
「はぁ?どうしたの急に。」
「ほう、奪還戦ですか。ドワーフ共を正しき教えに目覚めさせる良い機会。是非同行させていただきましょう。」
「私は人間族の争いには関与せぬ。もうしばらくマーハルに滞在してから帰らせてもらう。」
「・・・」
黙ったままのティムに対して、ケインは強い口調で言う。
「ティム、ギルドへ戻れ。俺が今から始めるのはただの殺し合いだ。ギームやブロウニーじいさんにお前の無事を知らせろ。」
「それがいいわ、ティム。アタシも付いていってあげる。」
「シアナも?」
「アタシも父さんと同じ。人間族の殺し合いに加担するのはゴメンだわ。」
「シアナ、お前も、なのか?」
シアナの予想をしていなかった反応に、ケインは思わず声を上げる。
「アタシはエルフ族よ。アナタと一緒に過ごせる時間なんてアタシには一瞬なのよ。なのに、何でそんなに死に急ぐの!」
「俺が、そう見えるか?」
「アタシには見えるわ。アンタはあのルフィアって女の為に死ぬ。それが“名誉”なんでしょ、オトコってのは!」
シアナはそう言い残し、部屋を去っていった。
「牧師様、今までありがとうございました。ボクはシアナと一緒にギルドに戻ります。どうか牧師様もお元気で。」
「それがいい。君の故郷は北方領だ。友人を大切にしなさい。そして、マーハルでの経験が君の人生の糧になる事を願うよ。」
ティムはガロア牧師に一礼すると、シアナを追うように部屋を出て行った。
「牧師殿。ここでお別れとは残念だが、これも縁。楽しませてもらった、またこの街には訪れるようにしよう。」
「次にお会いする時は、私の武勇伝を披露しましょう。ご自愛を。」
「期待して待とう。忘れぬうちに、な。」
ヘイニーグは、ケインを見やり、冷ややかに告げる。
「娘も気づいたじゃろう。人間に恋慕する事の無情さを。さらばだ、人間よ。」
ヘイニーグもまた部屋を去り自室へと戻っていった。
「さて、私も自室に戻ります。では、明日。」
ガロア牧師も部屋を去り、一人大部屋に残るケイン。
「そうだな、変わってしまったのは俺だ。だけど、もう決めた事だ、後戻りはしない。」
翌日。
「ルフィア様。」
聖堂で女神への祈りを奉げるルフィアにケインが声を掛ける。
「ケインですか。その同席の方は?」
「戦神の牧師エイブラハム=ガロア。どうぞ、ガロア牧師とお呼びください。」
「丁寧にこちらこそ。ルフィア=ラインフォートです。どうぞよしなに。」
「前から気にはなっていたのですが、豊饒の女神の信徒に対してガロア牧師は丁寧な対応を取られていますが、異教徒同士って敵対関係にあるものじゃないんですか?
「それは大きな間違いです、ケインさん。神は違えど信仰する心は同じ。それに作物が実らなければ私達は飢えて死にます。逆に生存本能が無ければ、生きる意欲を失います。どちらの神の御力が欠けても人間は富み栄える事が出来ない、故に尊重するのです。」
「つまり信仰自体は自由、という訳ですね。」
「ただし、ドワーフ共の宗教は別です。あれは神の存在を自己都合に改ざんした邪教です。
故に、滅ぼさねばならぬのです。」
「あ、はい。(ヤバイ、やぶ蛇つついたかも)」
「そういえば、他の皆さんは?」
ルフィアは、特に臆する事も無く二人の会話に割り込む。
「(た、助かった)彼女達とは別れました。昨日お話した通り、二人は冒険者ですし、もう一人は例の魔術師討伐で雇った助っ人でしたから。」
「ルフィア殿の方こそ、お仲間の方々は。」
「実は、私の方も意見の不一致で、ここで別れる事に・・・。」
「でも、あのシュロスって男、相当の手練れでしょう?良かったのですか。」
「・・・はい、私から切り出した話でしたから。」
ケインはおもむろに、ルフィアの両腕を掴んで自分の方に顔を向けさせる。
「ケ、ケイン?」
「俺も迷いました。でも貴女が迷ってはいけない。指揮官の迷いは兵卒にまで伝染するのです。露払いは俺とガロア牧師で行います。貴女はただ進んでください。父上の汚名を注ぐ為にも。」
「判りました。もう迷いません。」
ルフィアの頬に一筋の涙がこぼれ落ちる。初めて得た、思いを共有する仲間への感謝の涙だった。
一方、シュロスと共に北方領へ向けて馬を走らせるシュロスとフィリス。
「まさか、フィリスがオレと付いてくるとはねぇ。」
「別にお前と一緒にいたい訳じゃない。ただ、ルフィアの悲願に付き合って死ぬのは間違っていると感じたまでだ。」
「そそ、一度きりの人生、楽しまないとな。」
「おーい、シュロス―!」
二人に声を掛けたのはシアナだった。
「シアナちゃん?どうしたのさ。」
二人は馬を止め、シアナ、ティムと合流する。
「パーティー解散したぁ?」
「うん、ケインはあのお嬢様の為に南王騎士団として戦う、ってさ。」
「止めなかったのかい?」
「止めたかった。でも、あのルフィアって娘と談笑しているケインを見てさ、アタシには絶対向けない顔だと思うと、そんな気はしてたんだ。彼は冒険者には戻らない、って。」
「シアナちゃん、一緒にパーティー組もうぜ。」
「えっ?」
「ギルドに戻って、ソルディックの野郎も巻き込む。ヤツの事だ、ケインって奴がいずれ抜けるのは予想していたはずだ。」
「あ、ありがとう、シュロス。」
「それじゃあ、北へ向かいますか。多少魔物の巣窟になっている抜け道があるが、オレとシアナちゃんで十分殲滅出来る規模の敵だ。危険は低い。」
「それより、冒険者3人に南方人一人だから、国境の兵隊に賄賂掴ませた方が早くて安全だと思いますが。」
「その少年の方が理にかなっているな。そもそもいつの情報だ、それ。」
「2年前、かな?」
「情報が古すぎる。国境突破に変更だ。」
こうして新たなパーティーとなった彼らは、一路北方領へ向かうのであった。
ケインとルフィアが出会う前、クレミアは一足先に王都への帰着を済ましていた。
「どうでしょうか、メルルンの状態は。」
「良くないな。神官たちの体調は良好だそうだ。お前の救急看護のおかげだ。ありがとう。」
「シュロスが私を鼓舞してくれたからです。それまではこの力でしか皆の役に立てないと思っていましたから。」
「惚れたか?」
「・・・多分。」
「言うねぇ、この娘は。しかし、メルルンの状態は不安定のまま。ドワーフ族の呪術師の中でも彼女は別格だったから替えが利かない。完全に手づまりだ、チキショウ。」
「ヴァネッサ様、もう一つお願いがあります。スザリ司祭長もご同席の上で。」
別室にて。
「一体何でしょうか、ヴァネッサ様。」
「首実検、だそうだ。指名手配者かも知れないらしいのでな。」
クレミアが箱から首を取り出す。呪文で腐敗を防止しているため、顔の形は整っており、今にも目が開きそうなほどだ。
「ひ、ひぃっ!」
スザリ司祭長は、椅子から滑り落ち、後ずさりして壁際でへたり込む。
「どうした?知っている顔なのか。」
「モ、モルゲス=ヘイドラーでございます!」
「はい、確かにそう名乗っていました。やはり、指名手配犯なのでしょうか。」
「いや、『ハーベスター』の立案者にして生みの親。スザリはこの男の研究を利用して、クレミア達を権力強化の手駒にしようと目論んだ。」
「はい、今はヴァネッサ様に忠誠を誓っております、この通り。」
スザリは、クレミアに土下座でこれまでの非礼を詫びる。
「お顔をお上げください、司祭長様。私はこのような体になった事を恨んではおりません。むしろ、試作品としてルフィア様に引き合わせていただき感謝さえしております。」
「すまぬ、すまぬ。私が傲慢過ぎた。」
「だがこれで『ハーベスター』計画は全て抹消する事が可能になった。クレミア、これは十分報償に値するぞ。」
「ありがとうございます。」
すると、部屋をノックする音。
「何事だ。」
「失礼します、ヴァネッサ様。お客様が是非お目通りを、と。」
「今日は客人が多いな。一体誰だ。」
「はい、聖騎士アンリ様でございます。」
「アンリが?・・・仕方ない、通せ。」
しばらくすると、アンリが部屋に通され、席に付く。
「ヴァネッサ様は、『ハーベスター』なる者をご存じでしょうか。少女の姿でありながら、巨大な鎌を操り、且つ高い技量の体術を繰り出す暗殺者を。」
「ああ、その一件なら解決した。スザリが全部白状したよ。後は私の書状をダベルフ大司教がどう判断したか、だ。」
「結局あの書簡の内容とは何だったのでしょうか?」
「教皇位の復活を南王陛下に進言する代わりに資金調達に協力しろ、ってな。聖職者にとって、最高権威ってのは、喉から手が出るほど欲しいものさ。だが、南王に直接進言出来るのは、それこそ私か、ここにいらっしゃる聖騎士アンリくらいなもの。使うなら両方美味しく使わないと、な。」
「という事は、その資金は軍団の買収に?」
聖騎士の問いに、ヴァネッサは不敵に笑う。
「ああ今のうちに味方に付ける。少なくとも私が玉座を手に入れるまでは餌付けておくさ。」
「では、もう一つ質問を。モルゲス=ヘイドラーなる魔術師をご存じでしょうか。」
「そこの箱に首が入っているぞ。見るか?」
「いえ、私は顔を知らぬ故。つまり何者かが討伐を?」
「ああ、そこの神官の仲間が討伐したそうだ。」
聖騎士は、傍らに傅く少女を見やる。
「畏まる必要は無い。むしろこの様な邪悪な魔術師を討伐してくれた君達に非常に感謝をしている。」
「ありがとうございます。」
「で、アンリはどこでその名を。」
「はい、ケインと名乗る冒険者がこの魔術師の捜索を行っておりまして。その後『ハーベスター』の関係者である事はダベルフ大司教から聞き、こちらに参上した次第です。」
「ケイン?」
クレミアが思わず声を上げる。
「彼はラインフォート村のケイン、と名乗っていた。私の軍団の元兵卒だったらしいな。」
「それは、私の兄です!」
「ほう。」
「彼女は2年前、ラインフォート村で保護された神官の一人です。可能性は高いでしょう。」
スザリ司祭長がか細い声で補足を入れる。
「吉報であると良いな、少女よ。」
聖騎士は立ち上がるとヴァネッサに一礼する。
「では、私は王の元へ。兵の補充の承認をいただきに伺います。」
「分かった。下がれ。」
「はっ。」
アンリが立ち去った後、ヴァネッサは女中を呼びよせる。
「おい、メルルンの容体は?」
「はい、呼吸が荒くとてもお話出来る状態では。」
「そうか。」
ヴァネッサはその豊かな赤髪をかき上げると、スザリに命じる。
「スザリ司祭長、直ちにミュッセルに戻って街の様子に変化が無いか確認をせよ。死霊術師の魔法は土壌に残る場合がある。持てる限りの聖水を持って行け!」
「はい、畏まりました。直ちにミュッセルに向かいます。」
ヴァネッサに一礼をすると、スザリは部屋を退席する。
「よいのですか?彼を行かせて。」
「死霊術の魔法は、時間差で発現する呪文もある。念には念を、だ。」
「ヴァネッサ様も休憩を取られては。」
「忠告通り、そうしよう。これからしばらく寝れなくなるかも知れないからな。」
「何か感じるのですか?」
「ただの予感さ。女のカン。」
夕刻。
「ヴァネッサ様、早馬が到着しました。三人の者が面会を求めております。」
「やはり寝かせてはくれないか・・・名前は?」
「はっ。ルフィア=ラインフォート、ケイン=ラインフォート、エイブラハム=ガロアと名乗っております。」
「クレミア、同席しろ。」
「はい!」
謁見の間。
ヴァネッサの前に傅く、ルフィア達一行。
「・・・以上が報告となります。他2名は使命を終えた事もあり、離脱を選択した事をお許しください。」
「承知した。討伐ご苦労であった。後ろの二名はお前の同行者か?」
「いいえ、同士です。ヴァネッサ様、どうか南王陛下への謁見を取りなして頂けないでしょうか。私は、ラインフォート領奪還戦を王に歎願したいのです。」
「許さぬ。」
「えっ?」
「ラインフォート領は肥沃な穀倉地帯だが、戦略的に見れば絶対に取られてはならない領域では無い。守りを固めるべき地域は他にも多く存在する。騎士団とて無限に存在する兵団ではない。奪い返したところで、荒れ果てた畑で泣き叫ぶ子供たちをまた作るのか?」
「でも南王陛下なら、南王陛下なら分ってくださるはずです!」
「だから謁見を許さぬ、といっている。お前は都合のいい口実に使われるだけだ。」
「どうか、どうか・・・」
「良いではありませんか。ヴァネッサ様。」
謁見に姿を見せたのは聖騎士アンリだった。
「さぁ、立ちなさいルフィア殿。私が殿下との取りなしを致しましょう。」
「どういうつもりだ、アンリ!」
「人は常に戦いを求める生き物です。膨張した騎士団はいずれ破裂します。結果、いずれ内乱が始まるでしょう。南王陛下も北王軍に雪辱戦を望んでおられる。彼女の願いが真摯であれば、南王陛下を動かすやも知れません。その彼女の機会を奪うのは、いささかフェアとはいえませんな、ヴァネッサ様。」
「ちいっ!」
ヴァネッサはアンリの言葉に思わず舌打ちする。
「聖騎士様・・」
ケインは、アンリに声を掛ける。
「ケイン、陛下から了承を得た。今日から君は南王第四騎士団副団長だ。無論拒否するのも君の自由。」
「ええっ!」
「驚くのは早い、ヴァネッサ様の方をよく見たまえ。」
ケインが振り向くと、走り寄ってくる、一人の神官服の少女。
「お兄様!」
「クレ・・ミア、なのか。」
「そうです。ラインフォート村のクレミア。お兄様の妹です。」
戦争から2年。冒険者となって妹クレミアを探し続けた戦士ケインは、ついに妹との再会を果たしたのだった。
ルフィアは、南王始め臣下達も注目する中、必死にラインフォート領奪還戦への出陣を要請した。多くの臣下は2年の平和がもたらした恵みを主張したが、一番の熱意を持って支持を表明した聖騎士アンリの前に、かき消えてしまう程度の主張だった。
結果、歩兵隊4000、弓兵2000、南王第一騎士団2000、南王第四騎士団2000 計1万の兵が招集される事が決まった。
「農作物の刈取りを急がせよ。北方商人に物資を横流しする者は極刑に処せ。総大将はルフィア=ラインフォート、作戦指揮は聖騎士アンリがその任を負うものとする。」
南王の大号令の元、ラインフォート領奪還作戦が正に動き出そうとしていた。
そして一ヶ月が過ぎた。
マーハルから届けられた大量の食糧を始めとした戦争物資が馬車に積み込まれ、歩兵隊、弓兵隊が大行進を始める。
その行軍を王宮から眺める一組の男女。
「お兄様も、もう行かれるのですね。」
「ああ、そうだな。」
「やはり私の同行は許されないのですね。」
「何度も話しただろう?」
「でも、私はシュロスに死んで欲しくない・・・」
「シュロスってあの男か?アレは生粋の戦争屋だぞ。冒険者ですらない、お前とは住む世界が違う人間なんだ。」
「でも・・・」
「俺はもう、家族を失いたくないんだ。少なくとも、この場所ほど安全な場所は無い。頼む、お兄ちゃんの言う事を聞いてくれ。」
「・・・分かった。わがまま言ってごめんなさい。」
ケインはクレミアを抱き寄せ、優しく頭を撫でる。
だが、クレミアの方は何か決意を固めたかのように、その目を伏せるのだった。
「ヴァネッサ様、これ以上はお身体に障ります。どうか自重を・・・」
「うっせ、これが自重出来るかっての。」
ヴァネッサはこの数日酒浸りの日々が続いていた。
反戦側の中心人物として、一度火が付いた戦争に終着点が無い事を王を始めとした臣下達に説いたが、最初からルフィアを戦犯に仕立て上げようと考える臣下達には無意味な論説と化していた。
(そもそも、父上が戦争に積極的なんだ。最初から勝てる筋はなかった。)
「ソルぅ・・・つらいよ、たすけてくれよぅ。」
ヴァネッサは酒瓶を抱え、つい泣き言を漏らす。
「呼びましたか?」
「!?」
今日はここまで。また次回会う事が出来る事を期待しよう。
私の名は≪アンノウン≫。誰も知らない物語を語る、語り部だ。
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