10.聖騎士vs元兵卒

 さて、今日もこの場を訪れてくれた君に感謝を。前回、魔術師モルゲスがあっけなく退場した事に拍子抜けしたかも知れない。だが、魔術師との勝負とは切り札を先に切られた時点で終わりなのだ。そして物語は終盤へと進んでいく。生き残った彼らの選択は如何に。では始めよう、冒険者達の物語を。


ケイン達が新たな仲間を得て5日。そのリーダーは頭を抱えていた。

「情報収集がこんなに困難だとは、思いもしなかったぜ。」

「少しは思いなさいよ。魔術師の足跡なんて、ソルディックでもなければ簡単に掴める訳ないじゃない。そもそも、何らかのツテはあったんでしょう?」

シアナの厳しい言葉に、ケインは言葉を濁す。

「い、いや、マーハルの街の規模ならギルドくらいあると思っていてさ。」

「この街では、冒険者稼業よりもっといい稼ぎ場があるのよ。」

「なら、そこで情報聞けば・・・」

「用心棒なのよ、商人達の。」

「あ、そうか。・・・ってそれじゃあ、ここの連中、情報の共有とかは?」

「しないわよ。あっても出さない。依頼人の身を守るのが優先だから。」

「クッソ!じゃあ、丸々無駄足って事かよ。」

「そうでも無いでしょ。アタシの父さんやガロア牧師と面識を持てたじゃない。ソルディックやギームにしろ、ケインやティムに見聞を広げさせる為、敢えて引き留めなかったのだと思う。」

「確かに、俺はこの国をもっと知るべきだ。北も南も、ティムより年少の子供が親方に従って働いているが、南からは悲壮感は感じられない。」

「報酬があるからね。北では真面目に働いて報酬を稼ぐ事が出来るのは、職人のドワーフが大半。確かに、落ちこぼれて犯罪に走る子供は、どっちの国も多いけど必要以上に暴力を振るう子供は北の方が多かった。あの子もそう。」

「あの子?」

「シュロスよ。」

「・・・いつの話だ、それ?」

「たぶん、15年くらい前。まだ南北間も自由に行き来が出来た頃ね。当時アタシは国境辺りを一人旅してた。で、あの子が組織した強盗団に襲われた。」

「シュロスって俺と同じぐらいの歳だろう?」

「その当時が11,2歳前後だとすると、ケインよりは年上かもね。で、アタシは彼らをボコボコにした。それが最初の遭遇。南の内乱時は、アタシは北で過ごした。人間族やドワーフ族の戦争に巻き込まれたくなかったし。そこでギルドを知ったアタシはギルドに加入した。退屈しのぎに、ね。」

「次にヤツに会ったのは?」

「ケインと組む前。だから一年半くらい前になるかな。その時に初めてシュロスと名乗って、アタシに昔の件を謝罪した。彼と組んだのは一つの案件だけだったけど、剣の腕は恐ろしいほど上達していた。盗賊としてパーティーを組んだけど、そっちの意味では全く役に立たなかったけどね。ホント、よく分からないヤツになっていたわ。」

「ふぅん。」

ケインは目じりを緩め、シアナを見つめる。

「な、何よ。」

「いや、シアナが誰かを“お姉ちゃん”みたいに話すを見るのが新鮮でさ。ティムには近所のオバサンみたいにしかりつけるのに。」

「だぁれがオバサンですってぇ。」

「そういう切れやすいところだと思うが?」

スパァン、と綺麗な右ストレートがケインの顎を直撃する。

「切れやすい女で悪かったわね。」

「相変わらず、良いパンチだ。」

ケインは、苦笑いで顎を擦る。

「ケイン、シアナ、戻ったよ!」

ティムが、ヘイニーグ、ガロア牧師と共に酒場に戻り、5人は合流する。

「何か、新しい情報は掴めましたか?」

ケインの問いに、ヘイニーグは答える。

「臭くて仕方なかったこの空気も、慣れてしまえば気にならぬものだな。特に我らの里では、味付けは塩と香草主体だが、人間族の香辛料文化は実に素晴らしい。いや、今日も美味な食事に出合えた事に満足至極だ。」

「おい、このオッサン本当に役に立つのか?」

「火力は折り紙付きよ。他は期待しないでね。」

「オマエなぁ・・・」

ケインはヘイニーグに丁重に礼を言い、今度はティムに問いかける。

「ティム、今日はどうだった?」

「今日は、ガロア牧師の教会で色々な計算式を教えてもらったよ。数学って面白いね!」

「は?」

「ケインさん、宜しいでしょうか。」

ガロア牧師がケインに話しかける。

「ええ。」

「この数日、モルゲス=ヘイドラーなる魔術師について調査はしましたが、すでに報告した通り、10年の内乱による影響で記録の大半が喪失しており、手を付ける算段がありません。

ですので今日は、ティム君に楽しく教育を受けてもらい学問に興味を持ってもらう事に専念し、彼の未来の選択肢を増やす為の一日とさせて頂きました。」

「ガロア牧師の考えは理解しますが、今はパーティーとしての行動を・・・」

「それにつきましては、一つ提案があります。」

「え?」

「この街の最高権力者に聞きだすのが最も早いかと。」

ガロア牧師はその笑みを崩す事無く、ケインに進言する。

「えぇ・・・。」

「私は行かぬ。濁流派大司祭の醜い作り笑いなぞ見るのもおぞましい。」

「でもお父さん、時の権力者が食べる料理ってちょっと興味ない?」

「ぬ・・・。仕方あるまい、付き合うとしよう。」

(さすが娘。扱い慣れてるなぁ。)

ケインは苦笑しつつ、皆に声を掛ける。

「どうせ昼に行ったところで追い出されるのがオチだ。このまま、深夜に全員で大聖堂にお邪魔させてもらう!」

夜。曇天の中、大聖堂へ向かう5人。

「そういえは、今日は騎士と神官のカップル見なかったわね。」

「そういえば、そうだな。悪い夢から女神官を救い出した騎士様か・・・クレミアも本来なら彼女達のように救われるはずだった。」

「南王騎士団は動かなかったんだったね。そういえば。」

「生存の可能性が限りなく低いのは自覚している。だけど俺は諦めない。絶対に、だ。」

大聖堂。通常であれば多くの人々が豊饒の女神像を前に、祈り讃えるこの大広間も今は人影も無く静まり返っている。

「待て、ケイン。」

ヘイニーグは、大広間へ足を向けるケインを止める。

「何か感じましたか。」

「聖域(サンクチュアリ)結界ですね。この呪文は外敵侵入者に弱体化魔法を付与し、内部の者に警告を発します。そして、厄介にもこの結界は無力化された場合でも警告は内部の者に必ず伝えるのです。」

「おお、ガロア牧師、解説をありがとう。神聖魔法は余り詳しくないのでな。同士がいるのは実に頼もしい。」

「で、この結界、破壊可能なのですかね?ヘイニーグさん。」

ケインの質問にヘイニーグは鼻高々に答える。

「無理じゃな。」

「どういう事だ、オッサン。」

「ガロア牧師も言ったであろう、無力化、と。無力化とは、結界外から誰かが魔力で結界を相殺する事を指す。その様な魔力はシアナには無い。よって私が結界を無力化しよう。なあに、夜が明けるまで程度なら持ち堪えられる。」

「いや、それじゃあヘイニーグさんの守りは・・・」

「私が責任をもってお守りします、ケイン君。」

「ガロア牧師。・・・頼みます。」

「では結界を無力化するぞ。」

ヘイニーグが呪文を詠唱すると、聖堂の入口が大きく揺らめく。

「行って来い、3人よ。」

『はい!』

ケイン、シアナ、ティムの3人は一斉に大広間へと駆け込む。

大聖堂内、大広間。

「静かだね。」

ティムが呟く。

次の瞬間、天井にある太陽を形どった紋様が光を放ち周囲を照らす。

「うぉっ!」

「キャっ!」

「うわっ!」

三人が細目で辺りを見ると、3人の鎧姿の男がいがみ合いを始めていた。

「おい、『ハーベスター』じゃねぇじゃん、どうなってるんだよ、ラーク!」

「オレが知るかよ!しかもよりによって盗賊崩れの冒険者じゃん、全部ケントのせいだ!」

「俺に振るなよ。仕事は仕事だ。キッチリ頼むせ、お二人さん。」

ケインは前に進み、三人に話しかける。

「アンタ達、その意匠、南王騎士団だな。何で大聖堂にいる?」

「ダベルフ大司教の警護さ。騎士団って言っても給金なんてたかが知れているからな、副業さ、副業。」

「そっちこそ、金に困って大聖堂に忍び込んできたクチだろう?」

「アタシ達はダベルフ大司教に直接聞きたい事があってココに来たの。邪魔するのなら南王騎士団だろうが蹴散らすわよ!」

「威勢がいいお嬢さんは好みだぜ。私は南王第二騎士団所属 チャコール=キャスター。及ばずながら、お相手致そう。」

「おい、勝手に名乗り上げるなよ。しゃあねぇ、そこの大男、俺が相手してやる。南王第五騎士団所属 ラーク=ライト。チビだからって舐めると痛い目見るぜ!」

「で、オレはそこのチビか。南王第六騎士団所属、ケント=モーリス。ガキに油断する大人と思わない方がいいぞ。」

「アンタらに名乗る名は無いわ。さっさと終わらせてあげる!」

「・・・(この人達、本当に強い。ボクに止められるのかな。)」

「俺はケイン。ケイン=ラインフォート。元南王第四騎士団所属の兵卒だ。」

双方が武器を抜く。こうして大聖堂での真夜中の死闘が幕を開けた。

ラークはその自慢のスピードを生かして、ケインの死角を突く。

「ちぃっ!さすがに、言うだけの事はあるぜ。」

「どうしたぁ?その大剣は、ブン回すしかできねえのかっ!」

ケインは、大剣の刃先が地面に付くまでに剣を下ろし、左下段の構えでもってラークの攻撃に耐える。

「そこからじゃ届かねえだろ、首元がガラ空きだぜぇ!」

「そうだな!」

右の首元を狙ったラークの一撃は確実にケインに届いてた。しかし、なお早く、ケインの渾身の下段斬りがラークの胴を真っ二つに叩き切っていた。

「アンタは確かに強かったが、相手を嬲り殺す事がカラダに沁みついてたのが敗因だ。おかげで、アンタの間合いを掴めた。じゃあな。」


シアナは精霊を使役し、キャスターの手足を拘束する。

「ぐぅぬぬぬ・・・」

カラン! キャスターの手から剣が転がり落ちる。

「アタシは無駄な殺し合いをするつもりは無いの。大人しく引き下がりなさい。」

「それはこちらも同じこと。聖なる槍よ、敵を貫き勝利を女神に捧げよ。『聖槍突撃(ホーリー・ラッシュ)!』」

「神聖呪文?あぐっ・・・」

シアナの背後から白い光を帯びた槍が彼女の腹部を貫く。

彼女は力なく膝をつくと、その血で聖堂の床を染め上げていく。

「これで立場は逆転だな、エルフの女。飼ってやる気でいたが、貴様は危険だ。処分する。」

キャスターが剣を再び拾い上げる。

「ゴメン、ケイン・・・」

だが、次の瞬間床に崩れ落ちたのはキャスターの方であった。

「ケイン!」

「まだ、生きているか?」

「ちょっと、ヤバイかも・・・」

ケインはシアナの肩を担ぐ。

「一旦引くぞ、ガロア牧師に治療を頼もう。」

「・・・」

しかし、シアナの意識は次第に薄れ、ケインの呼びかけにも応じなくなっていく。

「今更逃げる気か?この子供を見捨てて。」

ケインの前に投げ出されたのは、ボロボロにまで刻まれたティムの身体だった。

「ティム!」

「死んではいない、だが時間の問題だ。」

ケントは、剣を抜くとケインを見据える。

「二人の仇は取らせてもらうぞ、ケインとやら。」

(どうする、俺一人で三人目の騎士団連中を倒せる自信は無い。でもやらなきゃ、二人が死ぬ・・・)

「そうか。ならば、その首貰い受ける!」

ガシャン、ガシャン、と甲冑の音が次第に近づいてくる。

現れたのは、漆黒の鎧に身を包んだ一人の男。

「聖騎士殿・・・」

ケントは振り上げた剣を下ろし、聖騎士に詫びを入れる。

「下がれ、ケント。」

聖騎士はシアナとティムに癒しの魔法を唱える。

「仲間の命はこれで助かるはず。盗みなど考えず、これからは陽の当たる道を進む事だな。」

「何故彼らの命を救うのです?我々は二名も仲間を失ったのです、この者は何としても裁かねばなりません。」

「一介の騎士団員が、この俺に諫言するのか。その二人が散ったのは単に弱かっただけに過ぎん。それまでしてこの者と戦いたいのであれば、まずこの俺を倒せ。」

「・・・二人の亡骸を弔います。」

「ちょっと待てよ、勝手に話進めてるんじゃねぇぞ!」

「君は、俺が誰か知っているはずだが・・・?」

「忘れる訳無ぇ、2年前の戦争で指揮官だったアンタを。」

「聖騎士様、この者は元第四騎士団の兵卒ケイン=ラインフォートと名乗っておりました。」

「アンタの名声なら、ラインフォート領主の命令を無視してでも、ラインフォート領に進軍出来たはず。現に多くの兵士から援軍を願い出た。何故あの時動かなかった!」

「ラインフォート領主には、息子はいなかったはずだが。親族の者かね?」

「ラインフォート村から騎士団に志願した志願兵だ。領主とは縁もゆかりも無ぇ。あの戦争で行方不明になった妹を探す為、敢えてこの姓を名乗らせてもらっている。」

「では聞こう。君の望みは何だ。」

「俺と戦え。勝ったら俺の話を聞いてもらう。負けたら好きにしろ。」

「面白い若者だ。ケントよ、大司教を叩き起こして来い。この者との立会人にさせる。」

「今からですか?」

「嫌なら構わんのだぞ。」

「いえ、今すぐ呼んで参ります。」

「その間に仲間を外に連れて行って構わないか、牧師が待っている。治療を受けさせてやりたい。」

「好きにしたまえ。」

ケインは二人を連れて外へ出る。

「ケイン君、その傷は!」

「俺はいい、二人の治療を頼みます。」

「君はどうする気かね。」

「私用が出来ました。パーティーは解散にします。」

「私用?」

「ええ、“私闘”です。ガロア牧師、くれぐれも二人を頼みます。」

そう言い残し、ケインは聖堂へ足を向ける。

「戻ってきたか。」

「ああ、逃げる理由は無いからな。」

「一つ聞くが、君は強盗目的でこの場所に侵入した訳では無さそうだな。」

「ああ、ある死霊術師の情報を求めてここに来た。モルゲス=ヘイドラーという男だ。」

「聞かぬ名だな。確かにダベルフ大司教なら知っているかもしれんが、それは俺に勝ってから聞くといい。」

やがて、慌てて法衣を身に纏ったと思われる姿で、息を切らして2人の前に立つダベルフ大司教。

「一体、この夜中に何をさせるつもりじゃ。賊の警備は続けておるのじゃろうな。」

「ご心配なく。実はこの試合の立会人になって頂きたい。この者は、俺に土を付けるかもしれない若者です。もし、彼が勝ったら新しい警備兵としてスカウトする事を勧めます。」

「何と、それほどの者か。了承した。事の顛末、最後まで見届けよう、聖騎士殿。」

「御託は済んだか?ならさっさと始めるぜ!」

ケインは重心を落とし、低姿勢で聖騎士に突撃を仕掛ける。だが、その一突きは聖騎士の盾によって防がれてしまう。

「さすがに奇襲で一発、とはいかねぇか。」

「いい踏み込みだ。ではこちらも動かさせてもらおう。」

聖騎士は盾を巧みに使い、息をつく暇も無く、ケインの間合いの内側を取る。

「ちぃっ、その位置じゃ大剣の威力が出ねぇ。」

「そういう事だ。君には天性の強靭さがあるようだな。だが!」

ケインの必死の連撃も聖騎士の盾が悉くはじき返していく。

「上手ぇ・・・盾だけでここまで押し込められるとは、聖騎士の名は伊達じゃ無ぇ、か!」

ケインは聖騎士の盾を蹴り飛ばすと、再び間合いを拡げる。

「盾の圧力からよく逃げた。今の君なら南王騎士団正規兵として十分入団可能だろう。」

「その言葉は、あの戦争の最中に聞きたかったぜ、団長さんよ!」

再び、聖騎士に対し突撃を仕掛けるケイン。その動きに併せ盾を構える聖騎士に対し、直前で聖騎士の右側に軽く跳び、聖騎士の右斜め前に立つと、全身が悲鳴を上げるまで体を伸ばし、大剣を槍の様に突き出す。

「もらったぁ!」

ケインの大剣は聖騎士の右肩当てを直撃し破壊した。

しかし、決定打には至らず、逆に間合いを詰めた聖騎士はケインの喉元に剣の先を突き立てる。

「勝負あり!聖騎士アンリの勝利とする。」

ケインは、ガックリと膝をつき悔しがる。

「ケインよ。確かに俺は最後にお前の喉に剣を突き立てたが、突き刺す力は残っていなかった。この聖騎士を最後まで追い詰めたのだ。誇ってよい。」

「でも負けは負けだ。この戦いで得たものは何も無かった。」

「ダベルフ大司教殿、モルゲス=ヘイドラー、という男をご存じないか?」

「聖騎士殿、何故その名を?」

「知ってるのか、大司教!」

「ケイン君、仲間の方々も呼んできたまえ。」


一行は、ダベルフ大司教、聖騎士アンリの同席の元、モルゲス=ヘイドラーについての情報を得る。

「内乱の10年の時代、私は戦争物資の調達で莫大な財を成しました。スザリ司祭長の方は王都を中心に広く人脈を作って行きました。内乱では実に多くの人材が失われました。北王軍は、その間隙を突いて、2年前の戦争を引き起こしました。『ハーベスター』計画は元々は失った人材に変わる新しい兵器でした。そのプランの草案者の名が、モルゲス=ヘイドラー。ですが、彼の草案は難解で実現は皆無であるという判断が下され、スザリ直下の研究機関でさえ、絵空事と半ば忘れ去られた研究となっておった、と聞いております。生憎と私はこの者とは面識はありません。内乱の最中消息を絶ったとは聞いておりました。ですが、2年前、あの戦争が終わった直後、ヤツが現れ、『ハーベスター』を完成させたのです。私は、女神に背く愚かな行為だと強く非難しました。しかし、スザリが王姫ヴァネッサ様に近づいた事で、私の立場が逆に悪くなっていってしまったのです。そしてついに、『ハーベスター』

の刺客に私は襲われました。元々、聖騎士様に護衛役を依頼していた私は難を逃れましたが、

身の安全を第一に考え、騎士団員を増員し昼夜護衛をお願いしていた次第であります。」

「『ハーベスター』として憑依した聖霊は除霊が可能だ。なら、神聖魔法を多少使える騎士団員でも十分対応可能と考えたまでの事。」

「騎士様と女神官のカップル増加は、それもあったのね。」

すっかり回復したシアナが、感心したように呟く。

「ケイン君、スザリ司祭長をこの大聖堂まで連れてこよう。あの男が今回の首魁だ。騎士団も二名の人員を失う事になった。放置しておく訳には行かぬ。」

「良いのですか?聖騎士様自ら行かれるなんて。」

「スザリの持つ権力は強い。俺以外にヤツを表に引きずり出せるのは、南王陛下だけさ。」

「ありがとうございます。」

「出来れば、復員の件、考えておいてくれたまえ。君ならすぐにでも副団長に推薦しよう。」

「・・・考えておきます。」

「何、騎士団に戻るの?」

「ああ、元々の夢だしな。」

「アタシの夢はどうなるのよ。ケインと一緒に色々な冒険がしたい、って夢。」

「ヤダよ、ボクもまだケインと一緒に旅をしたいよ!」

「私は一度教会に戻ります。旅をする気になれば、いつでもお声をおかけください。」

「私はしばらくガロア牧師の教会に世話になる事に決めた。いつもで話は聞くぞ、若者。」

ケインは彼らの励ましに対し、ただ頷くだけだった。

「ケイン、俺の不在中に代役を頼む。ケントも部隊に戻らせる。俺と同じだけの給金は大司教に約束させた。」

「い、いえてすね。それは聖騎士アンリ様の実力を買っての事で・・・」

「払え。」

「判りました・・・」

「『ハーベスター』は、まだ現れる、と?」

「分からん。が、お前なら対処するだろう?」

聖騎士は立ち上がり、装備を整える。

「ケイン。あの時動かなかったのは、俺の失態だ。だが動いていたら兵卒のお前は死んでいただろう。」

聖騎士の言葉に、思わず涙ぐむケイン。

「貴方という男を知る事が出来て良かった。本当にそう思います。」

聖騎士は微笑み、一行に告げる。

「では後を託す。しばらくは戻れないと思ってくれ。また会おう。」


 二日後。

「どうしたの?ボーっとして。」

大聖堂で座り込み、ぼんやりするケインに、シアナが後ろから覗き込む様に尋ねる。

「いや、正直お前が好きだ。」

「はえっ?!」

「だけど南方騎士団に強い憧れを今まで以上に持ってしまった。聖騎士アンリと肩を並べて、敵陣を突破してぇ。」

「でも敵って北王軍よ?ギルドだって動くかも知れないわよ。」

「ああ、ソルディックやギーム、この鎧を安く売ってくれた防具屋のおやっさん。皆好きだ。」

シアナはケインの手をそっと握る。

「また、一緒に旅に出よう?戦争なんて放っておけばいいのよ。アタシは、少しでも長くケインと同じ時間を過ごしたい。」

ケインがシアナを軽く抱き寄せる。

「骨折の時は済まなかったな。」

「今は大丈夫。」

シアナは、ケインに身体を預けようとした時。

「危急の件である。ダベルフ大司教に取り次ぎをお願いしたい!」

「何だぁ?」

ケインは思わず立ち上がり声の方を見る

そしてスルーされたシアナは、勢いよく側頭部を聖堂の床にぶつける事になる。

「何だ、アンタらは。」

「私の名はルフィア=ラインフォート。危急の件に付きダベルフ大司教に取り次ぎを願いたい。ここに、王姫ヴァネッサ=スカーレット様から預かった書簡もある。」

「ルフィア・・・ルフィアお嬢様!」

「私を知ってるのか?」

「俺はラインフォート村に住んでいたケインです。騎士団に入団後はお会いする事はありませんでしたが、幼い頃は何度かお見掛けしました。」

「ラインフォート村のケイン、貴殿がクレミアの兄か!」

「え、クレミアをご存じなのですか。」

「おい、兄さんよ。何か運命の出会いっぽい演出してるけど、オレ達ちょっと急いでるんでね、大司教様に取り次いでもらえないかな?」

シュロスが二人の間に割り込み、小舅っぽい口ぶりでケインを追い払おうとする。

「何よ、急に立って・・・・って、シュロスじゃない!何でアンタがココに居るの。」

「うわっマジでシアナちゃん?!これぞまさしく運命の再会ってヤツ?」

「テメーも人の事言えねーじゃねーか、このバーカ。」


今日はここまで。次回も会える事を楽しみにしておこう。

私の名は≪アンノウン≫。誰も知らない物語を語る、語り部だ。

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