6.南へ

 さて、今日もここに訪れてきてくれた君に感謝を。物語における明確な“敵”の出現は、時に君達に興奮と哀しみを与える事になるかも知れない。だが今は冒険者達が、君達の期待を裏切らない活躍をする事を楽しんで待つとしようではないか。では、始めよう、冒険者達の物語を。


ズズゥン、音を立てて歩み寄る竜の死骸。全長はおよそ30フィート(9m)首の高さは20フィート(6m)に及ぶ、十分に巨体と呼べる体躯でケイン達一行を見据える。

「この聖堂自体の広さは十分にあるけど、石棺の影に隠れたところで石棺ごとブチ壊すわよ、アイツ。」

「さっきのゴーレムみたいにコアみたいな弱点は無ぇのか、ソルディック!」

「あのドラゴンは、吸収したエルフの女王の魔力を利用して構築されたものと思われます。

つまり、元々墳墓を荒らす盗掘者を罰する為に用意された竜の力を死霊術の力で受肉させた・・・」

「要するに弱点は無ぇ、って事か・・・。」

「先に“遅延”の魔法を皆さんに。次に“加速”の魔法を。僕の手持ちの強化魔法全てを全員に付与しますので、その後散開して下さい。くれぐれも相手の注意を引き付け過ぎないように。ドラゴンブレス(竜の息)だけは何としても回避してください。」

「いつもの落ち着きぶりはどうした?あの魔術師と会ってからどうも冷静さを欠いてはおらんか?」

心配するギームの言葉にソルディックは笑う。

「本当の僕は臆病で落ち着きが無い、ただの軟弱な人間です。それを準備と知識という仮面で隠してきただけなのです。」

「本当にそれだけかの。ワシ等を余り甘く見過ぎてはおらぬか?」

「え?」

ギームはソルディックを一瞥すると、ケインに声を掛ける。

「ケインよ、準備は整った。戦の合図じゃ!」

「おうよ、全員散開!ありったけの力をぶちかませぇ!」

かくして、ドラゴンゾンビとの死闘が幕を開けた。

「おらぁっ!」

ケインの斬撃がドラゴンゾンビの足元を払う。しかし、まさしく龍の鱗のような硬さの怪物の身体には中々有効的な一撃とまで届かず、一進一退の攻防となる。

「“加速”の魔法がなかったら、踏みつぶされて終わりだったな。“高速治癒”の魔法のおかげで多少の傷ならギームの魔法を借りるまでもない。色々引き出しの多い男だぜ、アイツは。」

何かを呟かないと足が止まる、そんな恐怖を踏みつぶす勢いでケインは次の一撃を振るう。

「風の精霊よ、刃となりて敵を切り裂け!」

シアナが風の魔法を唱え、ドラゴンゾンビに傷を与える。が、動きを鈍らせるほどの効果にはほど遠かった。

「まぁ、ゾンビだから期待はしていなかったけど。」

「氷の嵐よ!」

一方では、ソルディックが氷結魔法でドラゴンゾンビの足止めを狙う。しかし一度は凍り付くも、その強力な力で瞬く間に砕いてしまう。

「さすがに甘かったですか。これ以上高位の魔法ではケイン達も巻き込んでしまう。他に手は・・・。」

戦いの最中、ドラゴンゾンビは、大きく口を開けるとシアナにその矛先を向ける。

「いかん、ドラゴンブレスじゃ!シアナ、まともに受けたら死ぬぞ!」

ギームがシアナに逃げるよう叫ぶ。

凄まじい爆音と共に放たれる業火。シアナが陣取っていた場所全体が焼き焦がされ、残されたのは大量の瓦礫の山となった。

「ソルディック、シアナを探せ!あの娘の事じゃ、この程度でくたばるものか。」

「ギームさん、貴方はどうされるのです。」

「策がある。」

「策?」

「ケイン、ティム、聞こえるか?」

「ああ、シアナは無事か?」

「うん、必死だけど聞こえるよ!」

「シアナは心配するな。それよりお主たちにやってもらいたい事がある。ドラゴンゾンビの骨を1つ取り出してワシに渡して欲しいんじゃ。それでこの戦いは終わる。」

「それなら簡単だ。同じ場所を集中で狙っていたからな・・・そりゃぁっ!」

ケインは身体を回転させ、ドラゴンゾンビの左前足のつま先部分を切り落とす。

「ティム、持っていけ!」

「うん!」

ティムは暴れるドラゴンゾンビの攻撃を難なくかわし、つま先をギームに渡す。

「よくやった、ティム。時間が無い、離れて下がっておれ。」

「わ、わかった。」

ギームは、儀式用の簡易祭具を鞄から取り出すと、呪文を唱え始める。

「我らが崇めし戦神よ、民を律し悪を滅する万民の王よ。今ここに悪しき竜が民を脅かせり。・・・」

ドラゴンゾンビは、ギームの詠唱に何かを感じ取ったのか、向きを変えギームに襲い掛かろうとする。

「お前の相手は俺だろうがよぉ、浮気してんじゃねぇぞ!」

ケインは、そうはさせじと傷ついた前足を集中して切り付ける事でドラゴンゾンビの歩行を全力で阻止しようとする。

「・・・故今ここに、戦神の鉄拳が悪しき竜を砕き、民が救われた事を我は讃えん。喰らうが良い、“戦神の鉄拳”!」

ギームは、切り取られたドラゴンゾンビのつま先に自らの拳を振り上げる。するとどうだろう、空中から巨大な鉄拳が姿を現し、一撃でドラゴンゾンビを粉々に粉砕したのだった。

残骸となったドラゴンゾンビの隙間から何とか身体を捻り脱出するケイン。

「おお、生きておったか。」

「危うく圧死するところだったけどな。流石は戦神、やる事が豪快すぎる。」

「お、いかんいかん。ソルディック、シアナの方はどうじゃ?」

「シアナがどうかしたのか。」

「ドラゴンブレスの直撃を受けた。ヤツの事じゃから防御魔法で威力分散はしておるはずじゃが、崩落による物理ダメージは防ぎきれたかどうか分からん。」

「何ぃ!?」

ケインは急ぎ、シアナの居た場所へ駆け寄る。

「ソルディック、シアナは?」

「安心して下さい、命に別状はありません。ただ・・・。」

ソルディックの膝元には、わき腹を抑えうめき声を上げて苦しむシアナの姿があった。

「ドラゴンブレスの衝撃波で飛ばされた際、左わき腹を強打したようで。」

「なら、ワシの出番しゃな。痛みはすぐに引かんかもだが、治癒魔法をかけてやる。」

ギームの治癒魔法の甲斐もあり、やがてシアナは目を開く。

「骨折の痛みはまだ残るじゃろうが、時期に治まる。しばらくは安静にしておけ。」

「え、あのドラゴンゾンビ、どうしたの?」

目を丸くするシアナに、ソルディックが説明する。

「ギームさんのお力で無事討伐完了しました、」

「ワシでは無い、戦神の御力を借りたまでじゃ。」

「その、助けてくれてありがとう。」

「何、当然の・・」

得意げに髭を撫でるギームを突き飛ばし、喜びで涙を溜めたケインが割って入る。

「ケ、ケイン。」

ケインは無言でシアナを抱きしめる。

「良かった。お前を喪わなくて。」

「・・・」

ケインの言葉に頬を染めるシアナ。

「あの化け物が、あれほどの強力な技を持っているとは知らなかった。知っていれば、もっと近くにお前を呼ぶべきだった。」

「・・・!」

「だけど良かった。お前は凄いヤツだ、本当に。」

「ケ、ケイン?その言葉自体はとても嬉しいんですけど。」

ミシっ、と嫌な音がシアナの身体を駆け回る。

「アタシの骨、まだ折れてるの、折れてるんだってばー!」

「どうしますか、あの二人。」

「じゃれ合っているだけじゃ。放っておけ。」

のたうち回るシアナを横目にギームとソルディックは席を外す。

「怖かったか?」

「はい、怖かったです。ギームさんがいなければ、このパーティーは全滅していたでしょう。」

「お主は優秀な魔術師じゃ。が、経験豊富な冒険者とは言えん。特にパーティーの司令塔であるならば、誰よりも冷静でおらねばならん。が、今回のドラゴンゾンビ戦において、お主は特に策を出す訳でも無く戦いに臨んだ。」

「全くもって、その通りです。」

「ワシはあのネクロマンサーとお主にどんな因果があったのかは知らん。が、少なくともヤツはお主のその性格を突いて罠を張り巡らせるはずじゃ。・・・魔術師の戦いは化かし合いが基本、と言っておったな。次は必ず勝つぞい。」

「勿論です。この借りは必ず返します。ギームさんにも。」

「ホホっ。期待しておるぞ。」

「ねぇねぇ、見てこの王冠。たぶん、ここの王様のだよ!」

二人を見つけたティムが、飛び跳ねながら駆け寄る。

「どうやら、あのネクロマンサーは本当に金目当てでは無かったようだの。・・・ふむ、確かに見事な王冠じゃ。」

「どのみち手ぶらでは帰れませんから、僕達も探索しましょう。」

「そうじゃな。おーい、その二人いつまでじゃれ合っておるつもりじゃ。エルフのお宝の取り分が無くなっても知らんぞ!」

ギームの呼び声を聞いて、慌てて集まるケインとシアナ。

こうして無事宝物を回収した一行は、様々な思いの中、ウォルフスの街へ戻るのであった。

~~~

ウォルフスに無事戻った彼らは、休む間も無くメイヤーの館へと向かう。

「しっかし助かった~。墳墓までならまだしも、あのまま街まで歩け、って言われてたら絶望よ、絶望。」

「良く馬が逃げないでいてくれたよ。攻略自体1日程度で済んだのも大きかったけどな。」

「まぁ逃げてたら、ケインを変化魔法で馬に変えて走らせていただろうけど。」

シアナの毒のある言葉に、ケインは思わず嘆息する。

「まだ根に持ってるのか。嬉しさの余り、つい力を入れ過ぎた、って謝っただろう?」

「ええ、感動の再会も激痛で台無しになりましたけどね。」

「はい、痴話喧嘩はそこまでにしてください。メイヤー邸に着きました。いいですか、相手は今回の依頼人なのですから、くれぐれも騒動は起こさないで下さい。」

ソルディックが同席する二人に釘を刺す。

「俺か?」

「他に誰が?」

「努力はする。」

「お願いします(笑)」

そして一行は手に入れた財宝を手に、館へと入っていく。

再びメイヤーと面会する事となった一行。

「これだけの財宝を持ち帰り、私からの依頼を完璧に達成した割には表情が優れませんな。」

メイヤーは、さも不思議と言わんばかりにケインに話しかける。

「ああ、依頼は達成した。だが邪魔が入った。モルゲス=ヘイドラーと名乗った男。奴は俺達“冒険者”の敵と自称した。心当たりはあるか?」

「・・・モルゲスという名に覚えはありませんが、ヘイドラーという家名なら覚えています。」

「教えてもらえるか?」

メイヤーは一瞬、横目でソルディックを見やった後、再び目線をケインに戻す。

「先の戦争以前、南北融和の一環として行われた交換魔法留学生。その一人としてヘイドラー家の者が南へ留学した際、そのまま内乱に巻き込まれ行方不明になった事件があります。」

「魔法留学生?!」

ソルディックは思わず声を上げる。

「続けてよろしいかな?」

「申し訳ありません、どうぞ。」

「ヘイドラー家は、成り上がりの商家でした。家の期待も高かったでしょう。しかし跡継ぎを失って以降、南の内乱に乗じた好景気にも乗る事が出来ずそのまま没落して行きました。」

「今は?」

「私の耳に入らない、という事は離散した、と考えてよいでしょう。姓を持っていても、このように霧散してしまう家系は幾らでもあるものです、ケイン君。」

「引っかかる言い方だな。」

「気に障ったのであれば失礼。私の知る限りでは、情報はこの辺りが限界だ。まだ質問はあるかな?」

「ある。モルゲスが冒険者の敵、と言ったのは、ギルドの敵、とイコールじゃねぇのか、って疑問だ。ギルドへの出資にヘイドラー家も絡んでいた可能性は?没落の原因にギルドが一枚嚙んでいたとしたら、モルゲスにとって、アンタらギルドスポンサーも敵扱いにしてんじゃねぇのか。そうなれば、俺達の失敗はアンタの信用失墜とイコールになる。メイヤーさん、アンタ北王陛下を疑ってるんじゃねぇのか。」

ケインは身じろぎせず、じっとメイヤーを見つめる。

「ケイン君、君の直感は時に自分自身を殺すかも知れませんよ。残念ながら、私は君に答えを提示する事はしません。が、一つだけ教えましょう。私はいつでも北王陛下の忠実な相談役です。」

「分かった。報酬の準備は?」

ケインは立ち上がるとセバステに問いかける。

「はい、ここに。」

セバステは5人分の宝石箱をケインに提示する。

「ケインどこ行く気?食事もあるのに。」

「家に戻る。やっと分かった。この男とつるむのは危険だ、って事がな。」

捨て台詞を残し、一人ケインは館を出ていった。

ケインの家。

「ちょっと、いきなりどうしたのよ?あのオッサンが胡散臭いのは今に始まった事じゃないでしょ。」

「胡散臭い、で済めばな。・・・近いうちに、北王は南進するつもりだ。」

「・・・って、戦争する気?」

「俺を北方騎士団に誘ったのも、自分の手持ちの冒険者への目利きの自信からだろう。」

「で、どうするのよ。荷物をまとめて。」

「南へ戻る。モルゲスの事を調べて、アイツを追う。アイツだけは危険だ。」

「南!?じゃあ、ギルドはどうするのよ!」

「抜ける。だからお前とはここでサヨナラだ。この家はお前にくれてやるよ。」

「・・・本気なのね。」

「ああ、リーダー失格で済まない、と皆に伝えておいてくれ。」

シアナは、一つ大きく呼吸すると、指先に呪文を集中させる。

「お前、なn

「汝、石となれ!」

カチン、と靴ひもを結ぶ姿でケインは石と化した。

「しばらくそのままで頭冷やしていなさい。アタシはゴハン食べて来るから、留守番よろしくね。」

翌日。

石化は解かれたが、縄に縛られた状態で、パーティー全員による尋問が開かれた。

「話は全部シアナから聞いたぞい。」

「酷いよリーダー、ボク達を置いていくなんて。」

「貴方の直感が貴方自身を殺す、メイヤーに完全に見抜かれているじゃないですか。そんな相手を敵にしてまでモルゲスを追い詰められると本気で思っているのですか?」

「アタシはぜーったい逃がさないからね。」

仲間の厳しい叱責に、さすがのケインも頭を下げる。

「本当に済まないとは思っている。だが、アイツがギルドのスポンサーである以上、このままでは自由に動く事は出来ない。それにギルドを抜ける事は、俺が独断で決めた事だ。皆に強制するつもりも無い。」

「・・・分かった、アタシもギルドを抜ける。」

「シアナ!?」

「そもそも魔法の知識なんて欠片も持っていないアンタが南に行ったところで、どうやって調べるつもりなのよ。

「それはまぁ、王都に行けば何とかなるかな、と。」

「アンタねぇ・・・」

「ボクも付いていくよ、リーダー!」

「ティム?」

「ボクは元々、盗賊稼業で生きてきた。だから情報集めにも役に立って見せるよ。」

「済まねぇな、ティム。」

「ケイン君、心苦しいけど僕はギルドを抜ける事は出来ません。ですが、想いは君と同じ。

北王陛下の南進政策を何としても阻止出来るよう努力するつもりです。」

「ワシもソルディックと同じじゃ。ドワーフ族とて平和を望む者が大半じゃ。それを忘れんでくれよ。」

「ああ、もちろんだ。これが最後の別れって訳でも無いんだ。いずれまた会おう。・・・ところで、シアナさん?いい加減、この縄を解いてもいいんじゃないかな。折角の別れのシーンが台無しだ。」

「はいはい。」

シアナはティムと一緒にケインの縄をほどく。

ケインはソルディック、ギームそれぞれと固い握手を交わし再会を誓い合う。

「最後に。今後俺は姓を名乗る。」

「姓、ですか。」

「ああ、妹を探し出す事を諦めた訳じゃ無ぇ。南に行くならむしろ名乗った方が情報収集に好都合だと思ってな。」

「その姓は?」

「ケイン=ラインフォート。俺の故郷、ラインフォート村のケイン、って訳だ。」

「先の戦争で北王領が奪取した領土の村ですね。確かに旧名の村名であれば、情報が手に入る可能性も高くなる、良い案だと思います。」

「名残は尽きねえが・・・」

ケインは集まった仲間の前に手を差し出す。誰からともなく全員が手を重ね合わせていく。

「また会おう!」

「ええ、必ず。」

「勿論じゃとも。」

「みんな、絶対会おう!」

「当然♪」


一方、南王領王都では。

ヴァネッサが解呪の呪文を終え、クレミアが目を覚ますのをシュロス達は息を呑んで見守っていた。

「う・・・うん・」

か細い声を上げ、クレミアは目を覚ます。

「ここは?村のみんなは?」

「クレミアさん、ここは貴女のいた村では無く、南王領王都です。貴女に憑りついた悪霊を払う為、私達がここまで貴女を連れてきたのです。」

ルフィアは出来るだけ簡潔にここまでの経緯を説明する。

「村の、村のみんなは無事だったのでしょうか。」

「クレミアさん、村の名前は憶えているかしら。」

「南王領ラインフォート村です。突然戦火に巻き込まれて、恐ろしい騎馬兵が村人を次々と・・・」

「ラインフォート村?本当ですか!」

「どういう事だ、ルフィア。」

フィリスがルフィアに問いかける。

「彼女は2年前の戦争時に奇襲を受けたラインフォート村の生存者です。そして私の父が犯した最大の失態の犠牲者・・・」

「内乱を生き抜いた事で己の実力を過信した結果、北側の商人の情報を信じてラインフォート村の守りを手薄にした、か。」

ヴァネッサは、特に感情を込める事無く、淡々と呟く。

「父に進言した兵卒は何人もいたそうです。しかし父は聞く耳を持たなかった。」

「村は、村の人は・・・」

何度も訊ねるクレミアに対してルフィアは、静かに首を振る。

「亡くなりました。貴女以外全員。」

ガックリと肩を落とすクレミア。

「辛い事を思い出させてごめんなさい。私はルフィア。ルフィア=ラインフォート。領地は無いけど、貴女の知るラインフォート家の当主よ。」

「えっ、ラインフォート家のお姫様?」

「そんな大層な者では無いわ。ただ、色々あって今はこのヴァネッサ様の下、仕えているの。

クレミア、貴女の協力が必要なの。私達を助けて。」

「わ、私がですか?私は一介の神官で、ルフィア様の御力になれるような・・・」

「クレミアちゃーん、無事目覚めてお兄ちゃん嬉しいよ~!」

満を持して、シュロスがクレミアに抱きつこうと試みる。

が、クレミアは以前の切れ味を思い出したかの如く、シュロスを躱し右ひじ打ちをその腹に叩き込む。

「おぅぅぅぅ・・・」

「誰だ、お前は。私の兄はケイン兄様ただ一人。貴様のような軟弱な男が兄様を二度と騙るな。」

「喜べ、戦闘力は以前のままに戻しておいてやったぞ。」

二人のやり取りを見て、ヴァネッサは満足げにククッ、と笑う。

「ああ、そうだ。奴らの捜索に魔術師が必要だろう。一人腕の立つ者がいる。その者を紹介してやろう。」

「え、姉さん一緒に来てくれないんですか?」

「さっき、時期女王って話したでしょう!何で急にバカになるんですか。」

「ルフィアも釣られて言葉遣いが荒くなっているぞ。アホはうつるから放っておけ。」

冷静にルフィアを窘めるフィリス。

しばらくの間が空き、やがて三つ編みと大きな赤いリボンが特徴的な、少女ほどの身長のズン胴体形の女性が姿を見せる。

「えーっと、これってひょっとして?」

「まぁ、とても可愛らしい。」

「クレミア、ルフィアは決してお前を悪いようにはしない。手伝ってくれ。」

「はい、それは分かります。でも気持ちの整理が・・・」

4人が各々の反応を見せる中、姿を見せたのは一人のドワーフ女性だった。

「初めまして。メルルン、と言います。ヴァネッサ様のご好意で王都で呪術を研究してきました。よろしくお願いします。」

「呪・・・呪術?!」

全員が驚いた表情でヴァネッサを見る。

「ああ、彼女は呪術師・・・シャーマンだ。魔法大系の枠に当てはまらない、その特異な強さはお前たちにとって頼もしい存在になるだろう。」

「喜べ、お前の望んだハーレムパーティーだぞ。」

フィリスが容赦ない言葉でシュロスを切りつける。

「ああ、そうですね、果報者ですよ全く。」

シュロスは全く抑揚の無い声でフィリスに返答をする。

「だが、俺達の旅は始まったばかり。まだ見ぬ美女を求めて、行くぞみんな!」

(ある意味全くブレないな。それがコイツの強みか)

フィリスの嘆息も何のその、新たにドワーフの女呪術師を加えたシュロス達一行は、教会庁の闇を探るべく行動を開始するのであった。


今日はここまで。ついにケイン達は南へと足を向ける。シュロス達との邂逅はあるのだろうか。それは次回語る事にしよう。

私の名は≪アンノウン≫。誰も知らない物語を語る、語り部だ。


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