4.真紅の魔術師

4.真紅の魔術師

 さてさて、今日もこの扉を開いてくれた君に、まずは感謝を。今日語るのはパーティの参謀役でもある、若き魔術師の男の話だ。人は誰でも、自分自身を客観的に見る事は難しい。

それが、なまじ知恵者であるならなおさらだ。では、始めよう。冒険者達の物語を。


 古代遺跡墳墓へと向かう数日前の事。北王領王都にあるブルーノーカー邸。ソルディックは、書庫から収集した資料を片手に可能な限りの情報を得ようと調査に腐心していた。

「やれやれ、この時代となると門外漢ですし、文字を読み解くのも一苦労ですね。かと言って彼らに協力を頼めば、終わるものも終わりそうにありませんし。」

苦笑交じりに呟くと彼は一旦筆を置き、カップに入れた紅茶に口を付ける。

「こんな時、彼女は僕を助けてくれたでしょうか・・・」

コンコン、と、ドアをノックする音。

「どうぞ。」

ドアを開け入って来たのは、露出の高いドレス姿の女性だ。着こなしは慣れたものであり、以前から『女性』をアピールする職に就いていた事が伺える。これから外出の予定でもあるのか、見事なまでの装飾品で着飾る姿は、美しくはあるが上品さに欠けるというべきだろうか。彼女は焦りの様子を隠せず、ソルディックに話しかける。

「ソルディックさん?この間の見合い話の件、考えていただけたかしら。メルセンヌ家はブルーノーカー家と比べても格式ある家柄ですし、お嬢様もお年頃で貴方の事を随分慕っておられるようで、とても良い縁談だと私は思うの・・・」

女性は鞄から、見合い女性の肖像画を取り出し彼に差し出す。だがソルディックは差し出そうとした肖像画に対し、『パン!』と手でそれを叩き落とす。

「誰が頼みましたか?そもそも、父上が重篤の今、アナタは何処へ行こうとしているのです。

姉二人は、それぞれ格式ある名家に嫁ぎました。それは全て父上の尽力によるもの。一介の情婦であるアナタが出来る事ではない。」

「私は、ブルーノーカー家の正妻であり、義理とはいえ貴方の母親です!家の血脈を護る為、

こうして日々貴方が良縁に結ばれるよう社交界で活動する、母の苦労がわからないのですか?」

まくしたてる様に早口で言葉を返す女性に対し、ソルディックは冷ややかな返答を返す。

「アナタを母親と思った事など終ぞありませんでしたが。僕はすでに自分の食い扶持程度であれば十分に稼いでいます。元々、多少の贅沢をしてもこの家の資産は十分に残っていたはず。父上が倒れた後、それを散々食いつぶしたのはアナタでしょう?見え見えなんですよ、今度は花嫁の持参金をかすめ取ろうというアナタの浅ましい魂胆がね。」

「そ、そんな私は貴方の為に・・・」

「荷物をまとめるなら今のうちに。父上の命は数日も持たないでしょう。当主となる僕はこの家を引き取ります。アナタに分配する遺産は一切ありません。父上にそう、遺言状に書いていただきました。直筆で、ね。」

「貴方、何を・・・」

「僕は魔術師ですよ?意識の無い人間を操るなんて造作も無い事。だから、早々に出て行きなさい。ここに入ってよいのは、僕が認めた者だけです!」

ソルディックの怒気に恐れを生した彼女は逃げる様に部屋を飛び出して行った。

「・・・ふぅ。」

トスン、という音と共に、ソルディックはベッドに仰向けに倒れ、片手を顔に当てながら呟く。

「そう、ここは僕たちだけの遊び場。ヴァネッサ、君ももう何処かに嫁いでいったのかな。

僕は・・・まだ・・・独りだ。」


今より17年前。

北に忠臣、南に賢王が立ち、それぞれ善政を敷いた事で国家間の融和が促進する運びとなった。この政策を受け、南北それぞれの貴族達がこぞって南北間での姻戚関係を進め、この事は文化交流による産業の発展に大きく寄与する事となっていた。

ブルーノーカー邸、玄関前。両親と二人の姉と共に立つ一人の少年がいた。ソルディック=ブルーノーカー、当時10才。彼ら家族は北王領での魔法大系を学ぶ為に越境留学を希望していた貴族の娘を受け入れる為、出迎えていたのだった。緊張を隠す為か、いつものお気に入りの本を開きブツブツと呟くソルディック。

「ソルディック、いい加減に本を閉じなさい。直にお客様がご到着になるんだぞ。」

「許してあげてください。同世代の女の子が来ると聞いて、緊張して本が離せないのです。」

「ならば、なおの事。来るのは場合によってはソルディックの妻になるかも知れぬお方だぞ。」

「ええっ?!」

ソルディックは、思わず声を上げる。

「どうだ、気になっただろう?」

意地悪く笑う父親を見て、顔を赤らめたソルディックは再び本に目を落とす。

すると、豪奢な馬車が彼らの前に止まり、馬車から一人の赤髪の少女が下りてくる。

「ようこそ、長旅お疲れだった事でしょう。私がこの度ヴァネッサ様をお預かりするお役目を賜りました、セシル=ブルーノーカーでございます。爵位は北王領子爵。どうぞごゆるりとおくつろぎ下さいませ。」

「その様な固い挨拶は不要だ。むしろ、こちらの方が世話になる身、作法は一通り身に付けてはいるつもりだが、見苦しい点があれば何なりと指摘してもらって構わない。」

「確かに承りました。」

拝礼するブルーノーカー家の中で一人、本を手に直立したままの少年。少女は少年の前に立つと、おもむろに本を取り上げる。

「あっ、それ僕の・・・」

少年の前には自分より頭一つ分ほど身長が高い赤髪の少女が、取り上げられた本を掲げて真剣な眼差しで見下ろしていた。

「客人の出迎えにおいて、本を読むのが北の作法なのかな?少年。」

「ちっ、違います!」

少年は、叱責を受ける恐怖よりも何故か、その少女の持つ生命の輝きともいうべき美しさに見惚れていた。

「少年、名前は?」

「ソルディック=ブルーノーカー、10才。北方魔法幼年学校5年です。」

「正直でよろしい。」

少女は楽し気にクックッ、と顎に手を当てて笑う。

「という事は、来年学院に受験かな?」

「はい、学院に入りいずれは魔法大系の先生になるのが僕の夢です。」

「なるほど、立派な夢だ。そうなると無事入学出来たら私の後輩になるのか。」

「えっ?」

「ヴァネッサ様は南北交換留学生として北方魔法学院に入学されるのだ。いいかソルディック、二度と先程の様な粗相をするなよ。この方は、スカーレット家の御息女、すなわち賢王で知られる南王陛下の姪に当たる方、その様な高貴な身の方が我が家を留学中の滞在先として選んでくださったのだ。この先の事は分かっておるだろう?」

「その様な大人の都合はどうでもいい。長く付き合いたいなら、余り小言は言うな。」

普段は威張り散らしている父親を一言で委縮させてしまう彼女を見て、少年は思わず口を開く。

「あの、ヴァネッサ様はおいくつなんでしょうか?」

「少年、女性に年齢を聞く意味、理解しているのかね?」

ヴァネッサは、意地悪くソルディックに質問を返す。

「いえ、滞在ってどのくらいになるのかちょっと気になって・・・」

「仕方ない、教えてやろう。御年12才だ。」

「じゅうに、って。僕と2つしか違わないの?」

「そして、魔法学院の卒業は最短で8年。私は2年からの編入となるが、少なくとも6年はこの王都で過ごす事になる。」

「6年!」

「私の言った事が分かっただろう。姫君は学生寮に入る事を好まれてはおらぬ。ブルノ―カー家の栄達の為にもくれぐれも失礼の様にな。」

父親の一言に思わずへたり込む少年。

かくして、少年ソルディックと少女ヴァネッサは出会い、6年の時を同じ屋根の下で暮らす事となるのであった。

ソルディックの2人の姉は、母親似の従順で物静かな性格であり勝気なヴァネッサとの相性は当初から余り良いものでは無かった。どちらかといえば、昼は馬を疾駆(はし)らせ狩猟を楽しみ、夜はソルディック家の社交の場に混じり、両国間の経済格差改善についての持論を述べ大人を唸らせるなど、社交的であり且つ文武両道を地で行く彼女の存在は、次第にソルディックの人格形成に大きな影響を与える事となった。6年という歳月は、かつての内向的な少年の面影を消し、社交的で気品に満ちた青年へと大きく変化させたのだった。6年の間に2人の姉は南方の貴族の元へ嫁いで行った。二人の娘を見送った母親は、その寂しさの為か次第に部屋に籠る事が多くなっていった。

ソルディックの自室。

「ソル入るわよ。」

ヴァネッサはいつもの通り、ノックをせず扉を開け中に入る。そしてそのままベッドに腰を掛ける。

「・・・何か言いなさいよ。」

机を向き巻物に筆を走らせる手を止め、ソルディックはヴァネッサに向き直る。

「いつもの事でしょう?それより交換留学生として、一期生でも無い君が初の学士修得とは。その才には驚くばかりですよ。もっと時間があれば博士にも手が届いたかも知れないと思うと残念です。」

「次席だけどね。」

「君に首席での学士修得は出来ませんよ。君も経験した通り、この北王領は女性がこと学問において頂点に立つ事を認めません。主人の後ろに物言わず付き従い、家の一切を取り仕切る、残念ながらこれが北における良き女であり良き妻という硬直した価値観なのです。」

「南王領も同じよ。こっちで女性が最も称賛される事って知ってる?」

「子を産み育てる事、でしょうか?」

「まぁ、正解だけど、満点回答ではないわね。」

「手厳しいですね。では回答をお願いします。」

「子を“より多く”産み、その血を絶やさない事。より丈夫な子を産む事が女性の使命、と南王領の民は考えている。それがすなわち“豊饒を生む”につながるって。」

「間違ってはいませんね。」

「私の考えは違う。才能は平等じゃない。無能な男を王に据えるなら有能な女王が政を司るべきよ。」

「それでは血が絶えてしまいますよ。」

「それは他の連中に任せればいいわ。私は”王家の血を残せ“と強制されるのが嫌。その為に私は私を失いたく・・・ない。」

ソルディックは無言で立ち上がると、ヴァネッサの隣に座る。

「こうやって並ぶと、僕だけ大きくなってしまった感じがしますね。」

以前、少年の頭ほどの差があった身長は、今では完全に逆転していた。

「大丈夫ですよ、僕との結婚という父上の目論見は結局霧散してしまいましたが、南にお帰りになれば新たな出逢いが待っているはすです。君のその不安は6年ぶりの帰国によって王族に戻らなければならないプレッシャーからではないでしょうか。少しはおしとやかな姿を見せれば、君のご家族もきっとお喜びになると思いますよ。」

ソルディックは、普段と違うヴァネッサの様子に戸惑いながらも自分なりのフォローを彼女に試みる。

「本気で、・・・そう思ってる?」

ヴァネッサは至近距離から右アッパーを繰り出し、右隣に座っていたソルディックの左わき腹を強烈に抉る。

「ぐ、おぁ・・」

ソルディックは耐えきれず前のめりに倒れる。四つん這いの状態を辛うじて維持するのが精一杯の中、目の前に立つヴァネッサの足元を見る。

「6年過ごして気づかなかったとは言わせねぇぞ、オイ!何でお前なんだよ、何で最初に好きになった男がお前なんだよ。」

ポタリ、ポタリ、と雫が絨毯を濡らす。

「ヴァネッサ・・・」

「私には文武において才能がある、だがそれは私が“努力の天才”だからだ。だがお前は違う。

お前はただの“天才”だ。私は、その欲して止まなかったお前の“才”が憎い!」

ただ嗚咽するヴァネッサの声がソルディックの頭の中に刻まれていく。

「・・・部屋に帰る。邪魔をしたな。」

一通り泣き止むと、ヴァネッサは踵を返し部屋を去ろうとする。

「待ってください。」

ソルディックはわき腹を抑えるも、笑みを浮かべ立ち上がる。

「何だ、もう一発欲しいのか?」

「それはカンベンしてください。僕からも君へ伝えたい、僕も君の事が好きです。しかしそれは君とは違い恋愛の感情ではありません。」

「そうか、ありがとう。」

「判断が早過ぎます(笑)君に愛を語るには、今は条件が足りないのです。」

「条件?」

「国が乱れても、君を守るだけの力を得る事。」

「乱世になる、と?」

「ええ、近いうちに。」

「私はどうすればいい?」

「ご自身の父上をお助けください。君に群がってくる連中なら君自身で対処できるでしょう?」

「そうだな(笑)」

「僕の条件到達予定は未定です。でも、必ず逢いに向かいます。」

「私の言葉に答えてくれてありがとう。気の迷いが晴れた気がするわ。」

「では、お嬢様に“幸運の魔法”を。」

「それって、物理攻撃の命中精度を上げる魔法では?今ここで?」

困惑するヴァネッサをよそにソルディックは巧みに彼女を壁際に誘導する。

「あれ?まほ・・・」

ヴァネッサが言葉を発する前にソルディックは優しく唇を重ねる。

「失礼、“幸運のおまじない”の間違いでした。」

「お前、女性は苦手だと思っていたのに、学院での浮世話はホントのコトかぁっ!」

「さて、何の事か(笑)」

そしてこれが、二人で過ごした遊び場での最後の日となった。


ヴァネッサは北方魔法学院を卒業後、早々に南王領への帰路に就いた。そして1年後、災厄の序章が幕を開ける。賢王崩御、その知らせは南北の民に衝撃を与えた。およそ10年に渡って各王族が玉座を争う『内乱の10年』の始まりであった。その一方で北王領でも善政を支えた忠臣達が続々と天に召されていった。貴族政は世襲である為、一度腐敗すると汚染は一気に拡散する。北王領側は、南王領の内乱には関与せず逆に物資を巧みに売り付ける事で莫大な富を得る事に成功するのだった。しかし黄金の豊かさは、人々の心を貧しくした。多くの良心ある者が北王に陳情するも、密告による罪無き刑で処刑され財産を奪われた。多くの難民が越境を試みて、矢の雨の中、血の海に沈んだ。そして運と武力を持つ者だけが北王領への侵入に成功する。彼らは集まり群れを成した。強盗団【ウロボロス】の誕生である。一方、北王領王都において、民衆を守る為に立ち上がった冒険者による自警団が結成された。この組織が、幾度かの解体、編成を経て、後のギルドとなる。

ソルディック、22才の冬。すでに南での内乱は6年目に入り、商人達にとっては寝る間も惜しむ日々が続いていた。ヴァネッサが去った後、彼には不幸が続いた。20才の時、重度の鬱病が続いていた母が自殺。父セシルは、妻との関係がすでに冷え切っていた事もあり、妻の死後程なくして若い後妻を娶る。ヴァネッサと同じ歳ではあるが、何の教養も持たず、ただ父親に媚びを売る事だけに長けたこの後妻とソルディックが合うはずも無く、ただ黙々と勉学に勤しむ日々を送っていた。

ここは北方高等魔法学院学長室。

「本気かね?!ソルディック君。」

そう叫んだのは、北方高等魔法学院学長である。

「はい。大学院へは進みません。」

「学費の件であれば、奨学金という手段もあるのだよ?いや、君の御実家には無用な助言かも知れんが。今の君の学力なら間違いなく博士号に手が届く。しかも史上最年少でだ。博士として子供達に教鞭を取るのは君の夢だったはず。考え直してみないか。」

学長の熱心な説得に対し、ソルディックは寂しげに笑いつつ返答する。

「確かに、子供達に魔法大系の奥深さを知ってもらうのは僕の夢でした。しかし、大人達が

その夢を壊した。学長、学院憲章第4章『敵意を持って人に魔法を放つ者は、直ちに学院追放とする』・・・つまり、そういう事です。」

「兵役に志願するというのかね。しかし、温和で知られたはずの君が何故?」

「兵役には志願しません。ですが、もう行く先は決めています。」

「決意は堅いのだね。」

「はい。恨むのであれば、無能な北王陛下をお恨み下さい。」

ガックリと肩を落とす学長を後に、ソルディックは学院を去る。

「さて、では行きますか。」

かくして、ソルディック=ブルーノーカーは、冒険者としての扉を開ける事となる。


そして現在。

南王領王都ファザート。大聖堂にて待つのは4人の冒険者。

「ルフィアちゃん、ホントに大丈夫なんでしょうね?」

大聖堂の荘厳な空間に、シュロスは怯えながらルフィアに尋ねる。

「シュロスお兄ちゃんココ怖いの?」

クレミアが不思議そうな表情でシュロスの顔を覗き込む。

「いや、そんな事はないぞ、少しだけ怖いかもだけど。」

「大丈夫ですよ、今はシュロスさんの罪を裁く場ではありませんから。」

(それって大丈夫っていうんですかね・・・)

シュロスは思わず突っ込みたく気持ちを抑え、言葉を飲み込む。

「怖かったらクレミア、こうしてギューとしてあげるから。」

そういうと、クレミアはシュロスの右腕に抱きついてみせる。

(うん、クレミアちゃん結構胸があるから男としては非常に嬉しいんですけどね。)

「煩悩漏れてるぞ。やっぱりコイツも裁こうぜルフィア。」

フィリスが矢をつがえ、弓を弾く準備を始める。

「フィリスも落ち着いて。もうすぐ司祭長様がいらっしゃるんだから。」

ルフィアは必死にフィリスをなだめ、弓を下ろさせる。

「あ、誰か来た。」

しばらくすると、純白の司祭服に身をまとった壮年の男性、その後ろに真紅のドレスを纏った妙齢の女性が姿を見せる。

「私が司祭長のスザリと申します。先にバーグルの刑につきましてお伝えしましょう。本来であれば極刑であるところ、ルフィア殿の歎願を南王陛下がお聞き入れになり禁固刑に処す事となりました。」

「本当ですか!?」

「はい。そしてもう一つ、ルフィア殿の姓、再び名乗る事を赦す、との事。ラインフォートの姓、お名乗りください。そして来たるべき時に父上の無念を晴らすのです。」

「あ・・・本当に、本当に赦されたのですね。神と南王陛下に感謝します。」

ルフィアは司祭長に跪き、涙ぐむ。

「良かった・・・ルフィア。」

「貴女も名乗ってよいのよ、フィリス。」

「私はいい。」

「ならば、私から貴女に与えます。フィリス=ラインフォート。私と共に歩むのであれば、受け取りなさい。」

「以前のお嬢様が戻ってきたな。・・・仕方ねぇ、喜んで拝命致します。」

「オレはいらんぜ、ルフィアちゃん。」

「はい、分かってます。」

「で、白いオッサンよぉ。イイ話でまとめようとしてんじゃねぇぜ。」

「分かっているとも、若い方。『ハーベスター』の件、実情は教会庁も把握していないのだ。」

「はぁ?」

「“内乱の10年”の際、各地の王族が神聖魔法、秘術魔法、精霊魔法、様々な術式で兵士の強化を考案した。私達は神聖魔法にしか知己が無い。融合された術式には、解読する専門の魔術師の力が必要なのだ。なので今回特別にこの方に助力をお願いした。」

スザリに紹介されて前に姿を見せる、真紅の魔術師。

「でっ・・・でけえ。」

圧倒されるバストサイズにシュロスは思わず本音を吐く。

「ちょっ、も、申し訳ございません、大変失礼な事を。」

平服するルフィアに対し、女は笑い飛ばし質問する。

「で、司祭長に事の成り行きは聞いているが、同行していた魔術師はソルディック=ブルーノーカー、で合っているか?」

「はい、確かにそう名乗られました。とても実直で勇敢な方です。」

「実直で勇敢ねぇ・・・」

女はクレミアの前に立つと優しく語りかける。

「お嬢ちゃん、ちょっと目を見せてもらっていいかい?」

怖がるクレミアをルフィア達に支えてもらい、女はクレミアの瞳をのぞき込む。

「やっぱりね。アンタ達その男に一杯食わされているよ。」

「え?」

「魔術大系を学んだ者ならね、何が混ざっているか『感知』を行えば全貌が見える。当然解呪方法も分かる。ヤツは、こんな外道な魔法を使う連中がいる事を私に伝える為にアンタ達全員を利用したのさ。」

「ゴタクはいい、結局アンタで治せるのかよ?」

「治せる。ただし報酬はもらう。」

「何だよ、その報酬って。」

「『ハーベスター』で女官を兵士に仕立てる組織の殲滅に協力しろ。」

「へっ?」

「いつまで対等に話しているんですか、アナタは!」

珍しくルフィアが力でシュロスを押さえつけ、頭を下げさせる。

「いや、オレ南王領王都まで来たの初めてだし、こんなオッパイのおっきいお姉さん知ってたら忘れる訳ないって!」

「なら、覚えておきなさい。この方は亡き賢王の弟にして現南王陛下の御息女、ヴァネッサ=スカーレット。本物のプリンセスよ。」

「うげ、マジデ??!」


今日はここまで。彼らの物語はどのように絡んでいくのか。次回を楽しみにしてくれたまえ。

私の名は≪アンノウン≫誰も知らない物語を語る、語り部だ。








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