第一章:暁花公主
(1)
「ねえ、最近、宿下がりが多くない?」
私が世話係をやっているナランツェツェグ皇女……「華の民」の呼び方では暁花公主……は、昼食が終った後にそう言い出した。
「それは……その……」
「あなたの家族から病人なんて出てないみたいだけど……」
「え……えっと……ですから……その兄嫁が……」
「お兄様達の結婚相手や他家に嫁いだお姉様達の中に妊娠してる方は全く居ないようね」
「あ……あの……で……ですから……」
「男でも出来たの?」
「ち……違います……」
「あたしを騙したりしてないよね?」
「な……何の事でしょうか?」
「あたしが小さい頃、約束してくれたよね? あたしが大きくなったらサラーナのお嫁さんにしてくれる、って……」
「で……でも……私達は……女同士……」
「大丈夫だよ。あたし達『蒼穹の民』の昔の女族長の中には『妻』を持ってた人達も山程……」
「ですけど、ここは……」
一五〇年前、草原の遊牧民である「蒼穹の民」より「勇猛なる聖君」と呼ばれる英雄が出て、大陸全土を統一した。
しかし、流石に1人の皇帝が治めるには、この大陸は余りに広大過ぎた。
そこで、「勇猛なる聖君」の御子孫は大陸を複数の「皇国」に分割し「皇国連合」を作る事になった。
私達が住む「東方皇国」には皇族発祥の地も含まれ「皇国連合」に属する「皇国」の中でも言うなれば「本家筋」と見做されている。
ただし、東方皇国の主要5民族の中で、最も人口が多く、最も豊かなのは「華の民」であり、東方皇国3首都の1つ政治首都である「大都」は「蒼穹の民の地」や「翠河の民の地」への交通の便が良いとは言え、一応は「華の民の地」の北方に位置する。
要は、皇室と同じ民族の出身である私達も、大都で暮す以上は、ある程度、「華の民」の習俗を取り入れる必要が有るという事だ。
そして、「華の民」の習俗では、男同士のそのような関係は、容認されているが「若い頃だけの遊び」の範囲を超える事は不道徳とされ、女同士は……何故か大半の「華の民」にとっては「想像の範囲外」らしい。
「まぁ、いいけど、今日だけだよ。次は1ヶ月後。わかった?」
「は……はい」
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