出迎えてくれた家族、作られた家族

 王宮に到着した私達は、魔術師に出迎えられた。


「エタン様!」


 駆け寄る私の顔を見て、エタン様はほほ笑んでくれた。


「その様子では上手くいったようだね」


 最速で戻る予定だったので先駆けは出していなかった。エタン様は後ろにエルピディオが居る事に気が付いて戸惑ったような顔をした。


「なぜ、エルピディオ殿は自国に残られなかったんだ?」


 何と言っていいか分からなくて、顔を熱くして困る私を見て察したようだ。


「驚いたな! 断ると思ったのに⋯⋯まさか、無理強いはしていないだろうな」


 疑うようなエタン様の言い方に、エルピディオは困ったような顔をした。


「彼女の意思です。――と思ってるけど、本当にいいんだよね、フィルーゼ?」


 不安そうに確認される。


 エルピディオは今朝起きてすぐに部屋を訪ねてきて『昨日の事は夢じゃないよね』と確認した。その後も何度も、結婚の意思を確認された。


「どうしても、まだ信じられないんだ」


 私はその度に、一緒にいたい、結婚したいと伝えた。今回もまた、しっかりとエルピディオの目を見て伝える。


「私はあなたと一緒にいたい。結婚したい」


 エタン様はやっと信じてくれたようだ。でも深い、深いため息をついた。


「⋯⋯気の毒な宰相の息子は、間に合わなかったわけだ。もっと早く動いてくれていれば」


 この呟きの意味は、もっと後で知る事になった。


 エルピディオは別の場所に案内され、私はエタン様にレオン王国での出来事を報告した。かの国の魔獣の王の事は、特に興味深く聞いてくれた。


「私も会ってみたいものだ」


 他国の魔獣の王に会える機会など滅多にない。貴重な経験をさせてもらえたと思う。


「レオン王国に行く決断をしたんだね」


 それは、魔術院からも『あの方』からも離れること。不安が無いといえば嘘になる。でも私はエルピディオと外の世界に出る道を選んだ。


「『あの方』よりも大切な存在に出会うなんて、思ってもみなかった」

「恐らくそれは、私にとって国王のような存在なんだろうな」


 エタン様は少し寂しそうに笑って、私をぎゅっと抱きしめてくれた。


「君が私達の手元から飛び立つ事を喜ぶべきだが、今はまだ寂しさが強すぎる。魔術院の皆に伝えるのが辛いな」

「私がいなくなると、誰かが『あの方』の一番近しい人として選ばれて仕える事になるでしょう? 私の事を恨むかな」


 エタン様は優しく笑った。


「分かってるだろう? 『あの方』に仕える事を嫌だと思う人間が魔術院にいると思うか?」


 多分いないと思う。私だって、生涯魔術院から出られないとしても『あの方』に仕える事を幸せだと思っていた。


「ただし、君のように『あの方』よりも大切な何かを見つけた人間がいたら手助けをしてやろうと思う。それを見つける手助けもしてやりたいと思う」


 私はエタン様の目をしっかりと見て約束した。


「私はレオン王国で、魔力の強い人間が力を隠さずに国を平らかにする姿を見てきます。この国でも同じように出来たらきっと、魔術院の存在を明らかにすることが出来る気がします」

「君には、それが出来るかもしれないな。その時は私も他国の魔獣の王に会う事が出来るかもしれない」


 エタン様は遠くを見るような目をして、楽しそうに笑った。


 その後、国王と宰相に報告をして私とエルピディオの結婚は正式に進められる事になった。エルピディオの方も自国に帰って報告をしなければならない。


「君と離れたくなくて、ここまで来てしまったけど帰らないと。近いうちに迎えに来るから。本当は離れたくないし、僕もまたこっそり学校に行きたいけど、さすがに無理だ」


 エルピディオは渋々といった様子で、レオン王国に帰って行った。またすぐに会えると思うと、今度の別れは寂しくなかった。


 別れるまで何度も、レアンドルとクレマンに気を付けるように念を押された。レアンドルはともかく、クレマンの事まで気にする事がおかしくて仕方なかった。


 別れる前に何度も抱きしめてくれた。人目を気にせずに抱きしめようとする事には閉口したが、嫌がる私を見てエタン様がエルピディオを叱ってくれた。


「残りの学校生活を楽しんでね、僕のお姫様」



 私は魔術院で育ったので、この国の記録には存在していない。エルピディオと結婚するにあたって、正式な記録が作られる事になった。


「我が家の末娘という事になった。私は君の父になるんだ」


 宰相に少し困ったような顔をして告げられる。どうやら、宰相が他所でこっそり設けた娘という事になったらしい。


『お前なら、さもありなんと思われるだろうな』と宰相は兄である国王から言われたとこぼしていた。


(私がレアンドルの妹! あのレアンドルがお兄さん!)


 レアンドルが、この隠し子が私だと知る事は無いだろうけど、次に会ったら微妙な気持ちになりそうだ。


「エタンが、君が絶対に縁談を断ると言うから、あの話を進めようと思っていたのに」


 宰相はレオン王国との政治的な繋がりの為に、私にエルピディオとの結婚を受けて欲しいと言っていた。でもなぜか、私が引き受けない前提で進めようとしていた事があったらしい。


 これも、後で知る事となった。


 学校には明日から戻れる。三週間の休みだったけれど、数か月にも思えるような時間だった。学校の皆が懐かしい。私は明日の髪型とリボンをどうするか考え始めた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る