第20話 不安から不満へ?


 腹を立てる神の様子を渋い表情でうかがっていた側近は、ささやくように言った。


「神、聞けばあの男は過去に二度も転生を経験。しかしいずれも失敗に終わっています。ですのでそれが背景にあるのではないでしょうか?また、より神経質になっている可能性も否定できません」


 神は何かひとりで、ぶつぶつとつぶやいている。

 基本、自分の思い描いた計画通りに事が進行しないと嫌な性分なのである。


「――仕方がない」


 肩を揺らすほどの深いため息とともに、神は言った。


「もう半強制的に昇級試験を受けさせ、突破してもらう」


「試験自体は通過パスできますでしょうか?」


「あの程度ならば楽勝だろう。くだらない質問など、逐一わしにするでない」


「・・・失礼いたしました」


 そう言って側近はすごすごと引き下がる。

 だが、内心は穏やかではなかった。天道凛の異例ぶりを危惧しての、あの質問だったからだ。


 今日こそ何事も起こらずに普通に終わってくれよ――と側近は感じていた。




 引き続きシレナが天道の様子を見守っていた際、頭の中からある人物の声が意思疎通テレパシーを通じて響いてきた。


『シレナよ、聞こえるか。わしだ。態度は崩さずそのままの姿勢で耳だけを静かに傾けるのだ』


『神。ご用件は何でしょう。何なりとお申しつけください』


『単刀直入に言う。再度、天道凛を昇級試験に受験させるようにすすめるのだ』


『神。大変お言葉ですが、天道本人は今はやらないと意志を固めている模様ですが。それでも?』


『受けさせろ。わしからの命令だ』


『――』


『よいな⁉シレナお前、拒否すればどうなるか分かっているだろう?誰が案内人までの道を作ってやったと思っておる?』


『はい・・・承知しております。天道の件はお任せください』


『それでよい』


 そして、神からの言葉は途絶えた。


 シレナは唇を嚙みしめる。やるせない気持ちだった。

 実は誰にも話せていないが、心にもやがかかったみたいに気分がどこかすっきりしない日々が続いているのだ。


 もしや私は神に対して不安、いやの感情を抱いているとでもいうのでしょうか?

 あれだけ、尊重すべき存在だと天道には説明しておいて?


 シレナは自分自身に問いかける。

 だが、神への恩は十分すぎるくらいに感じている。神の導きがなければ、とうに存在すら危ぶまれたのは紛れもない事実だし、認めている。


 しかしそんな神に変化が顕著に表れだしたのは、何を隠そう天道が姿を見せてからだ。

 以降、態度というか口調というか、要求というか・・・初めて会った時に全身から感じた、寛大さが失われてきている気がしてならないのである。


 

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