第19話 最適な判断を
宝玉の変色と相まって、いつしか杖のみすぼらしさは消えてようやくデザインに磨きがかかってきた。一応、誰かに見られたとしても恥ずかしくはない感じにはなったかな、と思う。
「天道さん、どうされますか?中位への昇級試験を受けてみますか?」
「えっ」
突然聞こえてきたのは、まさに願ってもいない特別なことだった。
中位への昇級。
俺はその言葉を頭の中で反芻した。心が揺れる。
しかし――以前までの俺とは違うんだ。
ここは自分に鞭打って言い聞かせる。でも従来までの俺だったならば、いともたやすく目の前にぶら下げられたエサに喰いついていただろう。
そんな考えに至らずに済んだのは、もちろん傍にエルシャがいてくれたからだ。
エルシャとの交流を通じて、俺の物事を察する力だったり勘の鋭さは増した。実感はある。
エルシャも、今の俺の胸中を感じ取ったのか
『凛、まだだぞ、ここは。昇級試験は現段階では止めておいた方がいい』
『だよな・・・何となくだけど俺もそんな気がしてたんだ』
『あまり相手側の提案にのってばかりだと、思う壺だ。少しは、そう来るかと思わせる意外性も誇示する必要があると私はにらんでいる』
『分かってるって。まだ地盤固めは必要だって言いたいんだろ?』
『そうだ』
『了解』
改めて俺はシレナに向き直る。
「うーん・・・ごめん。考えたんだけどさ、ちょっとまだ試験には早いかなって。止めておくよ。確実にいける自信が持てるようになったらやろうと思う」
「おや?天道さんにしては珍しく慎重なんですね。私はてっきりふたつ返事で承諾するものかと」
「だって前にいた世界では、後先考えずにほとんど勢いだけで行動したから悪い結果を招いたんでしょ?失敗は活かさなきゃ」
「自らの力量を考慮した、いい判断だと思います。分かりました。試験はまた後ほどにしましょう。私に言えばいつでも場は設けてあげますので遠慮なく申してください」
「ありがとう、助かるよ」
最後に、素直な感想を伝えておいた。
シレナが天道の答えに納得していた頃。
遠く離れた地で傍観していた神は、しかめっ面をしていて虫の居所が悪いのが一目で分かる。
「なぜだ」
神は座っていた椅子のひじ掛け部分を、拳を振り落として叩く。ドンッという重低音が部屋に反響した。
「いったいなぜ、天道凛は早々に昇級をしない?私は最短で上に向かわせるように仕向けているはずだ!なぜ拒むのだ!全くもって分からぬ、分からぬぞ天道凛。下位のままでいていいのか?」
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