第14話 表れたものは


 浮力を利用して目的地へ移動する。

 途中、短い距離であるにも関わらず、体が浮く感覚に慣れなくてまごついてしまった。

 それでも無事に着地を済ませると「じゃあ、いくよ」と断りを入れてから俺は杖を構えた。


「どうぞ。天道さんには『失敗しないスキル』がありますので心配はいりませんがね」


 紅玉ルビーに光が宿る。


「『コール』!!」


 光球がやってきたので、手を添えた。

 これから人間の姿に形を変えて――いくはずだったのに。


 あれ?

 なんだかいやに違ってみえるぞ?


 手、足、頭・・・ここまではいい。普通だ。


 鋭いキバと、ツメ、眼光らしきものがみえてきて?え?さらには・・・尻尾?


「これは――・・・ドラゴン、だよね?」


「まさか⁉なぜ人間以外の種族がここに表れる⁉いやはや、全く信じられません」


 さすがのシレナも正気ではいられない様子。


「でも、ドラゴンっていうわりには・・・かなり小さくない?あっ、もしかして子供とか?」


 うん、そうだ。俺はひとり勝手に頷く。

 イメージされるドラゴン像の特徴的な部分はそろっているのだが、未熟というか未発達な面がちらほらと見られる。

 衰弱している雰囲気はない。だが、ここはどこなんだと柔軟な首を左右に動かしては不思議そうにしている。


「変ですね・・・」


 シレナは頭を悩ませる。


「どこが?」


「異世界でのドラゴンは群れでの生活が軸であると、どこかで聞いた覚えがあります。なので、その群れからなんらかの影響ではぐれてしまったと考えられますね」


「おい、お前、はぐれたのか?」


 物は試しに、俺はドラゴンに話しかける。そっと手を差し伸べても威嚇をしてきたりはしなかった。とりあえず警戒はされていないようで一安心する。


「ど、どうする?シレナ?」


「天道さんのには驚かされてばかりです・・・」


「この子ももちろん、案内すべき、なんだよな?」


 どういう経緯があったのかは不明だが、ドラゴンといえども一応、子供だ。来世にどんな結末が待っていようとも、俺の前にこうして導かれたのは何かの縁ではないかと思えてきた。


 なんて考えが浮かんできたら、放っておけないし先行きがいっそう不安になってくるというもの。

 シレナは不測の事態に目を閉じ、悩んでいた。


「では、こうしましょう。この子は天道さん、あなたに託します」


「――はい?」


 託す、だって?


「相変わらず原因は判明しませんが、天道さんの周りには常に不穏な空気が漂っている。もう認めざるを得ません。なにもこの子だって望んでこの場所に来たわけではないはず」


 俺を取り巻く、不穏な空気。

 それが悪い方に向かっていると言いたいのか。


 だったら・・・では?

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