第13話 実践(トライ)

 男は扉の向こうへと導かれるようにかつ、吸い込まれるように、ゆっくりと転生先の世界に歩を進めていった。

 そして男の姿が完全に見えなくなって扉が閉まり切ると、再び周囲は暗闇に包まれる。


「――というのが、案内終了までの一連の流れです。どうでしたか?」


「案外、かかる時間って短いんだね。五分くらいで終わった?」


「時間帯によっては転生者が押し寄せる場合もあるので、極力時間はかけません。必要以上にかけてしまうと、それこそ情けの念が混じってしまいます。たびたび繰り返しますが、私たちは平等な判断のもとに動いていますから」


「あとは――何回か唱えてたけど、呪文?は俺が思ってたよりも、単純だった」


 たしか『コール』とか『リライト』だったか。


 日常でごくごく普通に使われる、英単語そのものではないかと思ったのだ。


「いい点に気づきましたね、天道さん。その通りです。ここで使用される呪文の基本形は単語で構成されています。なぜかというと、私たちがいるこの空間は、天道さんがもともと暮らしていた現実世界の延長線上に位置しているからです」


 なるほど。どうりで、か。

 でも、納得いくようないかないような。

 延長線上とはいえ、距離的に近いのかは定かではないが、まぁ気にしないようにしよう。


「俺としては助かるかな。呪文って聞くとほら、長くて難しい感じの名前の印象が強いから。逆に短いと覚えやすいし」


「この調子で進めていきます」


 と、シレナが口にしてからは、続々と転生者がやってきては扉をくぐっていった。  

 転生は全員が全員できるわけじゃないと言ってたけど――でもこの多さって。

 改めて俺は、世界の至るところで命の火が消え続けている事実を思い知った気がした。


「これって、いつまでやるの?」


 まさか途切れるまで延々とやる、とは言うまい。


「時間で制限をしています。あ、もうそろそろ終わり頃を迎えますね。次が最後でちょうどいいくらいでしょう。せっかくの機会ですので、最後のひとりは天道さんが試しにやってみますか?」


「え、でもさっき、他の階級の人は介入しちゃダメだって――」


 許せるものなら試したいけれど。規則がある以上は致し方ないと思っていた。


「はい。もちろん不可です。しかし、下位の人でも案内がしやすい者の集まる場所に移動すれば、天道さんでもできます。だいたい、あの辺りですかね」


 シレナが指差した場所は、扉の右下部分。

 俺たちが今いるのが反対の左上。杖の魔法の力で浮いた状態でいるのだ。

 

 どうやらここは・・・同じ一帯の空間でもあっても、場所によって表れる転生者に違いが出てくるらしい。


 奇妙なつくりだな、ここ。

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