第12話 呪文発動


「天道さん、まずは当面の間は私に付き添っていてください。口で説明するよりも、実際に目で見た方が学べる点は多いでしょうからね」


 と、シレナは言った。

 

「質問」俺は手を挙げて聞く。


「なんでしょうか?」


「時々さ、俺自身がシレナの手伝いとして実践してみてもいい?練習も兼ねて」


「なりません。私と天道さんとでは階級が違うので、万が一を考慮して他階級の者の介入は禁止されています」


 黙って見ていることしかできないのか。それはそれでつまらない。


「質問する分には全然、構いませんから。気になる箇所があったら、その都度聞いてください」


 俺が落胆の様相をしていたと分かったのか、全てを否定しない言い方をしてくれた。


「では。今から案内を始めますよ――『』!!」


 唱えられたのは呪文か⁉


 シレナが叫ぶ声に起因して杖も光り輝く。光の発生する源は宝玉だった。さらに杖の先からは、円形の術式めいたものが展開される。

 術式は青白く発光しており、円の中心が渦巻いている。シューッと音を立てながら吸い込む勢力が徐々に増していき、やがてそこから光の結晶体がゆらゆらと姿を表した。


 感覚としての話だが、俺が杖を授かった時とどことなく似ている気がした。


「これは・・・?」


「はい。これが、これから転生を行う者の『魂』です。人間であろうともモンスターであろうとも、最初はこの状態から始まります」


「今唱えた呪文?は、魂を呼び寄せるための?」


「そうです。術名は『コール』。基礎中の基礎となる第一歩目のスキルです。天道さんも見ていて分かったかと思いますが、術式を展開させて発動させます」


 シレナは浮遊してさまよう結晶体に、手を差し向ける。


「解放!!」


 と言うと、やがて結晶体は形を変えていき――・・・人間の形になった。


 年齢的にはだいたい俺と同じくらいか。三十歳に達しているかいないかくらいの男の人。

 が、全身をざっと見て判断したところ、かなりやせ細っていて表情も憔悴し切っている。ここに来る前の世界であまり恵まれなかったのだろうと、容易に推測できる。

 あと、少しだけ同情もしてしまう。


「――さん、ですね?」


 第一に名前を尋ね、本人確認を行う。


「あ、はい・・・」


 口から出た声は、返事と呼ぶには小さくてひどく頼りないものだった。もっとも、ここに来たのは死んだこととほぼ同じ意味を成すから、誰もが基本こんな感じなのかもなと俺は思った。


 シレナと男でいくつか会話が交わされたあと、シレナが「『!!』とまた別の呪文を唱える。


 すると、ゴゴゴ・・・という地響きのような音がして、扉が開き始めた。

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