第11話 側近の悪寒
「なに。安ずるでない」
当の神は、こしらえた長い髭を触りながら答える。
さすがは神というべきなのか、そのしゃべり方にも独特の雰囲気があり、どこか低くて重々しい。だから貫禄も併せ持つ。
「し、しかし!!」
側近は未だ不安感が拭い切れずにいる様子。何かがあってからではあとの祭りである。落ち着かない気分になるのも無理はない。
「慌てるでない。安ずるなと言っておるではないか。静まれよ。わしはあの天道凛とかいう男を見込んだからこそ、あれを渡したのだ。それに、シレナも彼を見張っておる。問題はなかろう」
「シレナに一任にて、はたして大丈夫でしょうか?」
「お前は、どこが心配と言うのかね?」
「彼女は確かに腕の方は立ちますが、今回のように誰か特定の者に的を絞って教えを請うた経験はないのではと。私はその点を危惧しておりますゆえ」
お前の言うことも一理あると言ったあと、一度鼻から深いため息をもらしてから神は続けた。
「だが彼女には、得てきた知識や経験はある。そこを評価したまでだ。それに、あいつならば機転も利かせられる」
「神がそこまでおっしゃるのなら。
立膝をつきながら首を垂れる。
「我々の目的達成のためなのだ。極めて有効だと思った手段は、ためらわずに取り入れていく」
「――・・・」
はたして神の口にする、目的が現実のものになる日などやってくるのだろうか。
根拠などは一切存在しない。
現時点では、出口の見えないトンネルをひた走っている段階に過ぎない。
可能なのか?
神を人間の暮らす現実世界に転生させ、異世界と現実世界を自由にいつでも行き来できる道を開拓させるなんて。
でも――側近はさらに考える。
逆に、晴れて道が開拓されたとしよう。その場合は、お互いの世界はどんな変貌を遂げるのだろうか?
もちろん、たやすく叶うとは露ほども思っていない。きっとどこかで必ず障害が発生する。
あの杖と、神が見込みありとの判断を下した天道凛。
あれらに命運がかかっているのかもな、案外。
神の一族にのみ、脈々と伝わるあの杖の潜在能力は未知数だ。
杖に神を転生させるだけの十分な
神が手段を取り入れていくと宣言した背景はここか?と側近は予想する。
目の前で鎮座する神を見上げながら、側近は先行きの分からない方針に恐怖感を覚えたのだった。首筋からは嫌な汗がにじんでくる。体が自ずと良からぬ予感を匂わせている証拠だった。
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