第8話 階級について


 言葉を選ぶべきだった。


 後になって少々、後悔している。

 彼女が神の代行者という立場のもと、ここにいる事実がすっかり頭から抜け落ちていた。

 知り合いとかそういう感覚でいちゃダメだ。迂闊だった。注意しないと。


「そ、そんなんじゃなくて・・・だ、だって!ほら!シレナが持ってる杖は全然違うじゃん?同じ案内人なのに、ずいぶん差があるのはどうしてかなって思って」


 咄嗟ではあるが、思いついた言い訳がこれだ。


 しかし、杖の違いに関しては本当。

 シレナの持つ杖はスタイリッシュで、なおかつ近未来的なデザインをしている。見ている者からしても「かっこいい」といえるだろう。


「要となるこの杖は、経験値を積んでいくことで進化していきます。私が使っているものも進化を繰り返し続けて、たどり着いた結果です」


「経験値?どうやって積むの?」


「決まってるじゃありませんか?転生の案内をして、ですよ」


 ここで俺は頭を働かせた。


「例えば十人案内するのを達成できたら次のステップへ進める、みたいな感じ?人数が基準とか?」


 もし仮に予想通りだとしたら、ひたすらに数をこなしていけばいい。案内に限った話ではないが、人はやればやった分だけ慣れてくるというもの。


「一応、人数もステップを上げる基準のひとつとして数えられていますが、それが全てではありません。ただ回数を重ねるだけではいいかげんな案内を招いてしまう恐れがあります。そうなると私たち案内人の地位はもちろん、信頼も失ってしまいますから」


 心の中を読まれたみたいだ。たった今思ったばかりのことをあっさり否定される。


「理にかなっているね。じゃあ人数以外にはどんな基準があるの?」


「ここからは少々、内容が複雑になってくるのですが」と前置きをしておきながら、手に持っていた『導きの杖』を前方に掲げてみせる。


「まず、案内人には階級というものが存在します。階級は全部で三つに分類されてあります」


 三つ、か。多いような少ないような。判断が微妙で難しい。


「高い方から順に、それぞれ上位・中位・下位となっています」


 ウォン、と音がして立体的な三角形の図が目の前に表示された。シレナが杖を駆使して作ってくれたそれには、三階級の位置づけが示されている。

 シレナがこんな能力使えたなんて!あと「おっ!魔法だ!」などと、俺は逐一妙なところで関心していた。


 かつては、魔法を使っていた世界に身を置いていたくせに・・・はなはだ変な話だ。まぁ、記憶はないけど。

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