第7話 与えられたものは?


「さぁ、これから案内人になるための儀式を執り行います。心の準備はいいですか?」


「う、うん・・・いけるよ、いつでも」


 心の準備と言われてしまうと少し緊張する。おかげで心許ない返事になってしまったが、別に構わないのか俺の意志を確かめたシレナはゆっくりと頷き、目を閉じる。


「では始めます」


 両手を組み、何やら祈りのようなものを唱えている。聞き耳を立てていても言葉の意味は理解できなかった。

 最後に「神よ、天道凛に案内人としての心得とスキルをお与えくださいませ」と言って締めくくる。なぜかここだけははっきりと聞き取れた。


 すると、暗くて転生の扉しか存在しなかった空間に、まばゆい光の球体が俺の前に現れた。


「天道さん、手を差し伸べてください」


 と、シレナに言われた通り、柔らかい物を扱うように慎重に手を添えた。やさしく。包み込むイメージで。

 光が徐々に手に向かって近づいてくる。羽毛みたいに、ふわふわゆっくりと。


 そしていよいよ手の真上に到着したかと思った瞬間、光はぎゅっと凝縮され、形を変えた姿となって舞い降りた。


「これは――杖?」


「おめでとうございます。あなたは神による許しを得られました。大変誇らしいことです。手元にある『』は神から直々に授与されたものになります」


「『導きの杖って・・・?」


 いったい俺のどこに魅力を感じて、シレナの言うところの神に認められたのかは疑問だけれど、今まさに手にしているこの杖についても気になる。


 第一に、なんだこれ?


 全然、杖らしくないじゃないか。


 ボロボロだし、少し太めの木の切れ端と間違えられてもおかしくないほどだ。

 名前に『導きの』なんて付いているくらいだから、もっとなやつかと密かに期待していたのに。

 この見た目では調子狂うぞ。


「導きの杖なくして転生の案内は務まりません。必要不可欠であると同時に、杖は天道さんの今後の道しるべを示す手がかりにもなってくれるでしょう」


「ごめん、ひとつ聞くけど。大事な杖だっていうわりにはだよ?なんかこう――・・・みすぼらしくない?言い方悪いけど今にも折れそうっていうか、おとぎ話に出てくる魔女が持ってるみたいなやつっていうか」


 当のシレナはというと、返事をせず口を閉ざしたままだったが、こめかみのあたりがピクッと動いたのを合図に「聞き捨てならない台詞ですね」と言った。


「天道さんは神からの授与品を否定されるとでも?」


 シレナに、これまでになかった、ただならぬオーラを感じる。怒りのオーラそのものだ。


 ――やばいっ


 背中に冷たいものが走った。

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