第3話 彼女の理由②


「でも――・・・まだ話には先があるんでしょ?」


「はい、まだ終わりではありません。私としてはここからが聞いてほしいところです」


「聞いても・・・いい?」


 構わないと言ったはずです、と今度は表情に変化をつけることなく、再び話してくれた。


「私の祈りも虚しく、争いの場も激しさを増し、住んでいる土地も半分以上は荒廃と化しました。次第に追い込まれた私もいよいよ後がなくなり、これまでかと悟ったその時のことでした。私の目の前が突然、光に包まれたのです。包まれた光はまさに神々しくて美しかった」


「神々しい、光・・・」


 どんな光がはたしてシレナの脳内に浮かんでいるのか、俺は想像力を働かせてみたが漠然とした想像で終わってしまった。


「光は瞬く間に周囲を覆い尽くし、私もあまりのまぶしさに目を開けていられませんでした」


「その光はどこまで広がったの?」


 質問するとシレナはかぶりを振った。分からないらしい。


「範囲までは。ですが――」


「ですが?」


 思わず、ごくりと唾を飲み込み、喉を鳴らす。


「光が落ち着いて、目を開いたら、争いの痕跡が跡形もなくなっていたのです。町もすっかり元通りになっていました」


「えっ!?そんなことある?普通」


「私も不思議で仕方ありませんでした。気づかないうちに実は既に死んでいて、夢でも見ているのではないかと疑いに疑いを重ねましたね・・・あの時は」


 シレナは顎に手を添え、何か考え事をする時の仕草をしている。


「まぁ――そんな現実離れした出来事が起これば誰しもが夢だと思っちゃうよね」


「しかしどういうわけか、光は私だけを包んだ状態のまま、あとは消えていったのです」


「ますます不思議だね」


「光の中にいる私の耳に、声が届いたのは忘れもしません。その時です」


「声が聞こえた?誰の?」


 言ってから「あ、まさか」と俺は察した。


「聞こえたのは――・・・そう、です」


「神はなんて、シレナに言ったの?」


「『信仰心のある、正義感のある者よ。そなたには転生案内者としての務めを全うする覚悟はあるか?』とのお言葉をいただきました」


 と、シレナは胸の前で手を合わせながら言った。


「でもさ、怖くなかったの?ひょっとしたら声の主は神じゃないんじゃないか、とは考えなかった?」


「いいえ。疑いは神に相反する行為。ゆえに、そのような考えは微塵も生まれませんでした」


 務めを全うする覚悟か――俺がもしシレナの立場だったらどうしていただろう?信仰し崇める存在が突如目の前に現れたからといって、はいできますと即答はできないかもしれない。

 俺は少し落ち着かない気持ちになった。



 


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