再会するメインヒロイン

「お疲れ様~。どうだった? 剣道部」

「生活のしおり渡された。推薦入学の自覚を持て、だと」

「かたっ苦しいね~」


 朝の遅刻未遂も危なかったな。

 泰誠、ぼーっとしてるところあるからなあ。私が気をつけねば。


「お昼どうしようか?」


 やれ駅前に牛丼屋が並んでいるだの、今日発売のバーガー屋新メニューだの、他愛のない話が続いていた時。



 ふと、私たちの前に一人の少女が立ちふさがった。

 

 毛先がふんわりと丸まった金髪ロング。

 可愛い子にしか似合わない、ルビーレッド色の太いカチューシャ。

 薄い前髪。惹き込まれるほど青い、猫のようなぱっちりとした瞳。

 

 ――強烈な既視感。


「……あなた、『シバウラタイセイ』ではありませんか?」

「え、はい」


 彼女のためにあつらえたかのような、紺色チェックのスカートが揺れた。

 一般生徒の制服とは違う、彼女だけの特別な証、赤いリボンが胸元に光る。


 この、キャラデザは。

 ……廣井アイラ?



 嘘、どうして!?


 アイラとの出会いイベントは新学期が始まってからだ。

 入学式当日じゃない。


 それに泰誠の名前を覚えている、なんてこともない。

 落し物が見つからなくて困っているアイラを助ける主人公、ってのがアイラとの出会いイベントだったはず。



 そりゃあ勿論、多少のイレギュラーは覚悟してたけど……


 出会いイベントからして全然違うって、そんなのアリ……?



「やっぱり! では隣のあなたは、苗字は存じ上げないのですけれど、下の名前は『ユウ』ではございませんか?」


 わ、私の名前まで……?


 アイラとの接触は9年前の過去イベ以来。

 つまりあの時に、泰誠はおろか、名乗りもしなかった私の名前まで覚えたということ……?


 何もかも規格外でイレギュラーだ。

 これが<メインヒロイン>……。



「わたくし、ずっと会いたかったんです。あなたたちに」


 お、おお……?


 なんか……こう……

 運命の相手と再会したみたいな言い回し?


 9年前は友情度+5しか上がらなかったはずだけど。

 あの後、アイラの中で感情に変化が起きたのかな……?


 だとしたら願ってもないことだ。

 アイラルートなら、覚えられるスキルがみんなチート級なんだから!



「お父様から『芝浦泰誠』が推薦入学すると聞いて、お写真を見せてもらってから、もう居てもたってもいられずでしたの。お会いできてよかった」


 鹿見吉学園は、アイラの父親がトップに立つ財閥の関連業者が運営する私立高校だ。

 だからまあ……個人情報が娘に筒抜けくらいはあり得るかもしれない。


 ……あり得ていいのかな……。



 と、個人情報保護法に頭を悩ませた瞬間、泰誠が一歩前へ出た。

 泰誠が軽く広げた手が私の胸のあたりで留まる。


「……あの、どちらさまですか」


 あ、そういえばアイラ、まだ名乗ってなかった。

 私はキャラデザで分かったけど。


 迷子のアイラと出会ってからもう9年も経っているのだ。

 普通、分かるわけないよね。



「そうでしたわね。わたくし、廣井アイラと申しますわ」


 うんうん、名前を聞けば泰誠も思い出すだろう――


「……誰?」

「って覚えてないの!?」


 いや、まあでも、それはそうか……。

 どちらかというと9年前のことを詳細に覚えているアイラの方が異常なのだ。

 原作だって、2人は過去出会っていたことに気付かないまま再会するのだから。 


「……うふふふふっ」


 まぶしい笑顔が弾けた。

 これがメインヒロインの笑顔スチルか。


 ……あれ、なんか、謎のデジャヴを感じる……。

 なんだろう、何が引っかかるんだろう……。

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