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「いったでしょう? ここには例の三人が来ているんです。間違いなくここはそういうことを斡旋している現場なんです。その三人がいうイモート・ワークが彼女らと同じでなくてなんだというんですか」

「海堂さんは冬子が体を売ってたなんて本気で思ってるのか? 友達だったんでしょう?」

 妹は真っ当に金を稼いでいた。そう思う方がいいに決まっているだろう。友達なのに、そうは思わないのだろうか。海堂は「ええ、そうです。友達です」とどこか投げやりにいうと向き直って歩き始めた。しかし、そのまま敷地から出ていくわけではなく建物の角を奥に入り込むように曲がる。そこには道はあったが、それは狭く、手前から土地ギリギリ一メートルほどの隙間に室外機が並んで建物から突き出ており、境目には古いブロック塀が室外機の底よりも低くして置かれ、また一メートルとない幅で金網とこちらは隙間なくビルが建っている。流れる水の音。下を覗くと隣のビルの真下は深い水路で少なくない流水が陽の光に反射しているのがみえた。また室外機の地面には有象無象の雑草生い茂り、まだ季節は春だというのに湿っぽい感じがする。海堂はそこを、躊躇なくブロック塀に飛び乗るとなんとその隙間を横歩きに進みだした。秋人は周囲を気にして辺りを見回し、誰もみていないことを確認してからついていく。このブロック塀はかなり古いみたいで足元で靴の擦れたかと思うと、すぐに塀の破片が水音を響かせた。室外機の端を持つようにして三台越えると、続いて以降は室外機もなく広くなり、海堂はそこから少し進んだところでこちらを向いて待っていた。

 秋人はブロック塀を降りて地面に着くと両手についた室外機の埃を払って後ろを振り返る。表からは室外機のおかげで全く見えないだろう。向き直ると海堂に近づいて聞く。

「それで、なんでこんな場所に?」

「裏の通用口には警備員がいます」海堂はいう。「ですので中に侵入するのは窓からです」

 秋人は頷いて、それから海堂を二度見した。

「待ってよ。不法侵入するの?」

「逆にここに何をしにきたと思ってたんですか? さっきも一度入りましたがトイレには監視カメラを置かないタイプみたいですから大丈夫ですよ」

 そういうことじゃない。秋人は人目につきたくない話でもあるかと思ってついてきたのだ。海堂はそこの窓ですと自身の斜め上の壁を指差した。曇りガラスを張った窓が二つあり、片方の窓は開いているが、彼女の指が斜め上にあるとおり少し高い位置にあって、彼女は次にその下を指差す。そこには使われなかったブロックか、もしくはただここにあったブロックを三段積んで手が届くようにしてある。秋人は彼女を見る。その眼差しは強く、こういっているに等しい。私のいうことが聞けなければ帰れ。さながら女版碇ゲンドウだと思ったが、秋人はエヴァンゲリオンをちゃんと観たことがなかった。それでも知っているのはネットサーフィンの賜物である。しかし秋人はシンジでもなく、逃げちゃダメな理由もない。果たして秋人は不法侵入に——手を貸した。捕まれば自分たちが警察に捕まってしまうというのに。海堂から視線を逸らすとゴクリと唾を飲み込んだ。

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