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聞くったってなにを聞けばいいんだろう。イモート・ワークのこと? キョロキョロと入り口で突っ立っていると目の前に大きな顔面が飛び出てきた。
「お兄さん。ここは初めて?」
大きな顔面。目力のある大きな顔をした 社員の一人、名札には斎藤と書かれている 中年の男性が気味悪いくらい満面の笑みを浮かべてそう声をかけてきた。ウワッと秋人は驚き、「ええ、まあ」としどろもどろに答える。うだつの上がらない新社会人未満である。斎藤はやや早口に捲し立ててくる。
「そうですか。まあ、うちは求人も人材派遣会社を双方やらしてもらってましてー。お名前は?」
「あき……冬人です」咄嗟に偽名が出る。
「冬人さん! 冬人さんねー。珍しい名前だ。今まで働いたご経験とかございますか?」
「ないです」
「ありゃ? それではご年齢の方は?」
「じゅうく……二十九です」
「二十九! あーそれで無職だとまずいですもんねー。ま、今の時代、色々ありますからね! これから頑張っていきましょう! ね!」
後ろに手を回されて勢いのままに(力強く)窓口にご案内されていく。秋人はもうここが大っ嫌いになりそうだった。例え、パパ活組織の疑惑が無くとも。こんなところには来たくない。
「ご希望の職種とかあります?」
窓口は一区画がパーテーションで仕切られており、入り口から大分遠くなった端の方に座らせられた。ノートパソコンに何かを打ち込んでいる。きっと秋人のプロフィールで、質問の回答から「あなたにあった求人」でも提示されるのだろう。秋人にはお生憎ご希望の職種なんてものはまだない。いってみるならどこかの正社員、もしくは公務員がいい。
「ええと……稼ぎのいいところが」
「給料の高いところですね。他には何か、これは嫌とかありますか?」
「いや、特には」
「ではこんな感じで募集件数がありますね。どうぞスクロールしてみてください。ビビッと来るものがありましたらどうぞおっしゃってください」
いうと斎藤はノートパソコンの向きをこちらに向ける。パソコンに焦点がいって斎藤の貼り付けたような笑顔はそれでも主張が強く、彼はこちらの一挙一動を観察しているみたいでいい気がしなかった。パソコンには、まるでアルバイトの募集みたいに初任給や時給の書かれた仕事が載っている。「初任給四十万! 宿舎提供あり!」「初任給二十万! 昇給制、週休二日あり!」面白いことに殆どの募集案件にエクスクラデーションマークがついている。つらつら眺めていると、どうやら給料のいい仕事は二十万かららしく、それ以上のものは大半が住む込みの工場勤務など肉体労働が大半を占めていた。
秋人はパソコンに向けた顔のまま、目だけを動かして斎藤を観る。貼り付いた笑顔で待機しているじゃないか。秋人はこんなことをしても時間の無駄だろうと聞いてみる事にした。
「あの、イモート・ワークって仕事は稼ぎがいいって聞きましたけど、ありますか?」
斎藤が一瞬、笑みを消したことを見逃さなかった。でも、またすぐに笑みを作ると、
「イモート・ワーク? なんですかそりゃ? 多分、うちで始めたエモーショナルワークのことですかね? 最近人気なんですよ。ま、稼ぎがいいかといわれれば、出来高制なもんで人によっては稼ぎは良くなりますが」
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