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「そうです」海堂は肯定した。「しかし、中抜きを差し引いてもその収入は基本的に普通にアルバイトをするよりも高く、多額のお金を短期間に必要とする人ならそれこそ毎日やれば普通の水商売よりもよっぽど高く稼げますし、非合法ですから勤務制限もありません。しかもそこには未成年の性的サービスが含まれることも多々ありますから自身の体を厭わないならもっとです。ゲスい話ですが、未成年というのは高価値なんですよ。高価値の商品を放って置くほど人間の欲は弱くない。だから、こういうのはなくならないしすぐ組織化して利益を得ようとします。そもそもこれは古くは援助交際といっていました。悪いイメージがついて名前を変えたんでしょうね。でも中身はその頃と何も変わってはいないでしょう。古来より、買う人も、それを自ら売る人も。でも中でも本当にゲスいのは」

「それを組織化して儲ける人たち」引き継ぐように秋人が呟いた。横断歩道で止まっている二人は顔を見合わせる。秋人の表情は険しい。冬子がそういうことをしていたかもしれないからだ。「そうです」とまた海堂はいった。信号が青になる。

「さて、問題です」歩き出した海堂がいう。「多種多様な人が入れて、かつ全く怪しまれない会社とはどんな会社でしょう?」横断歩道を渡りきって二人はある建物の前で止まった。車と人通りの多い三車線ある大通り沿いで、見た目はこじんまりとした二階建ての箱物だが、衣装様々な人、私服であったり背広姿であったり、が絶えず出たり入ったりしている。今はもう四月だが、だからこそ、世の需要からあぶれまいとくる人も増えている時期だ。手前に立っているのぼりには、新社会人応援フェアの文字があった。秋人は答えた。

「人材派遣会社か」

 株式会社「ひとどれ」。全国区の求人兼人材派遣会社とは違ってあまり馴染みのない名前だった。

「ここがそうだっていうのかい?」秋人は聞いた。

「間違いありません。まず彼女はここに来て、他と同じく、人材派遣、つまりここから出勤するんです」以降は出勤と強調していう。秋人はなるほどと頷いた。なんてことはない。要はパパ活という派遣業をしているのだ。「彼女らはここで仕事用のスマホに持ち替えて出勤します。持っていたスマホの機種が変わってたのをしっかり記憶しています。それで命令に従って待ち合わせ場所に向かい、客をエスコートするんです」

「……冬子もそんなことをしてたのかな」

 秋人は眉尻を下げた。海堂は無表情のまま「イモート・ワークの中身はしれませんが、往々にして援助交際しかりパパ活しかり、そうとわからないように名前を変えているのはありえることです」といった。

 人材派遣会社には通常、窓口があるので会社入り口から堂々と中に入る。だが入ったのは秋人一人だけだ。海堂は「私は他に色々と見てきますので秋人さんは中で適当に話を聞いてください」といってどこかにいってしまった。近々ここにお世話になるかもしれないがそうなるには最低でもあと二年はいるし、大学に在籍しているとこういうところから大学に直接求人が来て、結局ここへは来ないこともままある。ここへ来るのは希望した求人がなかった場合か、在学期間中に仕事にありつけなかった場合だ。社会から外された人が来るところ、そういう感覚だったのであまりいい心地はせずに中に入ってみると、エントランスは吹き抜けになっていて役所か郵便局みたいな窓口が正面に並び、反対側には丸い机がいくつか、その殆どは背広に名札を下げた会社員と求人票を真剣に見つめる一般人のペアで埋まっている。

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