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「さ、もう冷め始めてしまったが、このカレーを食べてしまおう」と父はいい、秋人は父と一緒に冷めて汁気の薄くなったカレーを食べた。食べ終えた食器は食洗機へ。母の食べ残しはラップをして冷蔵庫へ。冷蔵庫は相変わらず中身がギッシリだったので入れるのに苦労した。食卓を片付け終えると秋人は今日は泊まらずに帰ると告げ、父は快く快諾してくれた。両親の寝室で母に声をかけてみたが反応はなく、かといって寝息も聞こえなかったので謝ることだけはして玄関から去った。マンションの入り口まで父が見送ってくれる。実は葬儀の後に自宅へ帰るときも父は見送ってくれていた。二人して他愛のない話をする。地元の野球チームが順調に勝っている話。父は(営業部とはいえ)技術屋であるから、その職場の話。父のところでも最近何年も更新のなかったソフトウェアを新しくしたらしいのだが、社内どころか社外でもエラーが減るどころか増えてしまって事務方、現場方双方エラー修正のために奔走しているらしいこと。父は笑い話のように話していたが、疲れた様子で帰ってきた理由はそれなのだろうと秋人は推測する。
エレベーターを降り、ロビーの中に入る。一枚目の自動扉を潜れば鍵が必要になるので父の見送りはここまでだ。秋人は「それじゃ。父さん。今日はありがとう」といって去ろうとして。
「あ」何かに気がついて振り向くと「また何かわかったら連絡するし実家に来るよ」と気を効かせた。
「これからも調べるのか?」父が聞いた。「今日会った彼女と一緒に?」
「もちろん。僕と一緒にね。冬子の自殺の直接的な原因を知りたいんだ。知ってあげたい」
冬子の友達の無念を晴らしてやりたいんだ。秋人はバイバイと手を振ると、自動ドアの扉が開く。「待て」すると、今度は父が呼び止め、秋人は振り返る。
「危険なことにならないか? 危ないと思ったらすぐに私か警察に連絡するんだぞ」
父の目には不安が宿っていた。秋人は、もちろんというと手を振って自動ドアを潜った。やがてゆっくりと扉が閉まる。消えたその背中に拭えない不安を感じて、春彦が溜め息を吐いた。
一章 終わり
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