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「それでは初めに彼女の学校内でのことを何も知らないと思うので、そこから説明しようと思います。私の、私達のいた高校では、冬子さんは色々と反抗的な生徒でした」
家でもそうだった。秋人は頷く。
「なので、同じような人達が集まって彼女もその中にいることが殆んどでした。言い方は悪いですが不良グループみたいなものの只中に。いつもつるんでいたのは三人いて時々他にもガラの悪い他校の生徒なんかと徒党を組んで騒いだりしていたと聞いています。私も先生と彼女らが何度も衝突するところを目にしてますし、そうこうしているうちに聞こえてきたんです。彼女らはいわゆる援交、パパ活なんかの普通の生徒がしないようなことをしていると」
中には麻薬をやっているとかいう話も聞いたという。いつもつるんでいた三人。秋人は冬子の葬儀にいた例の三人を思い出す。彼女らでまず間違いないだろう。秋人はこれにも頷く。冬子が中学校の頃からそういう友達が多いことを知っていたし、彼女達ならやりそうだと思った。思いたくないが。海堂は続ける。
「そんな噂の絶えない人達でしたから誰も近寄ろうとしなかったんです。でもある日……その」
海堂は言い淀むと周囲に目線を巡らせてから顔を近づけ小声でいった。
「私が書いた手紙を読みましたでしょう? 私はどうしても字が上手く書けないんです。それが冬子さん以外の三人には面白かったらしくて……」
つまり、海堂は三人からいじめられていた。彼女から貰った手紙の字は確かに、その対象となってしまうだろう。だってそういうものだから。かくいう秋人だってつい先ほどまでその字が十代後半の真面目で頭の良さそうな女性のものであるなんて考えもしなかった。海堂はいう。
「昨年の十月のことでした。その前からずっと続いていたんですが、三人にからかわれていたところを冬子さんに助けられたんです」
聞けば自分のノートを取り上げられてみんなに見えるように黒板に貼り付けられたり、ページを切り取られて印刷され、友達間で回されたりしていたらしい。幼稚だが字が汚いということを気にしていれば気にしているほど心も傷つくだろう。現場を目撃した冬子は三人からノートを取り返してくれた上に三人を一喝したのだという。
「私はそれから冬子さんとよく話すようになりました。私を助けてくれた後、その三人と私のことで揉めたそうで独りになっていたみたいで色々と、その三人の悪口や自分のことを話すようになりました。その中で三人が実際にパパ活をやっていることや他にも怪しい噂を数点聞きました。身の上話なんかもしてくれて、あなたのこともその中で話していました。……御自分の家庭環境、ご両親との関係がよろしくないことも」
秋人は同情的な目をして頷く。どこの学校もそうだろうが虐めは絶対にある。ないという人はそれが見えないだけで。かくいう秋人も虐めを目撃し、また今思い返せばあれって虐めかな、という行為を受けたことも少なからずあった。海堂の話には大いに同情したし、また虐めと戦って既存の友達と対立までした冬子を——秋人は胸の中に熱が灯るような感覚がさせながら海堂の話を聞く。
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