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「それでその中で冬子さんはいってました。彼女らみたいに仕事をしているんだと。今お金を貯めていて、高校の卒業と同時に家を出て行くとも」
仕事、とはイモート・ワークのことか。冬子が家を出ていこうとしていたというのは初耳だったが、そう考えていても何も不思議じゃない。秋人は母と冬子の喧嘩をよく聞いていた。しかし、そこからは出て行けなかった。
「その四ヶ月ほど後のことでした。もうその頃にはその三人の友達と冬子さんは和解していて、私はそっちの輪の中には入りませんでしたが、冬子さんと私の関係も続いていました。それであることが自殺する一週間ほど前にあったんです」
「そのあることというのは?」
秋人は聞いた。まだ例のイモート・ワークという言葉は直接出てきていない。
「放課後のことです。私と冬子さんはいつも放課後に図書室で待ち合わせていました。でも、その日は少し待っても来なかったので、気になって冬子さんの教室まで行ったんです。そうしたら、また例の三人の友達と冬子さんが言い争っている声が聞こえました。それも半ば掴み合いの喧嘩みたいな剣幕で冬子さんも三人も叫んでいました」
冬子の怒鳴り声。秋人は思い出す。キーキーいう声でなく、低めで張りのある声だった。母もまたそれに負けない、冬子がかき鳴らしたドラムだとしたら母はさしずめ巨大な和太鼓。二人の喧嘩はいつもこの声の張り合いになって、最後には両者とも物別れのまま終わる。解決するところは聞いたことがない。自分が家を出た後でも、冬子が家を出ようとしていたというならやっぱり解決はしなかったのだろう。冬子はとうとうその怒号を学校でも使った。
「聞き取れた限りではお金に関することのようでした。冬子さんは私の金を返せと叫んでいたことを覚えています」
それは恐ろしい剣幕で三人を怒鳴っていたので廊下の先の踊り場から数人が顔を覗かせていたくらいだという。そんなことがあってからというものの冬子は図書室にすっかり顔を出さなくなり、そして、一週間後には自宅マンションの屋上から飛び降りた。海堂の言によれば、三人との喧嘩は金銭トラブル。
海堂はここで一区切りつけるので秋人は訊く。
「それで、イモート・ワークというのはどこで?」
「今からお話します」
海堂はカップを持ち上げてコーヒーの残りを飲み干した。
「イモート・ワークという言葉を知ったのは私が彼女の自殺の原因が気になって彼女の周りを調べたからでした。まずは例の三人の友達を調べました。直前に言い争っていましたし、金銭問題があったからです。私は数日間彼女の内の一人に張り付いたり、隙を見て三人の内の一人のスマホを覗いたりしました」
秋人は驚き、彼女を訝しんだ表情で見る。他人のスマホを盗み見たことを何でもないようにいう。しかし元々の彼女の登場からして意表を突かれていたこと、他人のスマホといっても人を虐めるような奴のスマホを見るぐらいなんてことはない、因果応報と秋人は話を遮らないようにする。
海堂はエプロンの中央にあるポケットから折り畳んだ三枚のA4サイズのプリント紙を差し出してくる。受け取って広げると左上はきっちりホッチキスでバッテン印に止めてあって、一枚目、どうやらスマホの画面を写した写真を市販のプリンターで印刷したものらしく、二枚目、三枚目と捲っても同様だった。写真は拡大されたものであろうに解像度が良く、スマホの画面に映っていた情報通信アプリの緑と白の吹き出しの文字がはっきりと読める。それを上から順に読んでいく。すると、途端に秋人の二重が細くなって、妹の顔とそっくりになっていく。その様相を目にしながら海堂はいった。
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