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「その、調べた限り、よくある水商売というか、男の人の家に上がって妹のふりをしてお金を貰う……、パパ活みたいなものだと認識しました」
実は昨夜、秋人が検索サイトで調べてもその言葉を説明する場所はどこにもなく、アングラくさいインターネット掲示板の、信憑性のかなり薄い書き込みしかなかった。その内容も風俗的かつ退廃さに溢れるもので、到底、本当のことだとは思えなかった。それでも言葉としてはそれっぽいので一先ずこれを情報として捉えていた。あってますかと聞くと女性は小さく頷く。
「大方あってると思います。ではパパ活と同じく、性行為も伴う可能性があることもご理解いただけますね?」
秋人は口を固く閉じて頷いた。インターネット掲示板ではそれは性サービスであると書いてあった。また吐き気が込み上げてくる気がする。亡き妹のことではあるが、自分の妹がそんなことをしていたなんて考えたくもない。成人であったならまだしも(それでも嫌だなと秋人は思う)未成年で。それも金銭を伴う性交渉。例え仲の良くない家族であっても冬子がそんなことをしているなんて考えたくもない。それでもそう、やっていた可能性がある以上、頷くしかない。妹は不良だった。ややあって目線を幾ばくか下げて彼女に訊いた。
「……それで、それが自殺の原因かもしれないっていうのは?」
「それなんです。もしかすると、あなたの妹さんはそのイモート・ワークの所為で借金を負って、それを苦に自殺したかもしれないんです」
もしくは別の、もっと悲惨な可能性もありますが。彼女は付け加えた。秋人が怪訝な顔をして身を乗り出すように聞く。
「といいますと?」
「それにはまず、私がその言葉を知った経緯をお伝えしなくてはいけません」
彼女の口調は相変わらず事務的だ。秋人は頷く。妹の冬子との女性の繋がりが見えなかったからそれも説明されるだろうと思った。長くなりますが、いうと彼女は今一度コーヒーを啜る。秋人は抹茶ラテには手をつけずに唾を飲み込んで膝に握った拳を乗せて待っていた。ティーカップを置く。中身はもう殆んどない。座り姿勢の正しい女性は秋人と目を合わせた。小さく息を吸う音が聞こえる。彼女はいった。
「まず、私は妹さんの冬子さんと同級生です」
「え?」
口から突いて出ていた。「え?」女性は聞き返す。秋人は即座に「あ、いや。なんでもないです」と湧いて出た質問を飲み込んだ。若いウエイトレスの年齢は判らない。彼女は咳払いをして続ける。
「そういえば自己紹介がまだでしたね。私の名前は
ペコリとお辞儀をする。秋人もつられて返す。
「あ、どうも。僕は冬子の兄……だった。田崎 秋人です」
「存じています。冬子さんからお話を聞いていましたから。聞いていたお話通り冬子さんとそっくりですね。この店に入ってきたときは冬子さんがきたと思って本当に驚いたんですよ」
冬子と同い年とは思えない言葉遣いでいうと微笑みを浮かべる。凄まじく綺麗だとはいわないが、こうして笑ってもらえば年相応の幼さも浮かぶ気もする。そんなことないですよ、と秋人は照れた。抹茶ラテに手を伸ばして飲もうと、チビチビしないで、意識して多めに飲む。口の中はもう熱くもないぬるま湯だったが、抹茶の舌触りと仄かな甘い味わいが美味しかった。
また一呼吸置いて、海堂が微笑みを消して語り出す。
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