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 秋人は目線をふと机の上にいく。そこには白いティーカップとソーサー。カップからは申し訳程度に薄く力無い湯気がまだ出ている。店主特性、抹茶ラテ。お値段は五六〇円。ケチな秋人は(下を張る関係もあって)長々と味わって飲むが、如何せん口に含む量が少なすぎて味なんて殆どしない。今回もカップを持ち上げて、チビ、と口を付ける位に少なく飲む。目線は閑古鳥に向けたまま。すると、カツカツという靴音が近づいてくるのに気付き、そちらを向いた。

 この喫茶店の奥行き、というよりこのビルの奥行きは思ったよりも広かったのだ。一番奥の入り口からこちらに伸びた通路に沿うようにカウンターが配置されていて、それを経て窓際に三つのテーブル席があり、秋人はその真ん中にいるのだが、この店は全体が少し薄暗く調光されていて、しかし窓際のこの席は差し込む日差しから、こちらに近くなればなるほど様子がはっきりと拝める。

 だから、近づいてきたのがこの喫茶店で、さっきまでカウンターの内側にいた女性店員であることがすぐにわかった。奥のカウンターにはもう一人、年配で白髪混じりの髪を後ろに流した白髭で肩幅の広い男性がいるのだが、生憎ここからだと人影しか拝めない。が、秋人が入り口から入って(薄暗闇の中)その男性に声を掛けたとき、彼は読んでいた本から鋭い視線を秋人に向かって投げかけると「ご注文は?」と愛想少なげにいった。低く、決して威圧する意図ではないにせよ、威厳がある声をしていて少し怖かった。それでも恐怖に負けないで抹茶ラテを頼むと、男性の目配せと共に作り始めたのがその脇にいたこの女性店員だった。

 茶のエプロンに上下とも黒いブラウスとスカート。後ろ髪を纏めたポニーテールで薄い唇、少し高い鼻、二重の瞳は綺麗なアーモンド型をして、虹彩は黒、その佇まいには落ち着きがあり自分よりも少し年上に思える。身長はカウンターで立っていたから秋人よりも少し高かった(秋人が平均を少し下回っている)。して、その実年齢は。自分より上なのは確実であるが、問題はいくつ程度上なのか。

 秋人は思う。最近の二十代から三十代後半までの女性の見分けは化粧もあるのかかなりつきずらい。特に仕事慣れをしたウエイトレスのような接客態度をされていては特にだ。彼女もその内の一人。きっと、きっと二十代後半程度。

 彼女は片手のお盆に湯気の立つティーカップを載せており、今自分の周りに他の客はいないので自分のところに来るのだろうとすぐに判る。カツカツと小気味いい音を鳴らして、結局、女性は自分の席まで来た。秋人が彼女を見上げる形になり、彼女は間違いなく自分を見下ろしているので目が合っている。ただし、その目には店員から寄せられる愛嬌というものをまるで感じなかった。

「「…………」」

 彼女から何かをいうと思って待っていた。目は合っている。彼女は中々目力が強い。しかし秋人のぱっちりお目目も負けてはいない。二人は少しの間無言だった。が、負けたのは秋人だ。

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