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 吐いたものは薬と水。それから胃液。袖で口を拭い、洗面台でうがいをする。顔を上に上げると鏡に目の下に隈を作った秋人の顔が一瞬映る。すると——その瞳がぐにゃりと歪んだ。鏡はできれば見たくなかった。後ろに冬子が写るような気がするから——ではなく、そこに映る自分の顔が冬子にそっくりだから。

 秋人の顔は妹に似ていたからだ。いや逆か。妹は秋人に似ていた。というより、二人は同時期に生まれたわけではないのにまるで双子のように瓜二つだった。秋人の身長は生前の冬子と同じくらいで妹が素っぴんで隣並ぶと本当の双子に思えるだろう(そうしたことがないから、いわれたことはない)。違いといったら秋人は二重の丸い瞳を細くする癖がないことであり、それ以外は鼻も口の位置さえもそっくりで(肩幅は秋人の方が広い)ちゃんと化粧をすれば妹と同等か、それより可愛げが出る(秋人はやったことはないが)。

 しかしだからこそ、あの顔が自分の顔にすら重なってくるわけで。秋人は鏡を見ないように視線を下に下げて顔を洗い、居間のソファに仰向けに倒れこんだ。天井は白く、マンションの新しさもあって綺麗だ。途端に微睡んでくるがこのまま眠ればまた冬子を見る羽目になる。テレビはつまらない。スマホを眺めるとむしろ吐き気が増してくる。真横のローテーブルに手を伸ばして上を弄り、ここに投げた郵便物の下に安い電化製品を特集した雑誌を見つけて無理やり引き抜こうとする。すると、引き抜きに失敗して下(つまり雑誌の上)から郵便物が下に落ちてしまった。秋人は「あーあ」と、でも直す気も浮かばず、なすがままに落ちた物に目をやる。と——

 落ちた内の一点に目が止まった。緑色の手紙。気が付けば雑誌を抜くのをやめてその封筒をとっていた。真上に掲げると灯りで透けて、中には便箋が入ってることがわかる。太陽のシールを剥がして中の便箋を広げた。中身は二枚。横書きで罫線が引いてあるため字は斜めではなかったが、代わりに漢字とひらがなの大きさが宛名書きよりもまちまちでまたミミズをくねらせたようにブレた文字。読み辛く感じたが、読めないわけではない。それに解読した中身は決して子供が送ったような文章ではないのだから得てして奇怪である。

 その手紙の内容を綴る。

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