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それをどう思うか。問われても答えは出ない。冬子は自分を嫌っていたのかも、案外慕われていたのかも全く知らないのだから。
葬儀までの日取りは早々と組まれ、冬子が死んだ二日後に執り行われた。
場所はいつもお盆に墓参りに行く父方の菩提寺で挙げられた。だからいつかの曽祖母の葬式と全く、記憶の中に残っている葬式の続きのようにも思えた。その記憶の中では黒い喪服姿の男女が大勢参列していて——冬子のときも同じ。ただし、冬子に関係あるか否かを問われた場合、その数は半分にも満たないに違いない。殆どの場合、秋人の父が挨拶をしていた。
父が淡々とした語りで冬子を偲び、延々と続くような読経が響く。静粛な儀式は現実の死をこれでもかと盛り立てる。しかし、結局この葬儀で悲しい気持ちに踊らされた人物は数える程しかいないだろう。
その理由はたった三人しかいない冬子と関係のある参列者が原因だった。冬子の同級生の三人らしく冬子と同じ学校の制服なのだが、着崩しており、その他の格好もまるで葬式という雰囲気では無かった。髪型を上げれば一人は長い髪を波がけて金に染め、もう一人は毛先から途中までは金に、他はブラウンに染めたショートヘア。黒一色の葬式だとそれだけでも目立つ。もう一人は二人と比べると長身で黒い髪を後ろに纏めていたが、やはり着崩した制服が目立っていた。しかも三人共終始肩を寄せ合って泣いており、その様がまともに悲しんでいるにしてもオーバーに思えるほどで所によっては葬儀を妨害しているんじゃないかと思えるほどだった。しかも三人ともアイラインに化粧をしているので涙が真っ黒だ。
その様子を見るにつけ、秋人は漸く湧いてきそうな悲しい気持ちを押さえつけられるような気がして、この冬子の関係者の三人には正直不快感を覚えた。他の参列者も同様で冬子の唯一の関係者であることから退出はさせられなかったが、母、夏子がまるでその泣き声が耳に入らないように俯いて啜り泣いていた。
その告別式の後、冬子は荼毘に付されて墓に入り、それから数日経って秋人は自宅に帰った。その当初、どっと疲れたように眠り、日々を緩慢に過ごし——初めて吐いたのはそれから二日後のことだった。
あの霊安室でみた異様な死に様と、バイバイと自分にいっていた顔が記憶の中で重なったのかもしれない。思い出の中の全ての冬子が、眼球の飛び出たあの冬子に置き換わって想起されるようになった。さらに、冬子は自分に助けて欲しかったなんていわないだろうことは百も承知なのに。それを夢に見るようになっていた。眼球の飛び出たグロテスクな姿で。折れた腕をぷらぷらさせながら、片足を引き摺って、少しずつ少しずつ近づいてくる。飛び出た眼球は垂れ下がってどこを見ているかわからない。それなのに、秋人の目を見てくる気がするのだ。見て、ただ助けてといってくる。一体何から助けて欲しいのか。秋人は何度も、後退りをしながら尋ねる。
でも何も答えてはくれない。秋人はその内壁に突き当たり、目の飛び出た妹に組みつかれる——いつもそこで目を覚ます。オエッオエッ。嗚咽を伴って。
本当に吐くこともままある。それがずっと続くので寝ることさえも億劫になっていった。
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