第33話 ごめん、私がフー君だよ
モルトに「壁粉砕」を見せた。
とりあえず、アックス家長男を名乗る盗賊達の装備、金銭を剥ぎ取った。長男君は一辺50メートルの大型収納指輪を持っていた。モルトに渡すため、頂いた。
大半が亡骸となり、生きてる奴も致命傷を負っている。そのうちオオカミレベル20にでも噛みつかれて終わるだろう。
◆
モルトのとこに行った。すでにキングダム工房主は事切れていた。
「助かった。ありがとうフラン」
「モルト・・」
「元親方の方は逆恨みだべ」
「話をしたのね」
「ああ。俺らが去ったあと、キングダム工房の評判が落ちたそうだ。そんで俺とフランを凝らしめるのが目的だった。前に仕事で繋がりができてたアックス家の長男と結託したそうだべ」
モルトがイラついている。
「それよかフラン、おめえ、やっぱり・・」
「そうよ。私がフー君。10年ぶりに会いに来たわ」
「そうか・・」
「怒ってる? 黙ってた上に、仮にもあなたと繋がりがあった人を殺したわ」
「怒り? ああ・・。そりゃ自分に対してだ」
モルトは結界石を使って防御しながら、敵と戦っていた。何人も仕留めるチャンスもあったそうだ。
「覚悟が足りなかった」
「覚悟?」
「ああ。フランから受けた仕事をすれば目立つ」
「ごめん。モルトを危険にさらした」
「違う。危険なのは承知で受けた。高位の仕事になるほど、リスクも上がるのは当たり前だ。なのに覚悟が足りねえから、襲ってきた人間に剣を向けるのをためらった」
「それは、あなたが優しい人間だから・・」
「それでフランに助けられた上に、フランだけに手を汚させた俺は卑怯ものだ」
「そんなの、私は構わないよ。もう、盗賊紛いの奴らをダンジョンに沈めてるし・・」
「女のフランが現れてから戸惑っとったが、フー君が男と思ってたのが間違いで、同一人物だと考えるようになっとった」
「・・」
「10年前のフー君との約束が、とうとう動き出すと思った。けどフランは名乗ってくれなかった。無理もねえ。覚悟も足りねえ俺じゃ、役不足だ」
「・・違う。私が名乗るとモルトを危険にさらすと思ったの。人だって殺してる。だから名乗るのをためらったの。だけどモルトを危険な目にあわせた。馬鹿だった。私の考えが浅かった」
「・・」
「絶対にモルトが情けないとか考えたこともない。私は、本当に、本当に優しいモルトが・・」
「え・・・」
涙が出た。そして何も言葉が出なくなった。
「そうだな。フランは俺のために必死になってくれた。言わなかったのも、俺のためか・・」
2人とも疲れ切っている。モルトは上級ポーションで傷は消えても、体力の限界が近い。私も昼間にMPを使ったあと、モルト救出に来た。だからMPが残り214で1割ちょっとしか残りがなく、少し倦怠感がある。
休みたいけど、ニスギルドではモルト襲撃の一報からから騒ぎになっていた。帰って無事を報告する必要がある。
「モルト、ニスの街に帰ろう」
「ダンジョン出て10キロか、頑張ってみるか」
「いえ、ここは違うダンジョン。ニスまで500メートルよ」
「・・特種スキルか。いいのか俺にばらして」
「初めて人に見せた。「壁削り」が進化して、ダンジョン同士を繋げた転移魔法のようなものを使えるようになったの」
誰にも隠していた秘密を話している。
「それがフランが強さの秘密の一端か」
「うん。ここを出てニスに行こう。詳しい話はあとでする」
モルトがふらついてたから、抱えた。
そのまま走ってニスの街に入り、冒険者ギルドに飛び込んだ。
◆
ギルドの中はざわついていない。
基本的に冒険者の行動は自己責任。クララ達「メタモル」の報告に一瞬は動揺が走ったが、ギルドも対応が難しい。
もしもモルトを助けに行くなら、ハードルが高い。戦闘職を含めた賊、約20人を相手にできる人数を集め、さらに誰かが経費を出さなければならない。
この中の人が冷たいわけではない。だから、クララ達だけが焦っていた。
「クララ、みんな、心配かけた」
私に寄りかかったまんまモルトが声を出した。
「モルト君!」
「モルトさん」
「メタモル」の女子2人や、モルトの顔見知りらしき人達が駆け寄ってきた。
「フランさんまで・・。まだ、モルト君を助けに行くって言って1時間だよ。モルト君が逃げ込んだダンジョンまで、10キロあったのに」
「それは・・」
「俺が自力で、賊からの逃亡を図った。街の近くまで来たとこで捕まったが、フランが助けてくれた」
モルトが「壁転移」の秘密がばれないように、話をごまかしてくれた。
「・・え、モルト君を助けに行った5人とはすれ違わなかったんですかね。いえ、無事で良かった」
「クララさん」
「何ですかフランさん」
「・・ごめん。今回の襲撃者は私絡み。巻き添えを食らわせたわ。ごめんなさい」
「え」
「いや、フランだけじゃねえ。俺も狙われてた。俺からも謝る、クララ、マリア」
巻き込んでしまったから、クリスタルナイフを出して、トラブルのことを説明した。
「そ、それじゃ。何十年ぶりにバミダ超級ダンジョンの素材を世に出したのがフランさんで、錬成を成功させた噂の錬成師がモルト君だったんですね」
「けどフランさん、お兄さんが捕まえた獲物を代理販売するのが役目だって今・・」
「そうです。賊の中にレベル80越えと思える斧持ちもいました」
「ああ、それね。「盗賊」18人は私が全員仕留めたわ」
「この短時間で?」
「うん」
モルトを守る防波堤になることを考えると、出し惜しみしてはならない情報がある。
「私、戦闘職じゃないけど、レベルは191あるの」
ざわっ。モルトまで驚愕の表情になっている。
「ダンジョンに潜るには強力な装備が必要。だから、信頼が置ける職人・モルトを傷つけようとした奴らを許す気はないの」
「ひゃ、191?」
「ちょっと、モルトに仕事を頼みたいから1週間くらい借りるわ。それから、これを受け取って」
今回、迷惑をかけた「メタモル」の3人には「盗賊」から奪った物資と金銭を50メートル四方の収納指輪から出して、丸ごと渡した。
助けに走ってくれた冒険者にも何か渡してくれと伝言した。
50メートル収納指輪自体はモルトに渡そうとしたけど、断固として断られた。
だから、中身を移しかえて20メートル四方の収納指輪を押し付けた。
モルトには2日ほど自宅で休んでもらって、一緒にダンジョンに潜ってもらうことを告げた。
その間、私はモルトの家には行かなかった。違う街の宿屋に部屋を借りて、ぼ~っと過ごした。
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