第32話 モルトごめんね

モルトを助けに行く。


彼と一緒にいた「メタモル」の男子だけでなく、4人の冒険者もモルトの救助に走り出してくれた。だけど、彼らから驚きの声が上がった。モルトが逃げ込んだダンジョンは10キロ東。なのに私は南西に向かったからだ。


私は彼らの驚きをシカトして、全力で「見当違い」の方へ走った。そして、ニスから500メートルと一番近い初級ダンジョンに飛び込んだ。


「壁転移」


座標サーチで向こう側も確認せずに、ツルタダンジョンに入った。その瞬間、ある男と目が合った。

「む、お前は」



「・・・殺してやる」



こいつの顔を見た瞬間、心が殺意だけで満たされた。キングダム工房の工房主だ。横にガタイがいい男が1人いる。


「この女、壁から出てきたな。入り口の真横に隠し部屋かよ。おい、どこから来た」


「・・モルトはどこ」私は近い方の185センチにクリスタルナイフを振った。

「おい、そのナイフ・・・」


ぼと。


やつが差し出した左手が落ちた。「うわああああ!」

腹を刺して放置した。


「工房主さん、モルトはどこ」

「き、貴様は」


右手の指に向かってクリスタルナイフを振った。


ざしゅっ。


「わ、私の指が」

「もういい」

両方の太ももを深く刺して、そのままにした。


MP200を耳に纏わせ、頭が痛くなるくらい集中した。


すると、確かに感知できた。2階への階段は幅10メートルの通路を50メートル行って右だけど、左に10人以上の反応がある。


そこは200メートルの通路を2回左に曲がって150メートルで行き止まり。


走ると面倒な位置。


だからこそ、即座に助けに行ける。私は「座標」を作っている。人に見られない場所が必要だからだ。


「壁粉砕」そしてまた同じツルタダンジョンの奥の座標を開けた。


開けた瞬間、モルトがピンチだった。地面に押さえつけられ、太い棒を腰にたたきつけられようとしていた。


思わず、モルトと棒の間に滑り込んだ。

ごんっ。


「うっ」

だけど、今はクリスタルドラゴンの防具を纏っている。攻撃を背中をモロに受けたのに、幾らかの振動だけ。すぐに起き上がれた。


「モルト!」

「・・フラン?」

首から下げた結界石の光が消えていた。少し前に魔力が切れたのだろう。顔が青い。


そして・・・


そして、何か所も殴られた跡がある。


「いきなり女が現れたぞ」

「アックスさん、そいつです。そいつがキングダム工房を侮辱した女です」

「て、ことはアックス家と弟にも舐めたまねをしたんだよな」


キングダム工房、アックス家、私がトラブった2つの集団。それがモルトへの災いとなって返ってきた。


「ごめん、ごめんねモルト」

「・・フラン、おめえ逃げろ。なんでこんなとこにいるんだ」


敵は15人くらい。魔法使い2人、剣使い12人、そして斧持ちの大男。私達がいるのは、後ろが袋小路で私が開けた穴が壁に開いている。迷う必要はない。

175センチのモルトを抱えて、袋小路の奥に跳躍した。


今なら人を抱えても大きく跳べる。


例によって、モルトを初級ダンジョンに連れ込んだ。そして右3メートルにあるセーフティーゾーンに寝かせた。


初めて「殺す気がない人」に壁粉砕を見せた。


「ごめん。これ飲んで。上級ポーションだよ」

「うくっ、うくっ。すまねえ」


「謝らないで。私が悪いの。すぐに仇を取って帰ってくるから。ここで休んでて」

「フ、フラン、やめろ。俺の仕返しなんていいから・・」


2人ほど、こっち側の境界線を越えようとした。


「クローズ」ざしゅっ。


1人が「壁ギロチン」をまともに食らって静かになった。


もう1人は、すでにこちら側。モルトに背を向けて、盗賊にナイフを構えた。


そして静かにさせた。


「え?フラン、今のは。それに、その構えかたは、やっぱりフー君は・・」



「行ってくる」



背中にモルトの視線を感じる。だけど「壁粉砕」を使った。

そして直前とは違う場所に「壁転移」した。最初に壁転移してきた入り口横から出た。


息絶え絶えのキングダム工房主が転がっている。そいつの服をつかんで、モルトから5メートル位置に投げ込んだ。


ダンジョン入り口の下に出て走った。そして急いで曲がり角を曲がり。やつらの逃げ場を塞ぎにいった。


最後の角を曲がって、幅10メートル、奥行き150メートルの通路。やつらはまだ12人いる。


だけど10メートルの通路は、私の狩り場だ。距離を30メートルに詰めた。


「もう逃がさない。命乞いも聞かない」


「どんな手品を使ったか知らねえが、この人数を見てものを言え」

「女、腰のナイフを渡すなら、見逃してもいいぞ」


「アックスもキングダムもうるさい・・」


「女を捕まえろ!」


許さない。許さない。許さない。



「殺してる」



敵は幅10メートル、奥行き30メートルのスペースに散開している。


左手前の盗賊に無造作に近づくと、剣を縦に振ってきた。それを交わして横に回り、盗賊1の右腕と脇腹を刺した。


「うぎゃあああ!」

「お、おい、避けただけに見えたのに、バグラが血を吹いてるぞ」

「本当だ。やべえぞ。金を稼ぐスキルしかない、弱い女魔法使いだって聞いてたのに」


壁の左側で3人目まで腹を刺すと、例によって2人が右をすり抜けて逃げようとした。


「壁ゴーレム」どんっ!


通路は10メートルだから15メートルの腕で壁ドンできた。1人は瞬時に伸びた大きな手のひらと壁の間に押しつぶされた。


1人をフェザータッチで捕まえて、袋小路の奥に投げた。高速で。


「お前、何のスキル持ちだ」

とうとうアックス家のやつに焦りが出てきた。


「あら、私のことを魔法使いって言ったのはそっちよ。本業は弱っちい壁使いで正解。近接戦闘力は、おまけ」


ゴーレム解除。


浮き足だった盗賊を1人ずつ刺して、あっという間に1人に減らした。


「くそう。お前みたいなやつにやられるか」

アックス家の長男とやらが斧を構えた。様になっているが、これは試合ではない。


充足感も何も与える気はない。ただ蹂躙するだけだ。


「壁ゴーレム」にょきっ。


2度目の壁ゴーレムで彼の脚をつまみ、ゆっくり握りつぶした。

「うわっ。うぎゃあああ!」


そして「私」の方にアックス家長男を放り投げた。


「壁ゴーレム解除」


自由になった私は、飛んできた男に全力のパンチを食らわせた。


アックス、キングダム合同盗賊団の討伐は完了した。



ここにいる全員と、キングダム工房主から金目のもの、身分証明になるものを剥ぎ取る。金目の物は今回の被害者モルトと「メタモル」の3人に渡す。


キングダム工房の工房主も置いているし、モルトのとこに戻った。



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