第34話 彼の目が直視できない
モルトの傷が癒えたとこで、彼のレベリングをすることに決めた。
本人の承諾は取っていない。完全に押し売りである。
レベル34のモルトのレベルを100超えにする。
前にも言ったが、この世界のレベルアップには癖がある。レベル70くらいで1度はハードルが高くなる。
だから、次の段階まで超えてレベル100に到達できる人間はかなり少ない。
もしもレベル100越えのパワーレベリングをやるにも、護衛が揃わない。場所も特種攻撃や強力スキル持ちの魔物がごろごろいる、危険地帯となる。
そもそもこの仕事、護衛側のリスクが跳ね上がる。だから、パワーレベリングを請け負う冒険者は、レベル50以上を望まれると難色を示す。
私は「壁転移」を見せることがOKなら、「壁ゴーレム」を利用して他人をレベル100越えにできるはずだ。
「フラン、どこに行くべか」
「・・付いてきて」
2日前、モルトを助けた直後と違い、今は彼の顔を直視できない。
嫌いではないのは間違いない・・
むしろ、彼が10年前に3ヶ月遊んだだけなのに、約束まで覚えていてくれて嬉しい。
なのに顔を見ると恥ずかしいというか・・。ダンジョンに潜れば元に戻れるのだろうか。
ニスから500メートル移動して、1番近いダンジョンから東に290キロのダンジョンに跳んだ。
「・・てきて」
「え?何て言った。フラン」
「付いてきて」
おかしい。ダンジョンに入って強気になったけど、相変わらずモルトが直視できない。
それに彼も口数か少ない。
モルトに説明もしないまま、18回も「座標サーチ」で行き先の状態を確認、そして「壁粉砕」。東↓南↓西と開けた座標を繋ぐこと4200キロ。国をまたいで、前に拠点にしていたシルビアの街から10キロ、懐かしのゴブダンジョンに到着した。そして5階に降りた。
「ここで休もう」
「ここは?どこ来たんだ、俺達」
「ニスから直線距離なら3200キロ南の、オルテガ国の南海岸まで来た」
「ええ!出発してまだ1時間くれえだぞ。あや、それがフランのスキルだったな。すげえ」
「うん、とんでもないスキルに開花したからね・・」
やっと少し話せた。けど、頬が火照ってきて、ゴブダンジョンのセーフティーゾーンで寝たふりをした。
1910から720も減らしたMPを回復させるため、6時間ほど休んだ。
3時間がたって、寝たふりをしている私の頬をモルトが撫でた。
「フラン、俺、お前に頼らせてもらうべ。強くなってから、恩返しさせてもらう」
ドキドキしたけど、幸せだった。
◆◆
6時間休んでMPも477回復した。
用意していた食事を出して、モルトと食べながら、やっと計画を話した。
「一緒に、クリスタルドラゴン、レベル239を何匹か倒すわ」
「ぶっ」
モルトが飲んでいたスープを吹き出した。
「げほっ。バ、バミダ超級ダンジョンに繋ぐ?俺は生き残る自信がねえぞ」
クリスタルドラゴンのマント、クリスタルナイフを渡した。
私は壁に手を付いた。
「やるよ、壁粉砕。行き先はバミダダンジョン」ぼこっ。
モルトを壁から10メートル離して縦3メートル、幅1メートルで人間は通れる穴を開けた。
「うおっ。なんだ、この濃厚な空気は」
「モルト、合図するまできちゃダメよ!」
キラッ。前と同じく、バミダ側に入って数秒でクリスタルドラゴンに見つかった。
早くも急接近している。
だけど今回は、レベルが前に比べて140くらい上がっている。加えてスキル「壁ゴーレム」まで持っている。
「全身壁ゴーレム!」
ドンッ。地上に降りて、突進してきたドラゴンを40メートルに巨大化して捕まえた。
「ギシャアア」
「うむ。パワーはあるけど白虎ほどじゃない。捕まえたままでいよう」
壁ゴーレムの利点は疲れないこと。クリスタルドラゴンは私とほぼ同じ大きさだけど、私の拘束を解けない。
1時間くらい暴れさせて、後ろから羽交い締め。鱗はかなり飛び散っているけど、あとで回収すればいい。左腕で首をのけぞらせ、右手で羽をロック。そして足を使ってドラゴンの鉤爪を使えないようにした。
壁に足を付けて横に寝転がり、完全に腹の急所をさらさせた。
「モルト、出てきて」
恐る恐るバミダ側を覗いたモルトが驚いている。
「フランがゴーレム化してる。壁に穴を開けて、巨大化までできるのか・・」
「感心してないで、ドラゴンの腹を切り裂いて!」
「やれんのか、俺に」
「あなたが作ったクリスタルナイフを信じて。きっと切れる」
ザク。「ギジャア!」
「き、切れた」
深さは数センチだけど、確実にドラゴンに傷を負わせた。やっぱりモルトの錬成術はすごい。
それから2時間かかったが、モルトがクリスタルドラゴンの腹を割いた。
あらかじめ用意していたシートに血が流れ出て、おそらくドラゴンが出血多量で絶命するまで4時間かかった。
ドラゴンの内臓も貴重。心臓、肝臓が無傷だ。
ほぼ丸々のドラゴン素材だ。素早く手に入れたばかりの50メートル収納指輪に入れた。
「モルト、一旦スキルを解くわ。ゴブダンジョン側で1日くらい休もう」
私の時はレベルが54↓133だったけど、モルトは91までしか上がらなかった。
私がレベル194になっていたし、経験値がこちらにも何割か流れ込んだようだ。
モルトにジャイアントキリングもなかった。2人で倒したので、条件を満たさなかったのだろうか。
「ありがとうな、自衛手段も増えた。フラン」
「う、うん」
さすがに2人とも疲れた。
セーフティゾーンにクッションを敷いて、2人で寝た。並んで寝転がったらまたドキドキした。
モルトの様子はどうだろうと思ったが、爆睡だった。壁ゴーレムで無敵状態だった私とは違い、生身でバミダダンジョンにいたから疲労も普通ではなかったようだ。ご飯も食べず、瞬時に寝落ちしていた。
私もぐっすり寝た。目が覚めたら、モルトの胸に顔をうずめていた。モルトの左手が私の背中に回っていた。
モルトは錬成師。本来は装備製作という共通点がある「メタモル」の3人と長く関わっていくのだろう。そうして装備職人の1人であるクララとも・・
ただ今は、モルトのぬくもりを感じられる。
こうしているのが幸せだった。
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