第29話 会えただけで幸せなはず・・
パリパに戻って、クリスタルドラゴンの革で作った装備を受け取った。
折り畳み式でヘルメットにもなるフード、グローブからブーツまでの全身装備。唯一ブレスを吐かない代わりに、水晶質の体であらゆる属性の攻撃に耐性を持つドラゴン。その特性を受け継いでいる。
バトル装飾ギルドの職人さんが特殊加工をして柔らかく作ってくれた。仕上がった瞬間は透明だったそうだ。
だから、特殊な塗料でカラーリングを施してくれた。肩の部分に3つの魔力を流すスイッチがあり「黒に近い焦げ茶色」「透明」「ブルー」の3色にカラーを変えられる。着てみると、体にぴったり。
透明の時は裸に見えるほど透けている。
このまんまドラゴン装備で外を歩くと騒ぎになるそうなので、透明にして、上にワンピースを羽織った。
「すごく軽い。それにトカゲの革より柔らかい」
「衝撃を受けた瞬間に硬化します。普段は柔らかく、装着者の動きを妨げません。鱗を使って「超ケラチンZ」を装備と融合させれば、属性攻撃への耐性も跳ね上がりますよ」
「なるほど」。モルトのとこに行って、腕をふるってもらうことにした。
クリスタルドラゴンの情報を解禁したので、薬剤ギルドにドラゴンの血を200CC提供して、10本分の大回復ポーションを頼んだ。
請われて、追加の100CCを依頼金代わりにした。
出来上がりは2日後。
◆◆
私の「壁転移」で短縮されすぎる移動日数。いずれジャンヌ様あたりにバレるだろう。だけど、余計な人間にまで知って欲しくない。
なので、色々とごまかせるように新しい自転車を購入した。
私の160センチ細身で体重135キロだと、フレームにピンポイントで負荷がかかったりする。なのでフレームは総ミスリルしか選べない。予備のタイヤ20本も入れて800万ゴールドも使った。かご付きだ。
これで1日に300~400キロ移動できる計算になった。けど、パリパとセツザンの1000キロなら、3日くらい開けてギルドに行く必要がある。
1日で1000キロを移動した記録が冒険者ギルドに残ってしまう。
薬剤ギルドの人にはセツザンを超えてチマランマ魔境に行くと言ってある。何日後にパリパを訪れると言ってない。言ってしまって地上の活動とダンジョン活動を織り混ぜる場合は、意外に時間調整が面倒だ。
◆
パリパをあとにして、すぐ近くのニスの街に入った。
控えるべきなのに、モルトのところに行った。
こんなに同じ人に会いたくなったのは初めてだ。胸もぎゅっと締め付けられる。病気だろうか。
中級ポーションを飲んだけど、改善しない。
モルトにはニスの街のギルドに行けば、居場所が分かるようにすると言われている。夕暮れ時、冒険者ギルドを訪れた。
すると、モルト本人がいた。飲食スペースだ。若い冒険者と2つのテーブルをくっつけて、8人で食事していた。
彼は静かに、横に座る女の子の話を聞いている。目を細くして優しくほほえんで、私と別れた日と同じ顔をしている。
彼が周りになじんで元気でいてくれて、すごくうれしい。ドキドキしてきた。ダンジョンから出て15分なのに、もう体から空気が体から抜け切ったのだろうか、今度は胸がちくっとする。上級ポーションでも飲むべきだろうか。
モルトを見ていると、彼も私を見つけた。
「あっフラン?」
「装備できた。次の仕事を依頼しにきたよ」
「モルト君の知り合い?」
数日ぶりにモルトに会えて、礼を欠いた。そうだ女子と一緒だ。彼女は迷惑そうだ。経験不足すぎて鈍感すぎた。時間をずらすべきだった。
「ごめん、女の子といるときに、いきなり来て。その人にも申し訳ない。お邪魔だったね。出直すよ」
「違うべフラン」
テーブルから離れたところにモルトが追いかけてきて、腕をつかまれた。無骨で乱暴だけど手が温かい。
「違うって何が・・・」
「オラはフランが、一番・・」
「あ、え、あ、うう・・」
「フランの依頼が一番大事だべ」
「あ、ああそうだね」
モルトは、さっきの人達に挨拶をして、ギルドから出てきた。
「モルトごめんね。楽しく食事してたところに」
「気にすんな。俺も女の子にファッションの話とかされて、なんて答えていいか分からず困ってた」
「・・・うん、ありがとう」。モルトは優しい。
「今すぐに依頼を受けたいが、まだ「超ケラチンZ」を自在に扱えるほどMPが増えてねえ。しばらく待ってくれ」
「うん。待つ」
「けど、装備は見ておきてえな」
「じゃあ、どこか人に見られない場所がないかな」
「錬成台をいつも使えるように、フランに渡された金で小さい家を借りた。そこに行こう」
2キロの道のりを歩いた。モルトは冒険者ギルドで紹介された「メタモル」という武器職人志望者のパーティーに臨時で参加。中級ダンジョンに潜っている。さっきの女の子はクララといい、色々と教えてくれるそうだ。
モルトの家に到着した。
「どうぞ、入ってくれ」
「お邪魔します」
部屋は2つ。入り口前の広いスペースが工房。奥が荷物置き場と寝室。キッチンは道具の洗い場と化している。
「装備を着てきたんだな。オーラがすげえ」
「受け取ってから、そのまま装着したの。ワンピースの下に着てるから見せるわ」
ワンピースの裾をつかんでたくしあげ、胸元まで出したとこでモルトの視線に気付いた。
そうだ、透明モードにしてから変化させてない。その下はパンツ一枚だ。胸はモロに・・
恥ずかしくなって外に走って出て脱いだ。
「・・どう、色はブルーに変えたけど、いいよね」
「透き通ってて、きれえだった・・・・」
「えっ」
「あ、あああ装備だ。おっぱ・・、いや、装備からオーラが出てたな」
「あ、装備よね」
おっぱ・・やっぱ、見られた。
動揺しながらも、お互いの近況の話をしていた。
「なあ、フラン」
「なにモルト」
「さっき、きれいっていったのは・・お、おめえの」
「なに」
「なんでもねえ」
「・・・」
「・・・」
夜が更けたし、泊めてもらった。お互いがベッドを譲り合った。結局は、ダンジョンで一緒に泊ったときと同じで、収納指輪から毛布をたくさん出して、床に敷いて寝た。
・・・・
「ねえモルト、起きてる?」
「ああ」
「明日から特級ダンジョン行かない?」
モルトとオルレア特級ダンジョン6階に入って、彼のレベリングがしたい。
「えっと、さっきの女子グループに誘われて、上級ダンジョンに連れて行ってもらうことになってて・・」
「ああ、そうなんだ」
「すまん」
「・・いえ、いきなり誘ってごめん」
謝られる間柄じゃない。私達は、依頼主と装備職人の関係だ。
有望な職人で探していた友達、そんな人に再会できたことを感謝すべきだ。
それが当たり前。
心の中で、そう繰り返してたら、眠れなくなった。
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