第30話 女の戦いから逃げた
ずっとモルトの寝顔を見ていて、いつの間にか寝ていた。起きたら、彼とくっついていた。すごく心地いい。そのまま彼が起きるのを待って、一緒に冒険者ギルドに向かった。
すでに装備を渡してある。結界石もだ。本当はプレゼントのつもりだったが、彼は「レンタル」という形にこだわった。
モルトが一緒に上級ダンジョンに行く「メタモル」は男子1人で女子が2人。装備はみんな鉄製だそうだ。だからミスリルソード2本とミスリルナイフ2本、それに魔鉄の防具を人数分「レンタル」した。
「すまねえなフラン」
「いいのよ。どうせ盗賊から剥ぎ取ったものばかりだから」
「盗賊か。フランは美人で装備も高価だから。強いけど気をつけるべ」
私、「美人」の言葉を心の中で切り取って顔が真っ赤になっていると思う。
「モルト君、おはよう!」
「おはよう、クララ」
ギルドに到着すると同時に、昨日の女の子がいた。やっぱり強気の表情だ。
「フランさんも、おはようございます」
「あ、はい、ご丁寧に。クララさん、おはようございます」。私も挨拶をした。14時間くらいダンジョンを離れて、モルト以外の相手にはビクビクしている。
「あの、フランさんとモルト君の関係というのは」
「わ、私はモルトが作る装備を気に入って、色々と頼んでいる「ただの」依頼人。き、昨日はモルトを中座させてごめんなさい。じゃあ」
「おいフラン」
間違いなく好意ではないものを向けられている。さすがにモルト絡みだろう。モルトと一緒に朝食を食べる約束も忘れて私は離脱した。
正直、武力で対抗できない相手に私はびびった。過去の4年間に継母と兄弟に威圧され続けた恐怖が蘇った。
クリスタルドラゴンや白虎を倒し、年間討伐ランキングがあるなら世界1位かも知れないのに。
11歳までは生母と2人だった。母はたまに働いて、基本は愛人である商会主の父からお金をもらって生活していた。「普通の家」の子は親が遊ばせてくれなかった。
本当の母が死に、プラナリア商会に引き取られた12歳からの4年間は、従業員の人達が読み書きを教えてくれたりした。だけどセットは、継母に命じられた強制労働と兄弟達からの暴力。ダンジョンでスキルを使うときだけ、気持ちが落ち着いた。
15歳で商会を追い出された。無一文だったが、こっそり「壁削り」で出した鉄の塊を隠していた。それを換金して、ギリギリの体裁は整えた。
冒険者になってから4年間の19歳までは、ひたすら「壁削り」を使った。
自分にしかメリットがないスキルだから冒険者仲間はいなかったが、心配してくれる人は何人かいた。ダンジョンに通うかたわら、たまに話をしたりご飯を一緒にさせてもらうこともあった。完全な孤独はなかった。
けど、そんな生き方だから、深い人間関係が分からない。クララさんに見据えられて、どう対応していいのか分からなかった。
「少しは自分を女として自覚して過ごしてくれば良かったかな。そうすれば、この気持ちが何なのか分かったのかな・・」
1度だけ後ろを見ると、175センチ美男モルトと165センチ美女クララ、まるでエルフのようなカップルが立っていた。
◆◆
ジャンヌ様と少し話をして、その内容を補うようにギルド関係者なんかに色々と聞いた。そして私のスキルは、私ののレベルを世界でもトップクラスに押し上げてくれる可能性が大きいことを知った。
だから、チマランマダンジョンをもう一度開ける。
パリパギルドの結論として、ダンジョンは現在、成長途中だそうだ。
ダンジョンが発生した200年前、魔物の最低レベルが230の超級ダンジョンは最初からあったらしい。そんで、初級、中級、上級、特級と人間が勝手にランクを作った4段階のダンジョンができていった。
だけど、確認されている特級ダンジョンの魔物の最高レベルは、パリパの北にあるオルレア特級ダンジョンのダンジョンボスでサイクロプスで180。
それを何度か倒したジャンヌ様が20年前にレベル180になっている。ジャンヌ様は超級ダンジョンを目指したいが、どうやら自分と同じレベルの魔物を倒しても少ししか経験値が得られないらしい。
つまり現状、確認されている魔物のレベルは1~180で、その次がいきなり超級ダンジョンの230。ギルド登録者最強と言われるジャンヌ様でさえ、超級ダンジョンの魔物とレベルが50の開きがある。
80年前にアイスドラゴンを冒険者ギルドに持ち込んだ男の人、ギルドの中核をなす「枠外の8人」が、レベル差50を埋める鍵を持っている。だけど、普段は人前に現れずヒントを一般人には与えてくれない。
「ダンジョンの意思というか造った「神」が、レベル180まで到達した人間を230まで上げさせる場所をまだ用意できていないか・・・」
あるいはダンジョンの神が意図的に「レベル50の空白」を作っているのかも知れない。
「そして私や、時たま現れる育てにくいユニークスキル持ちに、可能性を託した? その人間だけが「レベル50」を埋める鍵を持っているとしても、開花させるまでが困難か・・」
困難。私は「壁削り」が心の拠り所でダンジョンが居場所だった。だから8年以上も使い続けた。
だけど生まれ育った環境が「普通」だったら、スキルを使うのをやめてたかも。
◆
壁転移を繰り返して、チマランマダンジョン7階に入った。すぐに白虎が見えた。
「壁ゴーレム全身」
万全の態勢で迎え撃とうとしたが、前のときより白虎が来ない。リポップした個体なのに、前の私と戦った記憶を引き継いでいるかのようだ。こんなこともあるかと思っていたし、一旦は振り出しに戻り、ボロボロの牛肉を沢山出した。
そんで「壁ゴーレム変身」をして、肉に火をつけた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます