第28話 パワレベの準備をしよう

クリスタルドラゴンの革で装備作りを頼んで、仕上がりまでに1週間ある。


次の課題は見えている。


「壁ゴーレム」の精度を上げるのと、地上での対人戦の訓練だ。壁ゴーレムは恐らく、モルトのために必要になる。


私が持っているクリスタルドラゴンの素材は、私が思っていた以上に価値がありすぎた。恐らく今後1年くらいは狙ってくる輩が現れそうだ。


私自身は常識外れのレベルアップと各地に点在するダンジョンを利用できるからいい。

だけどモルトが狙われそうだ。


単なる制作者として扱ってもらえると思っていたが、ドラゴン素材が欲しい人間からしたら違う。私が依頼料の代わりに素材を渡す可能性を考える者もいるだろう。


その人物が穏便に交渉してくれればいい。だけど、いきなり「アックス家」の人間が強盗まがいの方法でクリスタルナイフを狙ってきたりと物騒だ。


モルトを早急にレベル90越えにしたい。そうした上でドラゴンか白虎で彼自身の装備を作ってもらえば、防御力を高めて自衛してもらえる。


「そう、これは私の義務。早い段階でクリスタルナイフを世に出して、制作者のモルトまで悪目立ちする原因を作った私の義務」


そう、義務なのだ。


私はモルトとダンジョンの中で4泊した。そのとき一緒に未来を語り合ったモルトの笑顔が、昔と同じだった。


だけど、私みたいな女が勘違いしてはならない。


思い出の中で美化された「フー君」が、私だと明かしたときの反応も怖い。


悪意を退けるためとはいえ、人を殺めたこともいずれバレる。


だから「フラン」として新しい人間関係を構築して、可能なら正体を明かす。


すごく臆病だ。


都合のいいことばかり考えている私がいる。


◆◆

オルレア特級ダンジョンに来た。大聖堂を幾つも付けたような形の全80階。特級ダンジョンの中でも敵レベルが高く、1階の魔物がレベル90グリフォン。ダンジョンボスはレベル180サイクロプス。ダンジョンが現れる前はミノタウロス同様に「神話」という話の中だけに存在した魔物が多いそうだ。


すごく有名なダンジョンだけど、その理由はジャンヌ様が何度も潜り、力を付けていった場所だから。


今は「ランダム壁移動」で新しい場所を空けたくない私は、近隣のダンジョンでは7階までしか降りたくない。その都合も考えると、7階でレベルは97の敵が出るオルレアが最適だ。


ダンジョンガイドを見て、目指すのは6階。罠部屋があり、要注意とされている。だから狙うのはそこだ。


冒険者は少ない。敵の最低レベルが90というのがポイントだ。


前に拠点にしていたシルビアの街などでも、強い冒険者のレベルは60ー70くらいが多かった。冒険者が初級ダンジョンから攻略してくとして、上級ダンジョンのダンジョンボスがレベル75くらいまで。


それを倒す冒険者のレベルは、一旦はレベル70くいらいで頭打ちする。だから特級ダンジョンにアタックするが、レベル80を越えた魔物は、いきなり攻撃スキルのレベルが上がる。冒険者のレベルが85くらい必要になる。


「確かスキルが開花したとき仕留めたセバスティアン達も、緩めの特級ダンジョンでも30階が限界って聞いたな」


ダンジョンができて200年。レベル上げに関しては落とし穴が多いらしい。努力でレベルを上げられるのは70台までと言われている。それ以上に行けるのは、全身に炎を纏えるジャンヌ様のような特殊スキルを持った者ばかりだ。


だけど私は気付いた。「壁ゴーレム」で獲物を押さえれば他人のレベリングでもできると。


だからメデューサ80匹が出る6階の罠部屋に入る。催眠の魔眼と締め付け攻撃が大変らしいが、壁ゴーレムには関係ない。そこで敵をつぶさず、生かして捕縛する力加減を身につける。


「レベル96の相手で、こんな練習をするようになるとは思わなかったな」


幅30メートル、高さ50メートルの部屋からスタートした。次も同じような部屋だ。これをガイドに沿って迷わず7キロほど走らねばならない。


すでにパリパ近くの初級ダンジョンに退避と帰還用に7階までの座標を作っている。だから詰む心配もない。


走り出して10分後、最初のグリフォンが現れた。20メートルの高さから壁際を走る私に接近してきたけど、レベル165の動体視力で、きっちりとらえている。クリスタルナイフでカウンターだ。


しかし、敵も生半可ではない。

「ぴいいいいいい!」

音波攻撃だ。


実はレベルアップの恩恵で何ともないが、立ち止まるとグリフォンが一気に間を詰めてきた。


ざくっ。私の方から踏み込んで、喉をかききった。


そんな調子で1、2階のグリフォン、3、4階の火を噴くオルトロス、5、6階の切れ味鋭い羽を飛ばすハイピュア

と戦った。体術の訓練のためにクリスタルナイフのみで戦ったから、4日かかった。その短期間でも体の動きがすごいキレている。


「で、罠部屋に来ました」

目の前に、40メートル四方の部屋の真ん中に、あからさまに銀色に輝くコブラの置物がある。私はコブラの頭を押して、罠を作動させた。


「壁ゴーレム」


1回目。80匹のラミアがほぼ肉塊と化した。4時間してリポップ。またも失敗。感覚があるとはいえ40メートルのゴーレム化した私はパワーがありすぎる。きちんと触れないとラミアが手からすり抜けるし、ちょっと力を入れるとぱんしてしまう。


連れてきた人間の安全を考えると、離してはいけない。連れてきた人間のレベリングを考えるとラミアをつぶしてはいけない。やってみると、難度が高いミッションになる。


「けど、モルトが安全にレベルアップできるなら・・」

ラミアに攻撃を受けつつ、ゴーレム化したまま眠りながらつぶやいた。


計7日間の予定だったが、ダンジョンに潜って9日目にラミアを50匹程度生かしたまま無力化することに成功した。


頼んでいた防具を取りに行って、それからモルトに会いに行く。


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