第27話 最初の迷宮攻略者ジャンヌ様
赤いオーラを纏った女性に出会った。
世界で一番の都会、パリパの街のカフェの前だ。どんどん人が集まってくる。女性はみんなに手を振っている。
「もう1度だけ言うよ。アックス家の坊っちゃんと田舎の護衛達、10数える間だけ待つから、転ばした女性に土下座しな。い~ち、に~い、さ~ん」
3人が殴りかかった。
軽く交わして「よ~ん、ご~」
1人が剣を抜いた。
「ろ~く。あんたは剣を抜いたから、逃げても有罪な。な~な」
お坊ちゃんが斧を構えた。女性の目の色が変わった。「くそが、10発は覚悟しな。はち、きゅう、じゅう!」
女性の体がブレると、坊っちゃんの顔面が歪んで歯が飛んだ。遅れて音が聞こえてきた。「ぱーーーん」
次々と護衛が倒れた。そして剣を抜いた護衛、斧を出した坊っちゃんは悲惨だった。
「万の人間を殺めてまで守ったこの街に、お前らなんぞ迎え入れとらん」
ゴキッ、ゴキッ。「あげっ、あがっ、が」ばきっ。
誰だか分かった。200年前の大革命の立役者。今年217歳、炎のジャンヌ様だ。
「父ちゃんに、力があればパリパでは何でもできると言われたんだろ。それは正解さね」
衛兵のような人達が荷車を持ってきて装備をはぎ、護衛を投げ込んでいる。街の外に捨てに行くそうだ。
「ただしね、MPを増やして高度な仕事をするために、この街の人間は生産職でもレベルが高いよ。おい、そこの建物の影に隠れたアックス家の従者!」
「は、はいい」
「なぜ、ボーン・アックスでない人間がアックスの家を名乗った」
「わ、私達に敵対する意思はなく・・」
「200年前、マリーアンコアネッツも、そう言いながら私の親兄弟を串刺しにしたさ。1人になった私を支えてくれたパリパの人間を害しようとしたね。許さないよ」
ぱちぱちぱち。残虐ショーなのに拍手が起こっている。
これは「パリパ愛」だ。素晴らしい。
「なあ、お嬢さん、そのナイフを・・」と言って近づいてきた。私は、コーヒーを飲み直している。冷めたが・・
本当は逃げようと思った。
ジャンヌ様は素晴らしいが、今は関わりたくない。彼女は英雄だ。生ける伝説だ。交流を持ったら、悪目立ちする。
だけど、私が逃げようとした瞬間、完全に反応していた。
それにバトル服飾ギルドに頼んだ防具ができあがるまで1週間かかる。取りにきた時どうせ捕まるなら、今のうちに話しておきたい。
◆
何を話そうと思うと、いきなり切り出された。
「ダンジョンを愛し愛されている者だな。「壁削り」のフラン」
「えっ」
「そう警戒するな。内容は分からんが、大したことがないユニークスキルを強力なものに高めたのだな」
「・・・なんで分かるんですか」
「実はな、定期的に癖があるスキルが出現しておる。最近は調査しただけでお前を入れて30人弱おったよ」
「そうなんですか」
「共通点は20年に1人開花すればいいくらいの「最初は使えない」ということだ」
「違います」
「む?」
「使えない訳ではなかったです。戦ったりできなかったけど、スキル「壁削り」が発現して8年、冒険者になって4年。しっかりと私を支えてくれました」
「ほう・・」
「はい。実家で虐げられた上に追い出され、マイナススタートだった私が生き長らえることができたのは、スキルのおかげです」
「力なきスキルを恨むことはなかったのかの」
「童話や歌劇にもなっているジャンヌ様は、ダンジョンに入った瞬間に神から「火炎の槍」を授かったんですよね。うらやましいとは思いましたが、自分のスキルを手放したいと思ったことはないです」
「ふふ、ふふふ。私の伝説か。あれは現政権が作ったでっち上げさ。それで平和になったから否定せんかったがな」
「でっち上げ?」
「別に私は選ばれし者ではない」
・・・200年前、小作人の娘ジャンヌはジャガイモ畑で腹を減らしていた。
ジャガイモは芽が出ると緑色の部分に毒が発生する。収穫後の畑には、そんな物しか転がっていなかった。だが緑のそれを拾って、食べられる部分を探そうとするくらいひもじかった。不作、貴族による重税。満足に食べた日を思い出せなくなっていた。
袋一杯に、しなびた毒芋を集めたときだ。いきなり足元に穴が開いた。そう、世界中に一斉に4000のダンジョンが発生したのだ。足場を失ったジャンヌは柔らかな土の上に着地したかと思うと、その足場も崩れた。
ジャンヌが地面に落ちると、その地面が崩れる。幸いに着地点は柔らかな土だったため軽傷だったが、それが40回も繰り返された。ジャガイモの袋だけは手放さなかった。
そして最後に落ちた場所で、気持ちが悪い2メートルのブタ顔をしたおっさんがいた。スケベ魔物オークだ。
よだれを垂らして襲いかかってくるオークだったが、スケベ目的だったのが幸いした。ジャンヌは腰をつかまれたが、空いた両手で毒芋を袋ごとオークの口に突っ込んだ。勝因は毒か窒息か分からないけども、オークが泡を吹いて倒れた。
いきなり頭にコールが鳴り響いた。内容は「侵入者1号」「魔物討伐1号」「ボス討伐1号」「ダンジョン制覇1号」。さらにコールが100回以上も鳴った。
数々のノーマルスキル、エクストラスキル「火炎の槍」を持たされた彼女は、腐った貴族を倒す戦いに巻き込まれていった・・・
「ま、そんなところだ。腹を減らした農家の娘がふらついて、生成途中のダンジョンに落ちて最下層に行っただけなのさ」
にっこりと笑う彼女に毒気を抜かれ、クリスタルナイフを見せた。味方かどうか分からないけど、害されることはなさそうだ。
一緒にダンジョンに行こうと誘われた。
砂糖入りコーヒーを飲みながら魅力的な提案だと思ってると、彼女は突然現れた男2人に両腕を掴まえられた。
「ジャンヌ様、明日の式典の準備が残ってますよ」
「ダンジョンで1ヶ月も遊んでいたから、仕事がたまっています。バラサイユ宮殿に帰りますよ」
「ま、待て、話が終わっとらん」
しゅるん。
転移魔法使い2人に連れて帰られて、いなくなった。
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