第26話 初コーヒーは苦すぎた

初めて入ったパリパの街は、すごい都会だ。


カラフルな商店、デザイン性を強調する各種ギルド。おしゃれなデザインの服を着た人達が出入りするカフェ。別の街ではたまにしか見ない自転車で行き交う人々。こんな世界があったのだ。


こうなったのは、ダンジョン時代の大改革を真っ先に行ったからだそうだ。

200年前のダンジョン発生時、パリパの街は最悪の貴族政治がはびこっていた。王のルイルイ58世は富を独占し、妻マリーアンコアネッツが税金を浪費していた。


ダンジョン発生の翌月、不作に苦しむ国民にマリーは「パンがなければダンジョンのゴブリンを食べればいいじゃない」と言葉を発した。キレた民衆が反乱。


ダンジョンで死線を越えてきた反乱軍が、スキル「火炎の槍」を手に入れた農民ジャンヌ様を旗頭に貴族と貴族軍を殲滅した。


そうして個々のスキルを生かした、現在の自由な国作りが行われた。治安維持、税制などにも工夫がこらしてあり、世界中にパリパをモデルにした街作りが広がりつつある。


革命を起こしたジャンヌ様もレベル180の恩恵なのか、長寿スキルを持っているのか、生誕217年目の今もパリパの監視役として生きている。



私も会ってみたいジャンヌ様だけど、頭が痛い問題がある。彼女が先導して作られた社会は、スキルに恵まれない人間が努力しても報われにくい構造になっている。


彼女は革命前は小作人の娘で、虐げられた人間の苦しみを知っている。だから、心を痛めているとか。


また魔法の出現で、「機械技術」が200年前から進んでいないとか。機械技術が発展していれば、馬車の荷台をゴーレム馬や力持ちの人間でなく、違う動力で牽いているそうだ。


◆◆

パリパにしかないバトル服飾ギルドに行って、ドラゴン系の革を扱える職人に装備を作ってもらうことになった。


「まさか、クリスタルドラゴンを倒せる方と会えるなんて」

「いえいえ、私はサポートで討伐履歴を付けてもらっただけ。倒したのは兄の「カベギロチン」ですから」

「それでも、バミダダンジョンに入られたこと自体が快挙です」


クリスタルドラゴンの首の輪切り革の素材を出した時は驚かれた。レベル239クリスタルドラゴン素材は初めて持ち込まれたそうだ。しかし、リクエストした秘密は守ってもらえる。


誰かが欲を出して素材や情報を横流しすると、ジャンヌ様が出てきて粛清が始まる。例外はない。信用があるから、実力者が揃うそうだ。


私は、気に入ったアサシンスタイルのデザインで防具のフル装備を頼むことにした。プラスマントだ。


出来上がったあとに、情報を公開してもらう。今回は自分の名前で依頼した。


「壁転移」の超時間短縮で話にひずみが出るときは、双子の妹「探索者フラム」が増えるだろう。



ギルマス室にて契約が成立した。


「では、我がギルドの総力を持って最高の装備をお作りいたします」

言葉は、オフランスの人に普通に通じた。


「本当に依頼料は現金じゃなくて良かったのですか?」


「むしろこちらのセリフです。高純度ドラゴン水晶を頂きまして」


メンテ費用込みの依頼料8000万ゴールドと聞いたあとに、現金を用意していないことに気付いた。


そこでチマランマダンジョンを開けたときに、2本の私の腕サイズ水晶を拾ったことを思い出した。


その1本を出してみた。

「この水晶で30個の高性能結界石が作れます。防御に優れたクリスタルドラゴンの魔力を浴び続けて生成されたもの。稀少性と性能で売値は1個1億ゴールドは下らないと思います」

「いちおく!」


なので私への補償を申し出られたので、結界石を5個もらうことにした。


サラ、アエラ、マーサさんにあげよう。もちろんモルトにも。


◆◆

これから近隣のダンジョンに「座標」を作る。装備作りも楽しいが、それはダンジョンに潜るため。やっぱりワクワク感が違う。


「その前に、おしゃれなカフェ行ってみてもいいよね」


カフェに行くと、外にもテーブルが5個並べてある。


ここには20歳くらいで、赤いズボンタイプのスーツを着た女性が1人で座っている。パンプスを履いた足を組んで何かを読んでいて、すごく絵になる。


私は今、普通モードのフランだ。


「あの、こんにちは。ここには勝手に座っていいんでしょうか」

「この街は初めてだね。普通は、カフェの中で飲み物を買ってから、中かここで飲むさね」


「ありがとうございます」


ちっとババ臭い喋りだが、訛りだろうか。


店で香りがいいコーヒーを買って、彼女に倣った。私の濃い顔は地元では平凡。周りは北国パリパのエルフ風美人ばかりだけど、私の南の方の厚い唇が魅力的だと褒められることがある。モルトにも可愛いと言われた。


思いきって人が行き交うオープンテラスに座ってみた。


隣の席に座るお姉さんの真似をしてダンジョンガイドを読みながら、初コーヒーをすすった。

「ぶっ。にがっ!」


早くも馬脚を現してしまった。お姉さんは、優しく笑ってくれるけど、ちょっと恥ずかしい。


仕方ないから収納指輪から砂糖を出して山ほど入れた。そんで小腹が空いたしパン、カーレー、干し肉を出して、干し肉を小さい方のクリスタルナイフで切った。


「いいねえ~。コーヒーに砂糖を入れたら美味しい。初体験の味だ。ちっとカーレーとは合わないか、おつまみはパンと干し肉だな」


視線を感じると、お姉さんが私の手元をガン見している。


「あちゃあ~。食べ物の持ち込みはマナー違反だったか。みんな収納しよ」


「あ、そのナイフ、しまうんじゃないよ!」

ガタン!お姉さんが、勢いよく立ち上がった。


身長170センチで金色の短髪。頬骨が少し高めだけど、鼻も高くて大きな目もバランスがいい。けどババ臭い。


けど立ち方を見て彼女を凝視して驚いた。分厚い真っ赤なオーラを纏っている。


「あなたは・・」

言いかけたとき、本日2度目のだみ声を聞いた。



ガシャン!私の隣の席に座ろうとした女の人が押されて転んだ。

「やっと見つけたぞ女」

「捕まえろ」

「テーブルの上の輝くナイフを取り上げろ」

「アックス家に逆らうと、どうなる分からせてやる」


「わ、面倒なやつがきたよ」


アックス家の坊っちゃんと護衛8人だ。


「お待ち、小僧」

真っ赤なオーラのお姉さんが、転んだ女性を椅子に座らせた。そのあと、私の前に出て坊っちゃん達の前に立った。



「その女性に謝って、有り金を置いていきな。パリパに強盗を入らせた覚えはないよ。出ておゆき」



静かにしゃべっているのに、初冬の冷たい空気が熱を帯びている。


彼女は、レベルが165の私よりはるかに強い。


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