第25話 新装備は目立つみたい
「フー君との男同士の友情」を今でも感じていてくれるモルトに出会えた。
けれど、そのフー君が私だと言えなかった。「壁粉砕」の秘密が説明できない。
約束通り一緒に冒険をする前に、様子見も必要だ。クリスタルドラゴンの素材も出したし、トラブルも起こりそうだ。
彼を巻き込めない。
次の日。パリパの街に入る前に、アグサダンジョンに入った。4階くらいまでに座標を作るためだ。
アグサがある場所は、領地は小さいが力を持つ国が多いパーロッパ地方の中心にあるオフランス国。民主主義という政治体系らしい。
ダンジョン出入り口は首都のパリパから3キロの位置にある。
パリパは今後も訪れる。食、文化、防具の3要素で世界の中心と言われている街。
防具は「エレガントで高性能」をテーマにドラゴン系の革を扱える職人も多いらしい。
80年前にバミダダンジョンからレベル230のアイスドラゴンが持ち込まれた。その時期に装備を作った職人も、パリパの街に集まったとか。
ここを出たら、パリパにしかない「バトル服飾ギルド」で、気に入ったアサシンスタイルのクリスタルドラゴン革装備を作ってもらう。
そこまで頑張る。
アグサダンジョンに入ると人が多い。彫像とか倒れたとこもあって、スンゲエ人の流れ。観光馬車も何台もいる。
ここは10階までは敵が異様に弱く、観光地と化している。「迷宮ツアーガイド」という職業の人までいるそうだ。
観光ルートを外れると死角だらけなので、座標を適当に作りながら遺跡見物をしていた。
ガーゴイルの魔物が出ても、誰かが魔法か飛び道具で倒してくれる。2階、3階となにもせずに進んだ。
◆
4階になって、ガーゴイルズが飛んできた。気まぐれでクリスタルドラゴンナイフで斬った。
すると少し後ろから嫌な声がした。
「おい女、その腰の後ろに差したナイフを見せてみろ」
後ろを歩いていた12人の集団から声がかかった。
恵まれた190センチの体格。背中には綺麗なミスリルアックス。装備も豪華だ。
「坊ちゃま」「おやめ下さい」など、従者のような3人がとどめている。
逆に護衛の剣士と魔法使いの8人は、「坊ちゃま」に乗っかって私に近づいてきた。目は私を殺そうとしたセバスティアンくらい腐っている。
セツザンのギルマスには、慌ててクリスタルドラゴンの装備を作るなと言われた。私はレベル165で討伐履歴にレベル230越えの「クリスタルドラゴン」「白虎」が付いている。
だけど体術と武器の扱いは、レベルに追いついていない。弱そうに見える。
だから売買や取引履歴の情報が有力者の間に行き渡り、「なんちゃってアサシンスタイルのフラン」が浸透すれば小物は寄ってこないとアドバイスされた。
それまでは、新装備をを見た悪人が寄ってくると言われたが、本当に絡まれた。
「おい姉さん、まずまずのレベルのようだが、どこの人間だ」
「俺らはリリシア島の斧の名門、アックス家の人間だ」
「そのナイフ、うちの坊ちゃんがご所望だ」
アックス「家」。何か知らないが当主が強くて有名になり、家人が勘違いした一族のようだ。
今の私なら分かる。「ここに、私と戦える実力者はいない」
「なにを」「舐めるな」「魔法を食らいたいか」
この最近は時間を見つけて体の動かし方を練習した。
私はいきなりレベルが上がった。レベルが10↓31↓54↓133↓165と「壁ギロチン」のみで剣を振るうことなく、一気に駆け上った。
普通の冒険者のように、魔法や技の精度を上げ、階段を一歩ずつ上がるように鍛錬していないから実感がなかった。レベル133のときでも、やたら体が頑丈になっただけという認識だった。
その認識は大間違いだった。
高レベルの腕で剣を振れば、1回ごとに剣が腕と一体化する。足運びの練習をすれば、音も亡く歩ける。盗賊の剣技をトレースすれば、長所を戦いに生かせる。
そして、注意すれば相手の力量がオーラとなって見えるようになっている。考えてみれば感知に必要な魔力も1650。魔法使いの戦闘職セツザンギルマスでも1000ちょうどくらい。それより多い。
まだ感覚と技術がレベルに追い付いていないが、「壁」なしの戦闘力もレベル80のアサシンくらいはあると自負している。
全員の顎を打ち抜いて去ろうと思ったとき、目立ってはいけないことに気付いた。
周囲に観光客もいる。一般人を怪我させたら、怖い「パリパの伝説ジャンヌ様」がやってくる。
私は右に走り出した。適度な「遅さ」で連中を1キロほど付いてこさせた。
「ふうっ、ふうっ。誰か早く女を捕まえろ」
一気にスピードを上げて、遺跡群の廃墟の裏へ。ダンジョンの壁に触れて、近くの初級ダンジョンに跳んだ。
そして追ってきた連中が想像もしないであろう、階段近くに作ってあった座標に跳んだ。
強盗斧族との距離は2キロ以上ある。
そこからは得意のマラソンだ。200メートル先の階段から3階に。3、2、1階の長い遺跡ステージの道を各階4キロずつ走った。計12キロ強だ。
「ふうっ。長距離走だけがレベル165にふさわしくなってる」。しつこいが、私は魔法職だ。
外は寒い。顔と格好を見られたあとだし、セツザンの街で仕入れたコートと帽子、マスクを装着し、パリパの街に入った。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます