第22話 とうとう見つけた
セツザンに帰ってきた。
魔境に入ってないけど、魔境のど真ん中にあるダンジョンの魔物は捕まえた。
しばらく白虎は出さない。
「ダンジョン探索の断トツスキルを手に入れた代わりに、私は地上の対人スキルが不安定なんだよな。トラブルも増えているし」
つぶやきながら、「壁転移」を利用してセツザンの街に向かう道に出た。
「寒っ」
サクラと違い、北のセツザンが冬に近づくとガチに寒くなってきた。
あらゆる地域に行くために、服装も各種必要。服屋に寄ってからギルドに向かった。
防御力高めの火属性トカゲの革のパンツとブーツ。それに合わせた濃い焦げ茶色のインナーとベストも買った。
腰の後ろに黒いホルスターを着けて魔鉄ナイフ2本を横向きに差している。ファッション的なアサシンスタイルだ。
久々の冒険者ギルド。それよりはギルマスが調べてくれた大事な情報がある。
「西に800キロ行ったドワフの街のキングダム工房で、10年前にバミダダンジョンのアイスドラゴンの鱗で武器を強化した記録があった。アイスドラゴンは80年前に捕獲された奴の残りだそうだ」
今、ドラゴンの装備が作られていないのは単純に素材不足。
「超ケラチンZ」をドラゴンの鱗から抽出し防具と合成した職人さんは健在だそうだ。素材を出せば、クリスタルドラゴンの鱗でも扱える可能性が高い。
「ありがとうございます。それで「モルト」という名前の冒険者は・・」
「ここからパリパの間くらいでは4人ほど、その名で登録してある。仲間かい?」
「ええ。昔の友達です」
なんだか高揚してきた。
ギルマスによると「前にも言ったが、ドラゴン素材を出したらざわつくのを覚悟しろよ」と念を押された。
「まあ、行くしかないですね」としか答えようがない。
そこで気付いた。今の私がソロ活動に決めているのは、価値ある素材と希少スキルを持つせいでを危険が付きまとうから。誰も巻き込みたくないからだ。
モルトに会えても、迂闊に名乗れない・・
とりあえずは行動だ。近ごろ集めた素材を売って1700万ゴールド持っている。
売った数は多いのだが、「壁ゴーレム」の訓練もしたら、半分くらいの獲物がゴミになった。
今日も受け付けカウンター前が混んでいる。
「先日は大量の素材をありがとうございました」
「今日はレベルを計るだけでお願いします」
計測準備が整った。ピッ。
「フランさんは魔物の代理売却業だそうですが、危険地帯にも入るんですよね」
「たまにですね・・」
「それじゃ、レベル102を最高峰に高ランク者が多いセツザンでも、中の上くらい行けるかも知れませんね。・・えっ」
受付嬢の声がでかいから注目された。彼女は私のことを二度、三度と見ている。
ぼそっ。
「すでにレベル80を超えAランク試験の基準に達していますが・・」
「普通で大丈夫ですよ。Dランクになれますよね。4ヶ月待ってCランクに上げてもらいますね」
てな感じでお互いに苦笑いした。
◆◆◆
一番近いダンジョンから「壁転移」で西のダイナダンジョンへ。一気に50キロを短縮し、ドワフまで残りは750キロ。この際だから、その西200キロのオフランス国パリパ近くにも座標を作ろうと思う。
セツザンで自転車のタイヤを購入したし漕ぎまくった。
パリパには最初のダンジョン攻略者・炎のジャンヌ様がいる。
軌道上にある21のダンジョンに座標登録をしておく。
地図が愛読書になっている。2日目はセツザンから西に550キロにある、猫型魔獣の初級ダンジョンで休憩した。
必見の「トラップダンジョン」だと教えられている。意味不明。
キャッツダンジョン1階で攻撃してこない子猫魔獣集団に癒されながら休憩。
1時間、にゃあ、にゃあ。2時間、にゃ~ん。3時かん・・「はっ!」
「ヤバい。まだ距離が残ってるのに、子猫に足止めを食らってた。確かに、ダンジョン全体がトラップだ」
「みゃ~ん?」。三毛猫の子猫魔獣をだっこしたまんま呟いた。
ダンジョン制覇者も極端に少ないそうだ。
◆◆
出発から4日目、太ももをぱんぱんにして、ドワフに到着した。
自転車のハンドルを持つ腕も太くなったが、私は自分のことを魔法職だと思っている。
すでに午後になって、しばらくすれば日も暮れる頃だ。
「あ、あった「キングダム工房」。ここだ。すみません、どなたかいませんか~」
「おらあ!」
「ひっ」
私の声が掻き消されるくらいの怒号が聞こえてきた。
そして男子が転がってきた。
「てめえ、お前は親方に仕事を任されてるからって、いい気になったな」
「そうだ。お前の錬成術と合成鍛冶なんて、大して評価されてねえんだよ」
「昨日、倉庫からミスリルがなくなったのもお前の仕業だ。お前のタオルが犯行現場にあった」
「俺は、そんなことしねえ」
工房の人間同士で揉めている。5人で1人を責めている。冤罪っぽい・・・
とりあえず、状況をつかめないが近い人に声をかけた。
「あの~、すいません、お願いがあってきました~。お客ですよ~」
「うるせえ!」
「ひいっ」
170センチくらいだか、肩に何か入っているのかというくらいのガッチリな若者に威嚇された。
「何か用か」
「あのう、装備が欲しくて・・」
「うちはオーダーメイドのみだ。なんちゃってアサシンファッションの姉ちゃんなんかに売る装備はねえよ!」
若いのが何人もこっちに来た。知らない人だらけだ。
「だから、作って欲しい物があるから・・。工房主さんに会いたいんですが」
「今は、俺が親方の代理だ」
「なら、私が持っているクリスタルドラゴンの・・」
「帰れ」
身の程を知れとか、馬鹿にされまくった。気分が削がれた。
通りに追い出されると、門が閉められた。バタン。
素材の中身も聞かず、素材も見ずに追い出された。
さっき中で揉めてた175センチのガッシリ君も追い出された。
「失格。彼らがやっている仕事の根幹は商売だよね。あんな奴らに作ってもらった装備は使わない」
「壁転移」で他の職人がいる場所に行ける。だから私は強気になれる。
工房を追い出された彼と目が合った。きれいな瞳を持つハンサム・・
どくんっ。
「見つけた・・」。間違いない。
私がそう呟いたとき、彼は私に声をかけて頭を下げた。
「すまん、お姉さん。俺のゴタゴタで巻添えを食らわせてしまったべ」
「・・ねえ、お願いがあるの」
「なんだ、お姉さん。あれ、あんた、・・。俺のダチの男の子と・・」
次の言葉は意識せず出てきた。
「装備の作成と強化を依頼したいの。あなた個人にね」
彼は、サクラダンジョンで出会ったサラ達と同じ優しい目をしている。
10年前と同じ優しいオーラが出ている。
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