第21話 ランダムに意味はある?

成り行きから「ランダム壁移動」を使うと、とんでもない雰囲気のダンジョンに繋がった。


満月が浮かぶ夜の山ステージ。奥行きが何キロあるか分からない。


「バミダのときと違って、今は壁ゴーレムに変身できる。入ろう」


座標登録すると、転移元のバットダンジョンから300キロ。予想通りチマランマ超級ダンジョンだ。


ここは1階にレベル230のフェンリルが確認されている。


「ランダムって確率均等だよな。すげえ偏りがあるなあ」


ガル・・


ガルル・・


はるか先に豆粒みたいな白いものがある。


バミダの経験からすると、すでに敵の射程圏に入っていると考えた方がいい。


ばっ。白いものが跳んだ。瞬時に目の前にいる。


「全身壁ゴーレム!」どんっ。ギリギリだ。


座標は決めた一点から3メートルの円で、とこかが1ミリでも付いていなければならない。接点をお尻にして中腰になった。接点はスキル発動中に変えられる。


160センチの私を食べようとした「そいつ」は、瞬時に40メートルになった私に受け止められた。


「でかい虎!」


捕獲記録がない15メートルの白虎である。


「がああるるる!」

「うわああ」


私は40メートルもあるのに、パワーは向こうが上。不味い、もがいて逃げられる。


ふと右を見ると、足元に3メートルの穴が開いたまんま。


全身で抱きつき、強引に倒れ込んで首を穴に突っ込んでみた。

「くうううう」

「ごがあああ!」


「壁ギロチン!」

ばしゃん!


幸いにゴーレム化したままでも「壁粉砕」は使えた。


再びダンジョンを繋いで、チマランマの獲物ゲットだ。そして白虎ボディーをバットダンジョン側に投げ込んだ。


あとは帰るだけだが、ゴーレム化した状態で高い視点から遠くを見ている。敵はいない。これだけの相手だし、2匹目は近くにいないだろう。


80メートル先に泉があり、その周りに2種の草が生えている。ゴーレムの手を伸ばしても届かない、微妙な距離だ。

「目を凝らして見ると、オーラがビンビンだよね」


ゴーレム解除から、バットダンジョンに戻り「座標サーチ」。なにげにこのスキルが有能だ。盗賊をハメた罠部屋や、隠し部屋が簡単に見つかるだけではない。


飲める水とか薬草も、あれば教えてくれる。


「ビンゴ!泉の周りにエリク草、月光草が1本ずつ生えてる。ドラゴンの血を合わせたらエリクサーが作れる」


白虎が出なければ貴重な草を取り放題。けれど、魔物が出たら80メートルでも逃げきれない。


「今はやめ。何か対策して再来しよう」


頭のなかでレベルアップ音が鳴りまくった。

「レベル165だ。まさか世界ランキング二桁とかないよね」


ピ・・

ピピ・・

ピピピ・・


『レベル差100越え単独討伐達成。ジャイアントキリング。エクストラスキル解放です』


「おおっ。てことは、白虎は最低でもレベル233か。次は何をもらえるのかな」


ぽん。手の中に玉が出た。


「コア?ダンジョンコアだって、ええええ」


自由に歩けるコア人形を作れるスキルだ。

『コアに意思があり、会話ができます』

『コアがインスタントダンジョンを作り、避難所を作ります』

『あなたと念話ができます』


「ほほう。作り方は?」


『まず、瀕死の人間を用意します』


「は?」

『そして胸にコアを乗せましょう。検体が息絶えた瞬間にコアが胸に沈んで、検体の人格を引き継いだコアゴーレムの出来上がり』


ガンッ「できるかボケっ!」

思わずコアを投げた。壊れてなかった・・


これはお蔵入りだ。破格のスキルに間違いはない。だけど、人間1人が材料になる。


その上にその人の人格維持なら、誰でも良くない。


死んでいい盗賊の人格が私と繋がるのは論外。だからといって、親しい人間を殺して材料に使うなんて、もっての他。


「疑似人格でいいよ。凝りすぎだよ。けどダンジョン様、ありがとうございます」


今回は白虎の素材を丸ごとゲット。首ちょんぱでも、素材が綺麗だ。


私の攻撃スキルは「壁ゴーレム」と「壁ギロチン」。どちらも殲滅力抜群だが、稼ぎを考えると真逆なのだ。


壁ギロチンは獲物が切れるが、他の素材に傷すらない。断面も潰れていない美品ばかり。


対して壁ゴーレムの獲物は、私の操作の甘さを差し引いてもゴミが8割。盗賊の剣さえねじ曲がっていた。


「お金を稼いで大容量収納指輪を得て、装備を整えるまでは、素材も大事にしたいよな。はは贅沢かな」


帰り道に考えた。


ダンジョンは私の味方だと。


早くも世界最高峰の三大ダンジョンのうち、2つを覗けた。


これは「ランダム壁移動」のランダムに反して確率がおかしい。


サラが集めてくれた資料にダンジョンの数に関する項目があった。


『世界中のダンジョンは全4000。そのうち約1700が初級ダンジョン。中級が1000程度。上級がおおよそ700。特級600ほど。超級は3』


今まで4・5・6・7階で4つの扉しか開けていない。なのに中級1、特級1、超級2。初級と上級がゼロ。


ランダムの言葉通りなら、初級と中級だけしか開かなくてもおかしくない。実際に起点にした場所から300キロ範囲には、低級なダンジョンの方が圧倒的に多かった。


「これは、ダンジョンに愛される私へのサービスなのか・・」


けど・・


「ありがたいけど、新しい扉をあけるたびに、ビクビクしてるよ」



残る、というか覗いていない超級ダンジョンは「インカリ」だけど、ここは遠い。


もし行くなら陸路。東のターヘイ洋の反対側だ。海はあるけど、50キロの海峡が1ヵ所のみ。


セツザンからなら東に進路を取る。セツザン↓モスクヤ↓モルゴル↓シペリヤ↓パーリンク海峡↓ララスカ↓南下してカナラ↓メメリカ↓パモナ↓ブーラジル↓ゾゾゾン奥地↓インカリ王国となる。


半分は道が整備されていないところを通り、約20000キロ。

私は帰りはダンジョンの座標を利用して、3~4日で帰ってこれる恐ろしいスキルを持っていても、行くまでの時間が読めない。だから今は行かない。


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