第15話 追ってくる者は沈める
少し時間は戻る。5日くらいだ。
レベル133パワーを駆使して、荷台にマーサさん、サラ、アエラと引っ越し荷物を載せてサクラを旅立った。
マーサさんの実家があるヤコノまで250キロ。
旅の目的のメインはマーサさんの引っ越しだが、大切なサブテーマもある。
私を家から追い出した継母の手の者がいる。私の異母兄弟ミジコもいる。
あえて出発を午後にして、街を出てすぐ、意味もなく1000万ゴールドほど現金を出した。ジャラジャラと数えて、荷台に放り込んだ。
すると、「たまたま」同時に街を出たプラナリア商会のご一行16人が馬車と馬に別れて付いてきた。本物の商会だから不自然さはない。
2時間も移動すると、プラナリア側の雰囲気が変わった。私は自慢のスピードを保ちギリギリで付いてこさせた。
最初の中継地、ナルサ村の前でスピードを上げてマーサさん達を村の中に。先に予約していた上等な鍵付き旅館の前に3人を降ろして、私だけ村を出て2キロ引き返した。
人気もなくなった夕方、奴らが来るのを待って、ナルサ初級ダンジョンの前へ。あえてピッケルを持ち異母兄ミジコが把握している「壁削りスタイル」で、彼らに見つかった。
ナルサ初級ダンジョン。人が少ない地域に合わせたのか廃村型ステージ。一辺1キロ。私は入って右200メートルの位置に走って、罠を作った。
「壁粉砕」
繋いだ先はサクラ近くで「座標サーチ」を使って見つけた上級ダンジョンの罠部屋。1辺30メートルの正方形。奥にあからさまに罠用宝箱があり、開けると部屋の中央に50匹の猿がわいてくる。入って15回の「壁粉砕」を使い、そこら中にミスリル玉が転がるようにした。
そして追っ手の声がしたとき、きれいに壁を粉砕して自然なまでの小部屋を作った。
見た感じは、ナルサダンジョンの一部が最初から開いていたかのようだ。
ミジコの腰巾着、エデコら10人が罠部屋側に走ってきた。4人はナルサ側で見張りだ。
ミジコもいない。意外に臆病なあいつは、クリオネに重傷を負わせた私を警戒して手下Aと一緒に馬車と馬の見張り役だろう。
「フラン、迎えに来てやったぞ。シクラメン奥様がお前を呼んでいるぞ」
私は罠部屋の出口付近に陣取って、下を指差した。
「ん、足元がどうした。おおっ」
500個近いミスリル玉が、転がっている。
「家には帰りたくない。もっとミスリル出すから、見逃して」
男達は嫌らしい笑いを浮かべて私を見ている。
「ああ、ミジコにもお前は渡さねえ。俺だけで匿ってやる。ここにいる奴らはみんなレベル60台だ」
「なら、もっとあげる。こんなもの、今のスキルなら簡単に出せるわ」
袋に貯めておいたミスリル玉を100個くらい追加した。あとからチリトリを使って回収するのが大変そうだ。
「おおお」
「エデコさん、独り占めはしねえよな」
「もらい。1個15000ゴールドだろ」
「お前らだけずりいよ」
警戒役まで罠部屋側に入ってきた。これで奴らに私の本当のスキルを見せてあげられる。
「ねえ、シクラメンのおばちゃんはなんて言ってたの」
「無傷で連れて来いって言ってた気がするが、そりゃお前次第だな」
「でさ、なんで拘束用の首輪を持ってるの。それはミジコの指図?」
「いや、俺の独断だ。お前の継母がけがさせるなってうるせえし、ミジコもお母ちゃんが怖いのか従う気だしな」
「けど、その首輪って横に薬品注入口があって、意思を奪う薬を注射できるやつ。使ったら死刑になるよ」
「へへへ、ミジコにも内緒で、ある人が俺らのために用意したんだ。金銭的にも肉体的にも満足したら、解放してやるよ」
「それ、持ってるのばれただけで、あんたら粛清されるよ」
「脅しには乗らねえ」
エデコが首輪の装置に薬と魔力を注ぎ込んだ。首輪を付けられた瞬間から廃人コースだ。
「私は実質的に、あなたに支配されて死ぬのよね」
何だか、ダンジョンが怒っている。そしてそいつらをダンジョンの床に吸収させろと私に求めている。
「みんな殺してやる」
クローズで部屋を閉じた。
前にクリオネの右肩を完全に壊した。だけど奴は、なぜ私が強いのか分からなかっただろう。
それが惜しかった。
「だから、商会の手下の盗賊にはダンジョンが私にくれたものを見せてあげる」
ずぼっ。「壁ゴーレム」ぱーーーん。
私に近づいてきた1人に、いきなり15メートルの壁ゴーレムパンチを食らわした。
巻き込まれた奴も入れて3人が真後ろに弾け飛び、巨大な小指に引っ掛かった1人が回転しながら飛んでいる。
「ゴーレムが出たぞ!」
「なんでこんなとこらに、うわあああ!」
一斉に逃げようしたけど、罠部屋の出口前には私の腕ゴーレムがある。追加で6人潰した。
「すごいでしょ。これ、みんな私のスキルよ」
そこで腕ゴーレムを解除して、ナイフを2本持った。首輪を持っている奴がエデコを含めて3人いた。そいつらは白兵戦で仕留めた。
肩を1ヵ所切られ、少し危なかった。だけど、私を奴隷にしようとした証拠のアイテムと人間は回収した。3セットを収納指輪に入れた。
壁粉砕をして元のダンジョンから出た。地上では、ミジコと手下がしゃべっていた。
「フ、フラン」
「どうしたの、久しぶりねミジコ兄さん」
「奴らはどうした・・」
「奴ら?盗賊14人なら、私がスキルで出したミスリル玉を拾ってるわ」
ミジコが嫌な笑みを浮かべた。
「・・フラン、スキルが開花したのは本当なんだな。母さんには俺が取りなしてやる。だから帰ろう」
そう言いながら近付いてくるミジコの手はグーだ。こいつといい、クリオネといい、女の顔を平気で殴る。
ミジコがパンチを繰り出した。私は遅れてカウンターを撃って、先にミジコのアゴを砕いた。
「何が起こったか、分からないでしょ」
過去の慰謝料をもらうと言って、ミジコから20メートル四方の収納指輪を外した。2個目だ。
馬車の中身も根こそぎもらった。手にした金銭は200万ゴールド。ミジコの服、武器と防具には、わざわざプラナリア商会の銘入りがあった。
無事な手下に、エデコの遺体と「禁止薬物付きの首輪」を見せて、冒険者ギルドに行くと言っておいた。
◆◆◆
マーサ家の引っ越しも終わった。
いずれサラとアエラに会いに行くが、しばらくは警戒しながら回数を少なめにする。
その夜、サクラの家で初めて1人で寝た。
アエラの可愛い背中もなければ、サラの笑顔も見られない。
ここ何年間も1人が当たり前だったのに、初めて夜が寂しいと思った。
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