第10話 懐かしい瞳を思い出した
私を蔑んできた継母が、プラナリア商会を実質的に取り仕切っている。あの女が、私のスキルの進化に気付いたようだ。思ったより早い。
あからさまに換金するミスリル玉を増やしたから、当たり前だ。ただ、縁は切れている。それも、勝手に商会の敷地に入ったら犯罪者になるくらいの他人にされている。
なのに、継母はクリオネに命じて私を捕まえようとした。厳密に言えば誘拐だ。
捕らえたら、低賃金でミスリル玉でも出させる気だろう。
継母が私を憎いのは分かる。商才を持ってラフレシの街のプラナリア商会に入社。落ち目の商会を南部でも有数の大商店に押し上げた能力を買われ、先代の仲介で平凡な3代目と結婚。しかし仕事を切り盛りしながら子育てをしているとき、旦那は愛人を作っていた。
その上に、愛人に子供が生まれた。あげくの果てに、その子まで押しつけられては納得がいかないだろう。
だから私は、スキルが開花した片鱗を見せる程度にした。黙って継母の勢力圏から去るつもりでいた。
クリオネの件があったし、これからは方針を少し変える。追って来るなら殺すことまで考える。戦う場がダンジョンなら歯止めが利かないだろうし、覚悟した。
商会の壊滅? それはできない。私が12歳から15歳まで兄弟3人からの暴力、強制労働の日々だったけど、商会の人間に助けてくれた人もいた。多くの善良な従業員も抱えている。
私が物理的な力で元家族5人を滅茶苦茶にしても、不幸になる人が3桁を越える。
そんなことをした人間では、「友達」に正面から会いにいけない。
本当は悔しいが、ギリギリの妥協点だった。
そもそも私は地上では弱気だし、ダンジョンで人より先を行きたい気持ちだけが強くなっている。
◆◆
サクラへ旅立ってから3日間は外を歩き、4個の初級ダンジョン1階に「座標」を作った。最後の初級ダンジョンからサクラダンジョンに「壁転移」して、サクラの街に入った。
念のために座標サーチで「座標」近くを確認すると人が多い。無人のタイミングで「壁粉砕」をするまで40分も待った。
冒険者ギルドに行ってみた。警戒しながらだ。
公開しないが、レベル133も記録される。討伐履歴もクリスタルドラゴン、レベル50オーク4匹が残る。いずれは公開するが、この街ではない。
冒険者ギルドはサクラダンジョンの出口から50メートルと近い。
冒険者が多く入る中級ダンジョンが街の周囲に多いから、素材を求める商人も多い。受付で20分待たされた。
一緒の列に並んでいた人に、街の門番の態度が悪いと愚痴られた。そういえば、街の門すら通っていないことに気づいた。
「いらっしゃいませ、冒険者ギルドへ。ご用は私サーラが承ります」
「この街で、しばらくお世話になろうと思ってるフランです。よろしくお願いいたします」
本当にダンジョンの中の「私」と今の腰が低い私は同一人物なんだろうか。
「ご丁寧に。本日はどのような御用でしょうか」
5センチのミスリル玉に需要があるかと聞くと、1個15000ゴールドで引き取れると言われた。
相場はシルビア冒険者ギルドと同じだ。まずは5個を出した。
近隣5個のダンジョン、さらに東エリアの12のダンジョンに入り、「壁転移」を使えるようにしようと思う。「ランダム壁転移」を狙って開きたい地域があるのだ。
そこで肝心なことを思い出した。しばらくサクラダンジョンを通じたサクラの街が、今後の冒険の帰還ポイントになる。1階に沢山の「座標」を作らねばならない。
◆
ゴブダンジョンと違い、ハーブ代わりにもなる薬草と角ウサギ目当てに初心者、低級冒険者で溢れているダンジョン。安全な街の中にあり、1階だけは角ウサギの角も1センチで逃げ惑うらしい。
1階に「壁転移」の座標を幾つか作ろうと降りたが、困惑している。
「壁転移」は人に見られたくない。だけど1階の2キロ四方のゾーンに人がたくさんいる。遊んでいる子供までいる。ここは半分、公園と化している。
タイミングでは誰もいない場所があるだろうし、壁に手当たり次第座標を作るしかない。
◆
「ふうっ。座標って3メートル置きに作れるのね。一辺2キロのフィールドの壁は8キロ。そこに3メートル置きに座標作ると2600個。30メートル空けても260個」
30メートル置きに20個の座標を作ったが、もう嫌になっている。あと240回もやりたくない。何か、もっといい方法が欲しい。
ふいに声がかかった。
「お姉ちゃん、何か探してるの?」
6歳くらいの幼女だ。橫に12歳くらいの女の子がいる。
ダンジョン内で強気モードの「私」がオラオラしないか心配したけど、子供相手にイキることはなかった。
「うん。お姉ちゃん、珍しいスキルを持ってるから、ダンジョンの壁を調べてるの。ここは初めてよ」
「珍しいスキル?」
小さな女の子が目をキラキラさせている。
「うん。ダンジョンの壁を掘って、売れる金属を手に入れるの」
「お金になるスキルだ」
「大儲けはないけどね」
「すごおい。お姉ちゃん天才だ!」
「私達、そろって魔法適正がありますが、大人にならないと役に立ちません。うらやましいです」
良く見ると、2人とも汚れている。靴もボロボロだ。薬草を持ってるけど、掘るためのスコップも古い。
事情ありの子供のようだ。下手すると、少し前の私のようにダンジョンで寝泊まりしているのかも。
シルビアで私は大切な「壁削り」を笑われ続けた。
だけど、この姉妹は目をキラキラさせて私を見てくれる。
その2人の瞳から、目が離せない。女の子2人だけど、あの男の子が向けてくれた優しい瞳。
10年ぶりに感じる、唯一の友達と同じ暖かい視線だ。
「余裕もあるから、少し手助けしたいな」
瞬時に心境が変わった自分に驚きながら、ピッケルを構えた。
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