第11話 サラとアエラの姉妹
安全なダンジョンの1階で2人の子供に会った。
恐らく訳ありだ。
「ねえ。お姉ちゃんのスキル、余り人に見られたくないんだ。私が壁を掘るとき、2人は3メートル離れて誰も近付いて来ない時に合図して。分け前は出すから」
「本当?」
「やらせて下さい」
2人は壁と反対側を向いた。必死に周りを見渡す6歳児の背中がかわいい。
私はダンジョンの壁に手を当てた。壁を粉砕した向こう側はゴブダンジョンに指定。橫10センチ、縦は・・
「最大200メートル。なるほど」
私のスキルはダンジョンの壁を粉砕して、300キロ以内の2つのダンジョンを繋げる。
フィールド型と迷路型でつながったときは、粉砕できる範囲を小さい方に合わせる決まり。
「ここと同じ規模のゴブを繋げると、橫2キロ、縦200メートルまで可能か。思い切って、縦は200メートルで」
「壁粉砕、直後にクローズ」
注意して見ている人がいれば、一瞬だけ向こうが見えるくらいの時間で壁が開いて閉まった。
200メートルの高さから「採取」できた金属が落ちてくるかと警戒したが、すでに金属は下にあった。
鉄の塊が4個、5センチのミスリル玉22個。違う1センチ玉が1個。
商業ギルドでは5センチのミスリル玉が15000ゴールドで買い取ってもらえた。買い取り価格はいい方だ。不純物ゼロで採掘、精製の過程を飛ばせるから。
今回はミスリル玉だけで33万ゴールドになる。採掘能力も生まれ変わっているのだ。
ただし、そこから先のスキルが公表できるシロモノではない。学者なんか、絶対に寄せ付けてはいけない。
「お姉ちゃん、そのきれいな玉ってなに?」
「ミスリルだよ」
「たくさんあるよ、すごい!」
「レアスキルなんですね」
ぐ~~~。
6歳児のお腹が鳴った
「ふふっ、大漁よ。あなた達に会って幸運をもらえたみたいだね。報酬とは別に、ご飯おごるよ」
ここは孤児が住み着くような位置。中央にある出入り口から見ると左奥で、出入り口まで3キロある。
6歳児を抱えて走ろうかと思うと、12歳女子にお願いをされた。
「あの・・名前を言ってませんでしたが、私がサラ、妹がアエラです」
「私はフラン」
「ご飯はお気持ちだけで・・。それより、お姉さんが次に採取するときにも助手として仕事をさせて下さい」
困った。正直、鉱物採取は一回きりの気まぐれだった。
「お金が必要なのかな」
「はい。お母さんが病気だけど、薬を買うお金がないんです」
「お母さん、ちっとも元気にならないの・・」
2人は孤児ではなかった。父親は亡くなっているが親はいた。私の先走りだ。ダンジョンで強気になれるけど、洞察力は変わっていない。
だけど、放っておくと揃って孤児になる日は近いみたいだ。それに2人の「匂い」が気になる。臭いとかではない。
私は今「ダンジョン内の私」だから、人の生首を観察するくらい残酷になれる。
だけど、まともな子供達と接してみると、それなりに対応している自分がいる。
「助けてもいい。採取は本来の目的じゃないけど、この街に住所は構えるから」
私はサクラに居着くことはないが、継母へのカモフラージュのために拠点を作ったふりをする。ただ、あまり街に出る気はない。1人歩きも長時間は嫌だ。
スキルが進化してからこっち、ダンジョンに入ったときの方が心が落ち着くのだ。
ダンジョンから50メートル離れて、1人でギルドの受け付けカウンター前に並んでいるのも落ち着かなかった。
ダンジョンの真横に家を借りて、サラちゃんにギルドに素材売買に行かせてもいい。
「そういえば家は?」
「あたしんち、この真上にあるお食事やさんだったけど、ずっとお休みなの」
「真上?」
「来てみますか?」
どういうことだろう。ダンジョンは空間的に通常とは違う。座標が地上と一致するのは、出入口だけ。
6歳幼児のアエラがダンジョンの壁際の草むらを掻き分けて、何かを押した。
ゴゴゴゴ!
「隠し部屋だ」
だけど、誰も驚いていない。
20メートル四方で天井まで8メートルのセーフティーゾーン。上に続く階段まである。私は驚いた。
「隠し部屋と、隠し階段です。階段はうちの家の裏口の前に繋がってしまっているんです」
ダンジョンにたまにある現象。隠し部屋の一種で、宝箱部屋や罠部屋の仲間だ。
例えば特級ダンジョン中層に見つかるとする。そこで休める上に階段の出口も、繋がった位置次第では脱出経路にも使える。
発見した冒険者が情報をギルドに売れば、大きな稼ぎになるケースが多い。
しかしサラとアエラの家に出来あがったのは、フロア全体がセーフティーゾーンのような初級ダンジョン1階からの脱出路。情報に価値はない。
5年前、サラの家の庭に地下室の入り口のような階段が現れた。だから、所有権はサラの母親にあると認められているが価値はない。階段を塞いでも、1日で穴が開く。
サラの母親に病気の兆候が見えたとき家の売却先を探したけれど、今も買い手はいない。ダンジョン出入口から誰も入ってこない保証はない。不良物件だそうだ。
まとまった金を作り250キロ東の母親の実家近くに移り住めないまま、母親の容態が悪化しているという。実家への連絡も取れていないそうだ。
「これは買いだね」
その話を聞いて、私は彼女らへの支援を決めた。
この出会いは、ダンジョンの導きだ。2人から感じた「匂い」はこれだった。
ダンジョンに直結している家。私が人に見られず「壁転移」の座標を作れる1階のポイント。
セバスティアンから剥ぎ取った収納指輪には、解毒や体力回復の各種ポーションも入っている。お金も使い切ってもいいから、手に入れたいくらいの価値がある。
「お腹は減ってるでしょ。とりあえず保存食は山ほどあるから、ふたりの家に行こうよ」
「どうしたんですか」
「ダンジョン絡みのレアスキル持ちだから、ダンジョン出入口がある家はぜひ見たいの」
「母の病気のことは・・」
「任せて!」
会ったばかりの子供に付いて行って、状況も見ていないのに安請け合い。
私のことだけど、私は大丈夫なのだろうか。
ダンジョンから出た直後、普通のフランに戻った私は思った。
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