第8話 精密すぎる壁ゴーレム

クリスタルドラゴンを倒したあと、ジャイアントキリングの「エクストラボーナス」でもらった「壁ゴーレム」と「座標サーチ」が増えた。


4階からサハギンが出るダンジョンに入ってみた。


『エクストラスキルを一晩も放置しましたね』

「変なナビ音声だよ。使い方は・・壁に手を付いてと。うおっ」ずぶずぶずぶ。


周りを警戒するため、壁に背中を向けて手を付いていた。腕は後ろ手だ。


MPが100減って、壁に付いた両腕が肘まで吸い込まれた。腕1本MP50。

『座標を指定して下さい』

嫌な予感がする。私から10メートル離れた場所に指定した。


ぼこっ。


私の腕が肩の根本まで、15メートルに巨大化したような灰色の壁と同じ模様になって生えてきた。


「すげえ、まさにゴーレムだ。けど、私が直接動かしてるよ。普通、魔力で操作では・・」


壁に付いた手に感覚はない。代わりに壁から出たでかい手に感覚がある。


突然、右の頬が痒くなった。


右手人差し指を伸ばし、右肘を内側に曲げて頬をかこうとしたつもり・・。ゴンッ。


私の本物の腕は壁に埋まっている。実際に動いたのは、15メートルのでかい腕。


私の数十センチ右側の壁に、私の腕より太い指が激突した。


冷や汗が流れている。


「アブね。嫌な予感はこれだった。これって、操作間違うと自爆だよ」


ペタペタ、ペタペタ、ペタペタ。

悪いタイミングでサハギンが現れた。左から10匹だ。


「やばっ。マグロ頭がキモッ」


1匹目、2匹目・・7匹まで、でかい左手で払った。みんな爆散。


3匹が腕の攻撃を掻い潜ってしまった。壁に両手が埋まり、急所をさらしている私に槍を向けて突進してくる。


のちに「解除」と唱えればいいと知ったが、今は余裕がない。思わず、壁を両足で蹴って腕を引っこ抜こうとしてしまった。


ずぶずぶずぶ。「えええええ!」今度は両足まで壁に飲み込まれた。MPも100持っていかれた。


両手両足を後ろの壁に飲まれ、胸を付き出して体をのけ反らせ、急所むき出しの私。背骨がきしむ。


左からマグロ頭が迫る。ペタペタ、ぺタ。


『ゴーレムを出す座標を指定して下さい』またも、あのナビ音声が鳴った。


「左、左!左左左、左!」


どどん。どどん。

べちょっ。


瞬時に壁模様の2本のでかい足が壁から生え、サハギンをとらえた。


「あ、えと、あっ。解除」どさっ。


「すげえ威力。だけど、使い方考えないと、自分の技で死ぬ」


ダンジョン限定だか、2個目の無敵技を手に入れた。背骨の痛みに耐えながら、笑った。


この「壁ゴーレム」で戦いの幅が広がるが危険すぎる。ゴブダンジョンで色々と考えることにした。壁際である。


パーツ1ヵ所をゴーレム化するごとに消費MP50。自分が触れている壁面ならどこにでも出せる。


「さて、全身が壁に飲まれてゴーレム化してくれたら、むしろ安全だけど・・。よしっ」


ゴーレム化は、頭、胸部、腰部、両手、両足の7パーツで別途使用。

さっきのように急所をさらされずに使える


「ゴーレム化したパーツは、すごい可動域が広いね」


私の真上にゴーレム化した右腕を出して90度回転させた。そして、私を手のひらで覆ってみた。鉄壁ガードを作ろうと思った。

「難しい。何も見えない上に、操作に慣れてない。自分を握り潰す危険性が大きい」


次は全身。一気にMP350が体から抜けた。


座標を地上10メートルに指定すると、一瞬で40メートルで壁模様の私が生えた。


ごんっ。「ぶっ」


ただし、10メートルの高さで壁から真横に巨大な私が生えている。向きは下で、地面に頭突きをした。痛みはないが感覚はある。


「うわ、立った状態で構築できたのか。失敗。動きはモロに私の身体能力に依存だ」


起きてみた。体の1ヵ所は1ミリでも「座標」から3メートルの円内に付ける必要がある。動作の制限はあるが、大きさ25倍。石を投げてみてもパワーは尋常ではない。


ただし、40メートルになって走り回り、安全なダンジョン徘徊は不可能である。


「超級ダンジョン一気に攻略の目論みは甘すぎたか」


髪はない。だけど顔の触り心地もある。手の指紋まで再現してある。下の方を見た。


「・・あれれ、まさか」


1度ゴーレムを解除して、首なしゴーレムを作った。壁から私の生首が生えて、目の前には巨大で裸の私がいる。


ゴーレムを寝転ばせて股を開かせ、私に局部が見えるようにした。


ぱかっ。



「あいちゃあ」

すごい再現力。昔、脛にできた古傷までゴーレムの方にも付いている。


問題はそこではない。


自分で自分のモノを見たことがないが、女性の股間にあるべきものが、全て付いている。左右対称ではない曲線がリアルで生々しい。


「私の顔より大きいケツの○○まであるよ・・。そこは、もっと適当でいいよ」


土魔法のレアスキルに「ゴーレム術」がある。

私も人前でスキルを使う必要があれば、ゴーレム術と言い張る。だけど足は開かない。


乙女だから。



気を取り直して次の検証と思ったが、「壁ゴーレム」のMP消費が激しくて残りが196しかない。総量1330だけど、魔力不足の兆候がある。体がダルい。


「魔力不足寸前。もうひとつの新スキル「座標サーチ」はMP10か。試してから休もう」


『座標サーチを使いますね。いよいよですね』

またもヘンテコなナビ音声だ。


壁に手を当てて、スキルを唱えた。さっきの座標に指定すると、モノクロだけど指定座標から100メートルの範囲で全てがみえている。


私が撒き散らかしたサハギンの残骸。次に走ってきた冒険者2人と、追う10匹のサハギン軍団。そして60メートル左横の岩影にある隠し階段のスイッチ。


これも有能だ。


だけど、壁ゴーレムに苦言を言いたい。


「ゴーレムは高性能すぎて、サハギンをつかんだときの、ぬるっとした感覚まであるんだよな」



ダンジョン神は、私で遊んでないだろうか。


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