第7話 ジャイアントキリング

『初のダンジョン5階到達です。1度だけ300キロ以内で「ランダム壁移動」が可能です』


階段橫ではスキルを使わず、ノルマ達成のあと寝ようと思ってセーフティーゾーン横に行った。


「楽しいけど疲れもあるね。シルビア周辺では、これを最後にしよう」


「ランダム壁移動」ぼこっ。


前回と同じく3メートルの穴が開いた。


ぞくっ。ぞくぞくぞくっ。


中を覗く前に、背筋が冷たくなった。


ただ、異様においしい空気が流れ込んでくる。


ダンジョンでは強気な「私」でさえ、穴を「クローズ」してもいいと言ってる。なのに魅惑の匂いに引き寄せられる。


「ちょっとすごいよ、ここ」


壁の向こう側も密閉空間なのに、奥行きが10キロ以上ある気がする。


それに10メートル先には、強いオーラを放つ水晶が転がっている。


「とりあえず登録」


気休めの80センチ鉄盾を持って向こうのダンジョンに入り、壁に手を当てて座標登録。


「ん?」


足元に私の肘から先くらいの水晶が2本落ちている。

不安感バリバリなのに、欲に駆られて水晶を拾って収納した。


「ここの情報が頭の中に入ってきた・・えええ!」


ここの存在は誰でも知っている。


シルビアから真南に290キロ。島自体が魔境と化した直径30キロのバミダ島の二合目に入り口がある超有名ダンジョン。


「ギルド制定の頂点のひとつ、バミダ超級ダンジョン?」


唖然としてないで、急いで帰るべきだった。その少しの間に私を狙う捕食者に見つかっていた。


キラッ。


私は空から急接近した魔物に見つかっていたようだ。


「え、何あの青いキラキラの飛行物体。逃げないと」


ダンジョンに開けた穴から飛び込むだけなのに、間に合わないと直感した。


が、幸いなのはダンジョンの壁際であったこと。


魔物がどんな奴だって、ダンジョンの壁は破れない。激突すれば無事ではすまない。


空飛ぶ魔物はスピードを急に落として、20メートル先に着地した。


私はもう穴の中に飛ぼうとしていたが、急降下↓減速↓着地↓走る。その4つのアクションをした魔物の方が速い。


1階でレベル230の魔物が出るダンジョンの5階。向こうからしたらレベル54の私の動きはスローモーションなんだろう。


私の体はゴブダンジョン側にギリギリ入った。


だけど、3メートルの穴から頭が追ってくる。


「ダメだ、あ、いや、そうだ「壁ギロチン」」 ザクッ。



盛大に転んだ。

「・・・」


私は起きたが、腰に力が入らない。膝をついて、壁と反対側を向いている。


背中側には尋常じゃない威圧感がある。


「壁ギロチンは、は、発動したよね・・。でも真後ろから・・・見てみるか」


後ろを振り返った私は、絶叫した。

「うわああああああああああああ!」


顔の数センチ前に20センチの牙が並んだデカい口が空いていた。


「うわあ、ひっ、ひっ、ふっ?」


死んでると思う。なのに過呼吸を起こしている。


「はっ、はっ・・」


青みがかった透明な鱗、20センチの牙が並ぶ口。ちょっと離れてみると分かった。


ドラゴン、図鑑で見たクリスタルドラゴン、の首だ。



「・・やっちまったよ。私、ドラゴンスレイヤーだ」


ドラゴンの首は「壁ギロチン」でぶったぎった。3メートルくらいの大きさだから、収納指輪に入った。


牙、目、鱗といったドラゴンの素材を手に入れた。80年前のアイスドラゴン以来、記録がないバミダダンジョンの素材だ。


残りは間違いなく壁の向こうにある。怖いけど「壁粉砕」で5メートルの穴を開けると、綺麗なドラゴンの首の断面があった。収納指輪を当てて収納と唱えたが反応なし。指輪の限界20メートルを越えているということだ。


滴り落ちる血はいろんな物に10リットル保存した。


壁を開けた時、壁の支えを失ったドラゴンの断面が2メートルほど、こちら側に入ってきていた。


壁ギロチンで追加して2メートル分の輪切り肉と鱗を得た。


「向こうに素材を取りに行く選択肢はない。怖すぎる。無傷の頭で我慢しよう」


ピ・・

ピピ・・

ピピピ・・「ん?」


『レベル差100越え単独討伐達成。ジャイアントキリング。エクストラスキル解放です』


「ジャイアントキリング。初めて聞いた言葉だな。新スキルは「壁ゴーレム」と「座標レーダー」が増えてる」


『早速、使ってみよう』

「なんだよ、このナビ。ごめん、今日は気力も尽き果てた・・」


セーフティゾーンで倒れた。レベルアップ音がしたけど、意識が薄れてきた。


◆◆

起きて少し頭がスッキリしても、またドラゴンの恐怖が蘇ってきた。


「レベル54の私がよく死ななかったと思うよ。

・・え。レベル133?」


そうだ。


私が壁ギロチンで倒した判定のクリスタルドラゴンはレベル238~242くらいだ。


世界にはバミダ、北の方に3500キロのチマランマ、はるか東のインカリと3つの超級ダンジョンが確認されている。


3つの共通点は、多くの富を生む素材だらけの「魔境」がダンジョンの周りに広がっていることだ。


私は、やってしまった。


特級ダンジョンのダンジョンボスだって、最高でレベル180までしか確認されてない。それよりレベルが上の魔物を倒してしまった。


最初のダンジョン攻略者、パリパ在住で今年217歳のジャンヌ様でもレベル180だと聞く。


私は世界で何番目なんだろうか。



素材をどうするとか、考えることが増えた。


今いるオルテガ国で売ったりするのは危険だと思うし、なおさら国から出る動機ができた。



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