2-日照り

自分たち以外が全く見えず、ゲレンデにはただでさえゴマ粒くらい小さく見える人さえ自分たちが出てきた瞬間に見えなくなった。完全にゲレンデが空っぽになった。

がちゃがちゃとスキーやスノーボードの靴の音を鳴らしながら入ってくる株式会社カルティンブラの面々。規模は小さいが個人法人問わず広告の作成や、ホームページ作成代行その後のメンテナンス。企業専用のアプリケーションのプログラミングなど、マルチに活動をしている。会社の総従業員十四名でプチ社員旅行に来ていた。

カルティンブラが宿泊しにやって来た咲塚スキー場はいわゆる老舗だが、その老舗らしさが残りすぎている。若い客がつかない理由の1つでもある。立地は不便だが、その地ならではの食事などを楽しめる。しかし古きよきものを大切にしすぎるところがあり、古臭い内装、レトロでは片づけられない不便さ。新規でやって来る客の中には酷評をして帰る人も少なくない。

けれど

「こんなところあるならもっと早くに知りたかったなあ~」

「人も少ないし、雪の質も素晴らしい。琴音くんの言う通りだ。冬だけじゃなく、夏は花も咲くようだからまた違う季節に来てみるのもいいかもしれない」

「社長の驕りで来ましょう!オレそれなら毎回行くっす!」

「社長を何だと思ってるんだ、全く。出水くん」

「偉大なる桑木シャロン社長だと心得ていますが?」

高評価だった。

カルティンブラのおふざけ担当で、創立メンバー。出水千(いずみせん)。社長の桑木シャロン(くわきしゃろん)。ギャルだがゾンビなどアポカリプスタイプのグラフィック作成が得意な琴音環(ことねたまき)が先頭切って寂しい気配の館の中を闊歩していく。

「あ、ここの咲塚?でしたっけ?を見つけたのって矢車さんなんですよね。どうやって見つけたんですか?」

「友人の紹介よ。一度来たことがあって、良さそうな場所がないかを聞いたら真っ先にここを教えてくれたのよ。穴場スポットだから人も少ないし、雪もいいって」

「へー!施設自体も大きくないからいいっすよねー!」

「それでもゲレンデは広いですしネ」

末っ子気質のBGMなどサウンドトラックに詳しい郡上ひろき(ぐんじょうひろき)。会社の優しいお局的お母さんの事務担当、矢車妃美(やぐるまひみ)。日本語のかたことさがまだ見えるトゥベリカ・ユーンは主要言語をほぼ網羅しているため翻訳系を任されている。

人数が少ない分必然的に関わりが深くなりこうやって社内行事が全員参加になるほど距離が近い。

今のところ全員が桑木社長からのスカウトでスタッフは会社にメンバー入りしている。琴音と出水はその中でも一番古い付き合い。桑木からの信頼も厚く、多くの仕事を一緒に受けている。新しく入ってきた都内季(みやこだいき)や弓削京(ゆずりきょう)など、まだ専門学校に通っている二人の研修も行っている。

「アタシまだVの肉付け仕事残ってるのにー」

「まあまあ瑠衣ちゃん。旅行中は仕事のこと忘れよう、ね?」

「ヴァニラちゃん、瑠衣のこと甘やかすなよ!」

「ディアさん怖い!」

杉澤瑠衣(すぎさわるい)はカルティンブラの中でも屈指のメルヘン的な思考回路をしている。元はドレスや、ロリータのような服飾を目指していたが衣装を作る際のラフ画を描く作業が楽しくて、絵師へと転向した。そんな杉澤のことを甘やかすのはチャーリー・ヴァニラ。桑木と同い年で最年長。姉のような、母のような立ち位置でスタッフ全員のことを大切にしている。カメラで写真素材を撮り集めている。琴音とカメラ組候補の都を教育している。

プログラミング専門の臣道郁斗(しんどういくと)にディアと呼ばれた奥山ディア(おくやまでぃあ)は2Dグラフィックを専門に行っており、様々な絵柄を持っているため実力は高く評価されている。ディアは日本生まれ、日本育ちのイギリスと日本のハーフでヴァニラが転校して来た高校からの付き合い。未だにヴァニラに対しての感情に気づかないことに周りがもどかしさを感じている。

「クワキ、かなり疲れたね…」

「ミカエルはマッチョなのに体力がないな」

「マッチョ、みんなが体力あるなんて、思わないで」

「はは!すまない。午後は好きに過ごそう。滑りたい人は行っておいで」

「やった!ひろき行こうぜ!」

「あ、僕も行きたいです!」

「おし、みんなで行こう!」

「出水先輩も行くー!」

体力に底が見えないと呆れながら大人組が眺める。しかしその顔は全てが喜色に染まっている。

声をかけたのは六波羅遊昌(ろくはらゆうしょう)。実家は九州の名家で、堅苦しいのが自分の身に合わず、自分のしたいことがはっきりとしていた六波羅は無理やり選んだ東京の大学に進学と共に飛び出してきた。そして桑木に拾われて、整った環境を作れるだけの余裕が出来た。DTMに詳しかった郡上と分からないことを模索し合った仲が今も変わらず良好に繋がっている。

「京ちゃんは、私と一緒にお菓子でも食べようね」

「はい!」

「ワタシもいれて」

「もちろん。あ、男子は禁制ですよ!」

「行く気もないよ。ミカエルたちと酒でも飲むよ」

「せめて昼ゴハンの時に、しなよ。クワキ」

「酔ったらスキーが危ないって?」

「社長が死んだら会社潰して金分配っすね」

「どのくらい愛されてるかが分かってよかったよ」

アハハと笑い声を響かせながら器用に動きずらいスノーシューズで歩いて行く女性陣。その中に流れで紛れ込む性別不詳のヴァニラ。

「おいちょっと待て」

「あら?」

「お前はノーカン。俺らと酒飲むぞ」

「あっらあ、心配しなくたって誰のことも襲わないわよー」

「お前ならしかねない」

笑いながら言う臣道が背中を叩こうとするが奥山がその手から庇うように立つ。おっ、と眉毛を上げる。

「ヴァニラちゃんは俺たちとお酒飲もうね」

「仕方ないわね。一緒に飲みたいなら最初からそう言いなさいよ」

「ディアサンってもしかして奥手?」

笑いながらそう聞いたミカエルに拳を上げて追いかける。高校からの癖が抜けずに今もヴァニラちゃんと呼ぶところが可愛い、と会社内ではいつも噂になるほど。


「ヴァニラさんって何気に女子力高いからこっち陣営に引き込めばよかったあ」

「杉澤ちゃんも女子力高いじゃない」

「でもですよ、矢車さん!どうしてあんなに肌が綺麗なんでしょう!おかしいと思いませんか?どんなスキンケアしてるのか聞いても答えてくれないし」

「分かります!私必死にいろんなもの試してるのに…ヴァニラさんの肌羨ましいと思って見てます!」

美容に関心のあるお年頃の二人は大きく反応。一方一周回ってどうでもよくなり始めたマダム組はお可愛らしいという視線を向けている。

「本当にしてないんデショ」

「そうかもしれないですけどお…」

「車でコンビニまでお菓子買いにでも行きますか?私出します」

「私昼寝して待ってる。その他の子は遠慮せず行ってらっしゃい」

「行きます!」

「行きます!」

単純な娘っ子二人はカルティンブラのムードメーカー。その分問題を起こすこともあるけれど社会経験が少ないなりの頑張り方をするからそれが士気の向上にいつも繋がっている。

眠っていないと車酔いをするから。

そう言って他の四人が部屋を出る時には軽い寝息を見せていた琴音を起こさないように静かに部屋を出て駐車場に向かった。最上階が四階のそこまで大きくない建物だが完備されているゲレンデ側に向いているエレベーターに乗り込む。

「お弁当のゴマみたあい」

「誰か、は案外分かるわね」

「ワタシも分かるワ」

「ユーンさん目いいですね。私悪くいからほぼ何も見えない」

「この前計ったら二はあったネ」

「二?もう何でも見えるじゃん!」

「人の心は見えないヨ」

冗談なのか、本心なのか分からない発言に苦笑いの弓削は答える。

「それは見えなくていいかな」


誰かが停めることもなくなった地下駐車場は今は封鎖されている。自動ドアを抜けて屋外の広い駐車場に出た。寒い空気で人が生きている様子が消されている冬のこの場所はさらに孤立しているように感じる。硬度があり、この瞬間も降り積もっている雪を踏んですぐ近くの車に乗り込む。

会社が税金対策で買った車で、車に詳しい臣道がいろんな情報を管理している。そして車にうるさい臣道から汚すな、と再三言われている。

全員スノーブーツの雪をトントンと足同士をぶつけて落とした。

車の中でかかるCDは完全に年功序列や権力によって決まる。世代が大きく外れることはないがジェネレーションギャップを感じることが一部のスタッフはあるらしく無難なロックバンドの最新アルバムがほぼいつもかかっている。

「このバンドって誰の趣味ですか?」

「社長か、出水さんじゃなかっタ?」

「ああ、私よ」

「妃美さん!?めっちゃ意外」

「失礼……なのかね」

いつも落ち着いた雰囲気で分からないことがほとんどないので何かあったら矢車の所に行けば大丈夫。モモの所に行ってごらん!のようにその言葉はカルティンブラの面々の決まり文句になっていた。

それ故に激しいリズムが特徴的で、ボーカルの声量でゴリ押ししている感が否めないこのバンドを趣味で聞いているのは全員の中で意外だった。意味をちゃんと理解しない人に洋楽を好きという権利はないとか言いそうなタイプだ、と杉澤は言う。

「私洋楽聞いたことないわ。日本語でも意味が怪しいときあるもの」

「意外だネ。もっとエレガントな生活送ってソウ」

「じゃあ休日の私は見せられないわね」

「どんな感じですかー?知りたいですー!」

「私もっ、知りたいです!矢車さんみたいな人に憧れてるので!」

「お子様方の純粋な瞳は怖い質問してくるわね。面白くないわよ?」

そう言いながらも面白おかしく話してくれた内容に全員はロックバンドに負けない声量で笑った。

「姐さんこれ買ってイイ?」

ユーンは矢車のことを何故か姐さんと呼ぶ。それも漢字はどっちだと思う?という質問で全会一致で姐御のニュアンスの方で呼んでいる。ユーン本人は癖だと言っている。矢車は出会った頃からそうだと言っているが真実は定かでは無い。

「いいわよ。ユーンそれ好きね」

「日本のお菓子でいちばん美味シイ」

「そう。大先輩の奢りよ。いくらでも入れなさい。そこの子供も」

「わーい!矢車さん神!」

「じゃあ遠慮なく入れますね!」

お菓子だけじゃなく、軽食夜食。琴音が一番喜ぶもの戦争。昼ごはんは既に食べているので軽いものだけ。ジュースや酒をカルティンブラの人数分買っていると相当な量と額になった。全員で荷物を抱えて再び車に乗りこみ遠い遠い咲塚スキー場までの道を戻った。

帰りはユーンが運転した。午前中のスキーの疲れもあったのか矢車以外の子供二人は軽いいびきをかいて眠っていた。激しいロックバンドの中でも珍しいバラード系の楽曲がスタートで音量を下げるのを忘れていてハードロックになった瞬間に二人は揃って目を覚ました。

「何この騒音!」

「音量下げ忘れてタ、ゴメン」

「あ、そうだ!三人は帰って軽くお菓子食べたらもう一回滑りに行きます?ナイターまでゆっくりしますか?京ちゃんはどうする?」

「私はおやつ食べたらもう一回行きます。感覚取り戻しかけてるので、ちゃんともう一回滑れるようにしたいし」

「じゃあワタシ教えに行くヨ」

「やったあ!ユーンさん教え方上手だから嬉しい!」

「アリガト。姐さんはどうするノ?」

「琴音さんに合わせるわ。今昼寝して体力も回復するだろうけど、まだ寝たりないとか言い出すかもしれないし。琴音さん一人置いておくわけにも行かないでしょ」

姐御肌の矢車さんの大人の余裕に杉澤は口笛を吹いて茶化す。

「じゃあアタシも大人組に着いてきます!」

「ご自由にどうぞ」

「ご自由にしますねー京ちゃんと、ユーンさんはお気になさらずどうぞ!もし行ったら一緒に滑りましょうね」

「そうしようネ」

「はい!もちろんです!」

宿に着く頃に完全に寝落ちていた弓削を起こしてホテルの中に入って行く。

「あれ、今帰ってきた感じ?」

「出水さん、そうです」

「結構買ったねー太るよ」

「あー!琴音さんに言いつけちゃお!デリカシーに欠ける発言ですよ!」

「やめて。環だけはやめて。お願い。ごめんなさい。環はやめて」

懇願する姿を見て杉澤は勝ち誇ったように笑う。出水が杉澤の背の奥を見て、さらに周りを見回したのを見て新たな質問を送った。

「環さんなら部屋ですよ。スキー疲れたって寝てます」

「あ、マジ?」

「用事あるなら伝えておきます?」

「んーいいや。全然大した用事じゃないし。ポテチ頂戴。持ってるの見えたよ」

「目ざとい人だな。ほら、どうぞ。出水さんの好きなコンソメですよー」

「ありがとう瑠衣。じゃ!」

嵐のように過ぎ去った出水の背中を見送ってルームキーを弄びながらエレベーターに向かって歩く。四階はフロア全てが客室になっているはずなのに誰かが出入りする様子を見たことがなかった。それと並んで、エントランスにも売店にも人がいる様子がないな、と見回す。

ほぼ貸切状態なこと満足の笑みを浮かべる。

「杉澤さん?どうしたんですか?」

「べっつにー?」

「変なの」

「可愛い奴だな。京ちゃんはー!」

「はい?どうして私が可愛くなるんでしょうか?可愛いのは認めますけど」

「そういうところ好きだぞ」

この寒い中アイスを買ったユーンと矢車が先にエレベーターに乗って上に行った中、先に行っていていいと言ったのにエレベーターの前で律義に待っているのを可愛いと感じた先輩心を杉澤は隠した。髪の毛をむやみやたらに触られたくない症候群を無視して頭を撫で繰り回した。

やめて、と言いながら嬉しそうな表情を見逃さなかった。

エレベーターに乗り込み、四階に上がると客室の前にユーンと矢車の二人が袋を抱えて待っているのが見えた。小走りで部屋の前に行く。

「鍵渡してたの忘れてタ」

「琴音さんまだ寝てるっぽくてチャイムを押しても意味なくて」

「廊下の寒い中アイス食べることになるとは思ってなかったネ」

「あ、ごめんなさい!すぐ開けます!」

杉澤は持っていた鍵を鍵穴に刺して回した。

「お、おかえりー」

「起きてる?」

「琴音さんー!起きてたなら開けテ!」

「え、鳴らした!?作業してたから聞こえなかったわ!ごめん!あ、アイス溶けちゃった?」

「もう食べました。けど廊下クソ寒なのでお腹が冷えました。もう一回謝ってください」

「大変申し訳ありません」

大人が真面目に謝る姿が面白くて鍵を持っていたことをすっかり忘れていた元凶が笑い始める。

「瑠衣ちゃん?」

「妃美さん……ごめんなさいです」

「許す」

「お腹痛いのも治ったし、お菓子パーティーしましょう!」

「治るの早!」

買ってきた飲み物は小さい冷蔵庫へ。お菓子はそのままベッドやサイドテーブルにぶちまけられる。そこから自分が勝ったものではなくても、各々食べたいものに手を伸ばす。夜に食べるようのことは考えずに、スキー後に美味しい昼食を食べたことも一度忘れて。一度傍に置いておいて。

食べた。

「あ、環さん」

「ん?」

「菓子パ終わったらスキー滑りに行きます?妃美さんが琴音さんと一緒にするって。それにあたしも着いていくんです」

「あー、どうしよう。行こうかなー。食べた分のカロリー減らさないだし。晩御飯に向けて」

「じゃあ女子陣営全員賛成ってことで!」

カロリーは運動する意欲だけでも減る。常識としてこの空間に流れているテロップの嘘には全員が気づかない振りをする。この現実に気づいてしまったら何だかダメな気がしていた。

「議題決めましょウ!」

「テーマってことね。どうする?恋バナとか?」

「環さんお若ーい!もう、すっ飛ばして結婚じゃないですか?出水さんと環さんはいつになったらくっつくんですかー!」

「千と私はそんなんじゃないよ。だって私、千のこと好きじゃないし」

「ガチのトーンじゃないですか……出水さんほど優しい人見たことないですけど……」

「あのね、京ちゃん。みんなと仲よかったり、みんながいい子だからあんな犬みたいなわけ」

「一応先輩を犬ですか……ほうほう……」

口を突っ込むな、と矢車に突っ込まれる。

「でもね、最初とか敵意を感じたらすごいよ。もう。言葉とか選ばずに攻撃してくるからね。想像できないかもしれないけど、あんなににこにこ笑ってないし」

「それでも仲良くなったらあんなに変わるんですね」

「そうよ。今でこそ私のことちゃんと矢車さんって呼ぶけど、一番最初はババアだったわよ」

「殺せ。殺すのだ!今すぐに殺せ!こんなにも美しい方を!」

「私は殴ったらおとなしくなったネ」

「え?」

「ん?」

時が止まり、その発言はなかったことになった。

ユーンは案外手が出るタイプと学んだ杉澤であった。

「ベイビー欲しいかじゃナイ?」

「あー、確かに」

「確かにってなんだ。京ちゃんはまだ早いねー?」

「私だって結婚できる年齢ではありますよ!」

「ムキになっちゃってー。かーわーいーいー」

「琴音さんまで……そう言う琴音さんとか、笑ってる矢車さんはどうなんですか!」

「どうしてそこにユーンが入っていないだろうね?京ちゃん?ユーンだって独身組でしょ?」

尋ねる視線で矢車が聞くと、ユーンは何でもない顔をして爆弾発言を投下した。

「アタシ、結婚してたよ」

「何て仰いましたー!?」

杉澤の勢いがよすぎる返事に驚きながらも笑ってちゃんと言い直す。

「結婚してたヨ、言ったケド?」

「いやいやいや。どうして今まで隠して、いや、指輪は!?私一番最初に会った人全員左手の薬指に指輪がないかチェックしてるんですけど」

「それにしてた、って過去形よね。言える範囲で教えてちょうだいよ」

「それもどうかと思うケド……もう離婚してるヨ。今後結婚しようっていう気がないだけヨ」

「そうだったんですね……」

「めちゃくちゃ話を進める瑠衣ちゃんはどうなの?結婚とか、いいお相手とかさ」

「いないですよ……」

「仕事相手で配信者の素顔とか見ることないの?」

「たまに打ち合わせで見たりすることもありますけど、そもそも顔いいなー、性格いいなー、って思ってもその人の配信内容とか、漁ったりするとあー……ってなっちゃうんですよね。不特定多数にこういうこと言ってるのね?ハイハイ、そういうスタンスねって」

本来見えていないところが見えてキュンと出来るのがファン、関わらないしいっかと思えるのもファン。うわ無理、と思うのもファン。一線を引いておくのが仕事関係者。

契約や、提供の際にはどういう人なのかを事前に調べることを徹底しているカルティンブラ。中でも杉澤は人一倍気にしている。裏表がない人物はいない、と語るがありすぎても受け入れられなくなる。

出来る限り、表と裏が近い人。尚且つ本当にメンタルが強い人。甘い言葉を投げかけない人、などなど。多かれ少なかれ、個人的な視点だから許容範囲というものがあるが、厚かましさは自分の思う適度な頃合いであって欲しい。それが一番の条件。

「どういう感じで出会いたいとかあるの?」

「うーん……出来れば、ロマンチックに片足落とした靴でも拾ってもらいたいですけど無理じゃないですか」

「メルヘンだよ。メルヘンを忘れたら人は死んじゃうよ」

「供給不足になってるわね。メルヘンを渡しましょう!」

「私は一体何だと思われているのだろう。現実を見てるとか、じゃなく。急に靴拾われたって怖いじゃないですか。そういうおとぎ話みたいなロマンチックじゃなくて、もっと普通の。傘がぶっ壊れた時に差してくれる、とか」

「見ず知らずの人に傘は差さないと思います」

純粋な眼で弓削は言う。

「こっらー!お前にメルヘン注入してやろうか!萌え萌えキューンだよ!この野郎!」

「うわー!パワハラです!物理的パワーハラスメントです!」

「あははははっ!」

「ハハハハハッ」

「ひひっ、面白いネ」

レディたちの笑い声が四階に響き渡った。


【続く】

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