第4話 妖精になるまで


 目を開ければ、視界いっぱいに広がる……白色。

 真っ白な大地の上、真っ白な大空の下。


「私が神だ!」

「なにを言ってるのじゃ」

「皆まで言わないでください。分かってます。この私が神となって新たな世界を創造するときが来たのですね」

「分かってないのじゃ。ここはゲーム内なのじゃ」


 ははーん、これが神として最初の試練。

 この私を欺こうと企む、ボクっ娘のじゃロリドワーフに天罰を下せということですね?


「思い出したぞ! よくも頭かち割ってくれたなパンチ!」

「僕は本体じゃないから痛くも痒ぐぼぉ」

「よくも隠蔽なんてしやがって姑息なキック!」

「待つのじゃ……やっぱり痛かったのじゃ……」

「えーと、えーと、踏みつけ! 踏みつけ!」

「やっやめるのじゃ……思いつかないなら、追撃はやめるのじゃ……」


 うーん、すっきり。

 輪っかを頭にはめた瞬間、記憶がフラッシュバックしたんですよね。

 それで、思い出したんですけど。

 そのときにはもう意識がスーッと沈んでいって、このままじゃ復讐できない! って全力で抗いました。


 それはもう必死で……。

 ぼやけていく頭の中では――そっそんな、装着しても眠らないなんて異常だ!

 なんて、私の特異性に戦慄く声が響いて……気持ちよく眠れました。


「ところで、どうして博士が私の世界に?」

「いい加減にゲーム内だと認めるのじゃ」

「認めませんよ! 睡魔に耐える過程で、私に秘められた潜在能力が覚醒して神になった可能性も――」

「ないのじゃ」

「そういえば、どうして博士がここに?」

「僕は分身として作られた。チュートリアルキャラクターなのじゃ」

「つまり、この博士になにをしても許される?」

「なにをするつもりじゃ!?」

「なぜ、分身を作るようなめんどくさい真似を?」

「だって、生命は作れないんじゃもん」

「じゃもんって……」


 なんでしょう……この感情は……。

 私以外がかわいこぶってると腹が立ちますね。


 ん? 生命は作れないっておかしくないですか?

 ゲームは作れるのにゲームキャラは作れない?


「そもそも、どうやってゲームを作ったんですか」

「想像具現なのじゃ」

「それを説明しやがれって言ってるんですよ」

「のじゃ? 僕の能力、知らないのじゃ?」

「は!? 知ってますが? アレが……アレで……」

「想像されてる物を創造する能力なのじゃ」

「知ってましたよ。ポテト増殖装置ください」

「定期的に頼んでくるそれはなんなのじゃ」

「毎回、冷凍ポテトとか持ってきやがって……さては、私を博士に依存させるつもりだな! 手遅れだ!」

「想像されてないものは作れないのじゃ」

「頭につけるとゲームの世界。まさに、人間どもの想像する未来のゲーム!」

「なのじゃ。だからこそ、ゲームハードは創造できたのじゃが、ゲームソフトまでは想像されておらんのじゃ」


 それで、博士が分身までしてチュートリアルを担当してるってことですか。

 どうです? この私の、圧倒的なまでの推理力。

 

 そこらの凡人だと、げーむすげー。とか言いながら間抜け面でも晒してるんでしょうね!


「早くチュートリアルを始めてくれます?」

「……種族を決めるのじゃ」

「神」

「ないのじゃ」

「女神、魔神、山神、海神……風神雷神!」

「全部ないのじゃ」

「畜生め!!」

 

 私よ私、この私に一番ふさわしいのはなぁに?

 神! そのとおり、さすが私。


「決めました」

「人型の想像種から選ぶのじゃ。生命を作るのは無理じゃが、変えるのは造作もないのじゃ」

「あの……神は?」

「ないと言ってるのじゃ」

「なんでないんですか!」

「神が生まれるのに、どれほどの想像力が必要だと思ってるのじゃ! 具現する前に力尽きるのじゃ!」

「仕方ないですね。ドラゴンでいいですよ」

「人型って言っておるじゃろうが!」

「私ならできます!」

「ならやってみるのじゃ……短時間、形だけならできると思うのじゃ」


 おやおや? 私のようすが……。

 あっ眩し――あっ、たぶんサナギの中身ってこんな感じな気がする……。


「ゴロロロ」

「どうじゃ? 話すこともできないじゃろ?」

「フシュー」

「骨格の違いにも違和感を感じてるはずなのじゃ」

「グゥゥフシュゥゥ」

「サムズアップ……無駄に器用なのじゃ」


 グルルル……じゃなかった、これはダメですね。

 尻尾とか初めての感覚ですが、感覚がある以上は動かせるんですよ。

 

 問題は、首が長くてなんかヒヤヒヤします。

 寒いからとかじゃなくて、弱点を伸ばすなんて怖くてヒヤヒヤが――眩しっ。


「人型にする気になったのじゃ?」

「サナギとは、無呼吸入浴と見つけたり」

「のじゃ?」

「最強の種族でお願いします」

「そんなものはないのじゃ」

「理論上とかあるでしょ」

「……妖精系は司る元素になれば無敵なのじゃ」

「じゃあそれで」

「……ウンディーネでも試してみるのじゃ」


 入浴の時間……これが、ととのう。ってこと?


「水になりたいと思うのじゃ」

「汗を流し、体を冷やし、水が飲みたい」


 ――パシャ


 あれ? 汗は流してないような……。

 だがしかし、この体の境界線がなくなるような心地は間違いなく……いや、ほんとに境界線なくない?


 なんだか意識もぼやけていくような……。

 見えず、聞こえず、匂わず、話せず、触れない。

 これが、悟り? 現人神? 即身仏……。

 あれ? それって死んで――。


「またしても謀ったなぁ!」

「どうじゃった?」

「ぶっ殺してやる」

「なんでなのじゃ!?」

「私の美しい体をよくも……」

「もう戻っておるのじゃ!」

「……? ……! 戻ってる!?」

「水に感覚器官なんてないのじゃ」

「クソですね」


 別の種族にしましょう。

 というか、選ぶ必要あります?


 この私は、元から吸血鬼としての力が……人間のため? ああ、人間は雑魚ですからね。


「剣術士とか魔術士じゃダメだったんですか」

「種族が変わる想像はあるのじゃが、剣が使えるようになる。なんて想像はないのじゃ」

「筋肉が物理攻撃、骨格が物理防御、血管が敏捷、精神が魔法攻撃、内蔵が魔法防御」

「なんの話じゃ?」

「体力は筋肉と骨格、魔力は精神と内蔵を参照すれば、リアルなステータス表記だと思いません?」

「そんなものはないのじゃ」


 ……聞き間違いですかね。

 ゲームといったらステータスでしょ!?

 状態異常で延々とハメて、目の前で煽れないと?


 まぁ、私はそんな卑怯なことはしませんけどね。

 攻撃力に全振りして殴ります。

 負けたら、そのゲームとはお別れですね。


「決まらないなら、質問形式で決めてやるのじゃ」

「この私を、質問ごときで測れるとでも?」

「……好きなものなんじゃ」

「女」

「……趣味はなんじゃ」

「酒」

「ほっ欲しいものはなんじゃ?」

「金」

「ふむ、ドワーフじゃ」

「なんで!?」

「酒といえばドワーフ。という想像が多いのじゃ」


 ドワーフですか……博士と同じ種族ですね。

 つまり、私も想像具現でポテト量産できる!?


「実在するものは簡単に作れるんですよね」

「のじゃ? ああ、想像具現は使えないのじゃ」

「……なぜです?」

「ドワーフも、時代によって想像された能力が違うのじゃ。ここではメジャーな能力を採用しておるのじゃ」

「えー、じゃあいいです。そういえば、博士の分身ってどうやってるんですか?」

「僕も種族を変えたのじゃ」

「ほうほう、分身といえば……忍者ですね」

「ゴブリンなのじゃ」

「ごぶりん?」


 ごぶりん……ゴブリン……。

 あの、最弱で有名な? 小鬼の面汚し?

 ゴブリンに分身なんて……繁殖!?


「相手は誰ですか! まさか……先生!? 遺伝子が強すぎて博士そのものが量産されて……」

「ちょっと違うのじゃ」

「ちょっと!? まっまさか、人狼が……いや、もしかして……私の可能性も? ポテトに睡眠薬を……」

「最近のゴブリンといえば繁殖じゃが、増えるという想像さえ合っていれば分身も誤差なのじゃ」

「ほーん、いっそ無能力でよくないですか?」

「本来のゴブリンなんて、イタズラ好きの妖精じゃぞ? 分身能力でも持たせてやらんと悲惨なのじゃ」

「強い種族に能力があるのはどうなるんですか」

「強い肉体がある種族はだいたい無能力なのじゃ」


 そうでしたっけ?

 強い……強い? あっ、人狼とかも身体能力だけが自慢でしたね。


「私もゴブリンにします」

「さっきまで散々なこと言ってた気がするのじゃ」

「あれですよ。吸血鬼と小鬼、同じ鬼として――」

「妖精じゃと言ってるのじゃ」

「だって、神はダメなんでしょ? だったら、なんでもいいですし?」

「不貞腐れてやがるのじゃ」

「まぁ、分身は楽しそう……増える……私が? 私が私を崇めれば、私はゴブリンの神に――眩しっ」

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人間の想像力がヤバいことになってるのどうにかならんの問題 タノマヤ @tanomaya

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