第3話 謀られるまで

 ポテト職人の朝は早い。

 どれくらい早いかというと……目が覚めたときに起きるくらい。


 とにかく、私はポテト職人ですから。

 今日も軽やかな千鳥足で畑を耕すのです。


 ――ドゴンッ

 

「人狼畜生がよぉ! ノンフライヤー投げつけたくらいで殴りやがってよぉ!」


 ――ドゴンッ


「博士畜生がよぉ! ポテト増殖装置を頼んだのにノンフライヤー作ってきやがってよぉ!」

「あら、また穴掘りをしているの? いい鍛錬ね」

「なにを言ってるんですか、耕してるんですよ」

「耕してる? なにを植えるつもりなのよ」

「もうポテトを植えました」

「……いつ?」

「そうですね……かれこれ四ヶ月ほど前ですかね」


 私のかわいいポテトちゃん。

 元気に育ってくださいね。


 先生? 先生!?

 ちょっと、なんで畑を掘り返すんですか!

 あっ、やめて、いったいポテトになにを――。


「これがポテト?」

「ポテト以外になにがあるんですか」

「石以外になにがあるのよ」

「そっそんなはず……」

「どこから拾ってきたの?」

「川底」

「それはまごうことなき石なのよ」

「でもほら、茶色ですし、ポテトの可能性も……」


 そうだ、割ればいいんですよ!

 この石はポテトだって証明してやりますから、見ててください。


 今こそ、私の秘められし力を解放するとき。

 すぅぅう……はぁぁあ……ふん!


 ――パカッ


 どうです? このきれいな断面。

 硬度、質感、どこからどう見ても石……石?


「畑なんて二度とするか! 畜生め!!」

「そういえば、博士がゲームゲーム騒いでいたわ」

「博士のくせに、のじゃ。に飽き足らず新たな語尾まで得ようとするとは」


 畑なんて耕してる場合じゃねぇ!


 ボクっ娘のじゃロリドワーフが、ボクっ娘のじゃロリゲムゲムドワーフになる前に始末しなければ!


 おーい! 博士いるぅ?

 おーいー♪ おーいー♪


「オラァ!」

「なっなんじゃ!?」

「話は聞かせてもらった! なんでも、国民ゲムゲム計画が漏れて政が分水嶺の瀬戸際外交――」

「なんの話じゃ?」

「さっさとゲームを出してください」


 この日を、どれほど心待ちにしたことか。

 幾星霜の月日が流れゆくうんたらたかんまん。


「この輪っかに違いねぇ! こういうのは頭にはめるって相場が決まってんだよ……あ痛たた!」

「それは緊箍児を作ってみたのじゃが、想像力が足りんで、外すまで締まり続けるガラクタなのじゃ」

「あっびゃっびゃ……どっどうやって外すんですか」

「やはり、緊箍児は想像されておるが真言が想像されておらんせいで不完全な具現に――」

「おいこら、助けてください。頭が、頭が――」


 ――バキッ

 

「――といったところなのじゃ。のじゃ? ヒョウタンの化け物!? あっ……すまんなのじゃ」


 怒……愛……狂気……自愛……自尊心……自信が……溢れる……これが、自己覚醒!


「復ッ活ッ……あらゆる私のすべてが、完全! 完璧! 完美!」

「相変わらず驚異的な再生力なのじゃ」

「あれ? どうして博士がここに?」

「おそらく、脅威的なまでの自己愛性という一種の想像力がより多くの生命力を生み出して――」


 またですか、博士のくせに集中したら話を聞かなくなるのどうかと思いますね!

 私は、気分次第で話を聞きませんけどね!

 

 そんな私もチャーミング……お腹がすきました。

 なんだか、頭もぼーっとする気がしますし。

 

 こんなときは、同物同治。

 目には目を歯には歯を。ってやつです。

 なんか違う気もしますね。


 テメェに見切れるかな!?

 この神速の噛みつきがよぉ!!


 ――ガブリ

 

「痛いのじゃ!?」

「頭を食べたら頭が良くなるはず」

「その発想がすでに頭悪いのじゃ!」

「なんてこと言うんですか! 生まれと時代と運によっては歴史に名を残した。この私に向かって」

「それは誰だって名を残せるのじゃ」

「もしゃもしゃ……星二つくらいですかね」

「髪を食べないでほしいのじゃ。しかも星一じゃないことに恐怖を感じるのじゃ」


 うーん、平凡な基準と一緒にしないでくれます?

 私の厳格な審査では、星一が見るのも腹立たしい。星五が生涯これだけでいい。

 

 なので、星二は魔王と同等って感じですね。


「魔王程度とは、恥を知れ」

「魔王をなんだと思ってるのじゃ」

「……私は、なにしに来たんでしたっけ?」

「ゲームを受け取りに来たんじゃろ?」

「げーむ?」

「ついに頭どころか記憶までおかしく……あっ、頭が割れたんじゃったな。なら仕方ないのじゃ」

「そういえば、記憶が……たしか、輪っかを……」

「この輪っかでゲームができるのじゃ!」

「そうそう、この輪っかでゲームしに来たんです」

「今回は想像具現が上手くいってよかったのじゃ」


 想像具現ってなんでしたっけ……博士の能力?

 あーはいはい、ドワーフは不思議な物を作れるって想像に基づいた能力ですよね。


「ではさっそく、この輪っかを頭に……頭に?」

「どっどうしたのじゃ?」

「輪っか……頭……なんか思い出しそうな気が」

「この輪っかをつければ思い出せるのじゃ!」

「分かりました! 装着!」


 ――バタン

 

「ふぅ、思い出したらなにをされるか。なのじゃ」

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