第2話 怒るまで

それでは、お聞きください。

 

 私絶対賛歌。


 ――前奏――


 最強! 最高! 最上! 最強! 最高! 最上!

 とぅっとぅるんとぅっ♪ わったしっはぁ〜♪


「待って待って待って」

「どうしたんですか、先生」

「生命力の高まりはどうだったの?」

「生まれてました! 発明は成功ですから私の功績にしましょう」

「博士が泣くわよ。それで、連れてきたのよね?」

「今ごろはお腹の中ですね……つまり私は聖母」

「……食べたということ?」


 あの触手もないくせに頭足類を気取ってた魔王。

 次に生まれるときは、墨モドキじゃなくて本物の墨を吐けるようになればいいですね。


 そもそも、私は魚介類とか嫌いなんですけどね!

 骨がめんどくさいんですよ。

 魚って骨が細々しやがってて、摘出したら残骸しか残らなくないですか?


「カニとか費やした労力と食べられる量が見合ってませんよね」

「カニ? そんなことより、連れてくるように伝えたわよね?」

「だって断魂墨気が」

「男根勃起!?」

「天魔羅剣で貫かれて」

「麻羅に貫かれた!?」

「胸がズキズキするんです」

「それは……殺しても仕方がないわね」


 そうそう、殺しても仕方ない。

 ふむふむ、私はなにをしても許される。


 魔王の遺骨を人狼の寝床に置いたのも許される。


「おーい! はぁはぁ、ごほっ……そっ測定器が正常に作動したとは本当なのじゃ!?」

「私の、測定器ですからね。当然の結果です」

「のじゃ? あれは僕が――」

「私の功績になれるなんて、狂喜乱舞ですね!」

 

 常人なら手取り足取り……いや、脳取り心臓取りくらいしてもできない功績。 

 この私は、一欠片の努力もせずに達成した。


「誰も見てないから頑張らないのは三流、一流は自分が見てるんだから頑張るんです」

「僕の発明なのじゃから僕の功績なのじゃ」

「私は努力しない……超一流だから!」


 まさに、天賦の才。

 常識にとらわれないさまは、まるで有頂天!


「これからは、有頂天外。と呼んでください」

「どういう意味か理解しているのかしら?」

「たぶん、めちゃくちゃすごいって意味です」

「……測定器は博士に返しておきなさいよ」

「ぼっ僕の、僕の……しくしくなのじゃ」

「四苦八苦、四苦八苦、ほら返してやりますから」

「のじゃぁあ! 僕の生命力測定器、頭のおかしい吸血鬼からよくぞ生還したのじゃ!」

「おーん? ボクっ娘のじゃロリドワーフ畜生が」


 なんでも盛ればいいと思いやがって。

 属性過多って知らねぇのか? 雑種がよぉ。

 えっと、たしか……メスドワーフといえばロリ。

 ドワーフといえば物作り。

 物作りといえば博士口調。

 みたいな想像が混ざって生まれたんでしたっけ?


「どうして、わし。じゃなくて、ぼく。なんです?」

「いきなりなんの話じゃ?」

「媚びやがってよぉ」

「なんの話じゃ!?」

「博士も最初は、わし。と言っていたのよ」

「ははーん、さては年寄り扱いされたくなくて僕とか言ってるわけですか、あざといですね!」

「あまりいじらないの、有頂天外なのでしょう?」

「うちょうてんがい?」

「……あなたの頭、叩いたらよくならないかしら」

「私に手を出そうなんておこがましいですね。魔王の二の舞にしまブハァッ」

「どういうこと? 魔王が生まれていたの?」

「えっ、いま殴――」

「答えなさい」


 え? えっ……私より海産物のなり損ないのほうが大切なんですか?

 先生は私のことをなによりも優先してくれるって言ってたじゃないですか!

 そんなこと言ってない?


 あっ、ちょうど人狼畜生が走ってきてるのでどちらが正しいか決めてもらい――。


「オラァッ……ニャ」

「ばひょぉお!」


 ぐふっ、なにが……先生たちが天井に立ってる?

 どういう……もしかしてこれって宙を舞ってる?

 天が二物どころかあるだけすべてを詰め込んだのであろう、この私が殴り飛ばされた!?


「グベッ」

「ニャーの寝床に謎の骨を置くのはアンタしかありえないニャ」

「肉片は残してあげたじゃないですか!」

「だれが掃除すると思ってるニャ!」

「先生」

「そうだニャ」

「はぁ、魔王が生まれていたなんて……もったいない」


 おやおや、先生ともあろう人が悩みごとですか?

 この私が、聞いてあげてもいいですよ?

 聞くだけですけどね。


「魔王より私のほうが強いので安心してください」

「あなた、よく勝てたわね」

「思い返せば手強かった気がしなくもないです」


 あの海産物が漏らしてた墨、触ったら溶けたんですよね。私が。

 慌てて息をとめてなかったら内側から溶かされてたかもしれません。

 

 ジュワァ……ブクブク……ピカーン。

 

 一家に一匹、魔王で墨洗いする時代が――。

 瞬時に再生しないと死にますけど。


「勝負を分けたのは経験の差、全方位に墨を放出した海産物に対して、私は頭部に再生力を集中させた。理由? 喋りたかったから。とにかくそれで耐えきった私に勝利の女神が……いや、勝利の私が微笑んだのです。いま考えてみると武器じゃなくて防具とか作られてたら、触れることもできなくて詰んでましたね」

「ニャーは雑魚とだけ戦いたいニャ」

「恥を知れ。テメェには私の肉壁になるという役目があるだろうが」

「アンタが恥を知れニャ」 

「はぁ、それほどの魔王が自由派に入ってくれていたら……楽しめたのに」

「魔王って自覚してましたから、どうせ保守派に行ってましたよ」


 ああいう、生まれたばかりでなにも分からないけど思想はあるから従う。

 みたいなのは保守派に多いんですよね。


 私たち、自由派は好き勝手したい畜生ばかりですから合いませんよ。


「そういえば、墨の魔王なんて伝説は知りませんし、またゲーム生まれですよね?」

「最近、多いわね」

「……よし! 測定器に異常はないのじゃ」

「黙ってると思えば、協調性を知らないんですか」

「協調性のない吸血鬼がなにか言ってるのじゃ」

「その測定器だって私はどうかと思いますね!」

「なんじゃと!? これがあれば想像種の生まれる前兆が分かるんじゃぞ!」

「どうせ真面目は保守派、馬鹿は改革派に行くんですから、無駄ですよ」

「じゃから行く前に勧誘するんじゃろうが!」

「変なのが入ってきたらどうするんですか!」

「保守派から追放されたどこかの吸血鬼は言うことが違うニャ」


 は、はぁ? 追放なんかされてませんが?

 今どきの吸血鬼は日光がダメとかいうから、同じ吸血鬼として哀れんで……。

 あれですよ、日光浴させたら灰になって……。


「追放で許してくれた保守派には感謝しなさいよ」

「あの偽善者どもにですか?」

「悪く言わないの、生まれたばかりの子を保護して教育までしてくれているのだから」

「絶対、都合のいいこと言って洗脳してるんです」

「あなたのときはどうだったの?」

「想像力とか人間について教えてくれました」

「アンタが改革派に捕まる前に、保護した保守派は世界を救ったようなものニャ」

「改革派から逃げてきたどこぞの人狼は言うことが違うじゃねぇか」


 改革派は、生まれたばかりでなにも分からないけど能力はあるから暴れる。

 なんて頭のおかしい畜生どもばかりですからね。


 私は絶対に改革派が合ってると思うんですよ。

 保守派みたいな年功主義だと、生まれが古いほど威張ってましたけど。

 実力主義の改革派なら、人間ども狩りまくって英雄……いや、神と崇められてたはずです。


「テメェは、にゃーにゃー言ってるから舐められるんだよ」

「舐めてかかる雑魚を踏みにじるのに愉悦を感じるニャ」

「雑魚ばかりいじめて発情しやがって」

「自分に発情するアンタよりまともニャ」

「……滂沱の涙で怒髪天を衝く蛇蝎ですよ」

「知ってる言葉を並べすぎて支離滅裂ニャ」

  

 テメェに見切れるかな!?

 この神速の踏み込みがよぉ!!

 

 ――バキッ

 

「の、のじゃ……僕の生命力測定器……のじゃ」

「私としたことが、畑に水をやりにいかないと」

「ニャーとしたことが、寝床の骨を片付けないと」

「待ちなさい」

「早くしないと畑が枯れますよ!」

「早くしないと骨が腐るのニャ!」


 止めないでください。先生。

 私のかわいいポテトちゃんが待っているのです。


 ほら、人狼畜生なんて見てみてくださいよ。

 この場から逃げるために掃除するなんてあからさまな嘘までついてます。

 捕まえるなら協力しますよ?

 

「保守派から連絡が届いていたのを思い出したわ」

「え? ポテトくれるんですか?」

「ニャ? 肉でもくれるのニャ?」

「ほら、ゲーム生まれが増えているって話をしていたでしょう。その件で保守派が動く旨を伝えてきたのよ」

「いちいち連絡するなんて暇なのかニャ」

「奴らのことですから牽制とかじゃないですか?」

「牽制でしょうね。前に書いていないからって介入したせいか、控えろとはっきり書かれていたわ」


 まったく、なにをそんなに警戒してるんですかね?

 私たちは楽しければなんでもよくて、時々やらかしちゃうだけですのに。

  

「人間の空想対象が伝承からゲームに変わりつつある現状を――つまり、ゲームをどうにかしたいのね」

「ゲームを作りましょう!」

「なくしたいのに作ってどうするニャ」

「博士に画期的なゲームを作らせて、人間ども集めて他派閥も注目せざる得なくする。まさに混沌!」

「それは楽しそうね。無から有は生まれない、混沌こそが娯楽たりえるのよ」

「先生ってまともに見えるけど、自由派を率いてるだけのことはあるニャ」

「当然でしょう? だって先生は、神代の生き残りなんですから」


 なんかほかにも、自然の愛し子とか丸耳のエルフとか言われてたの聞いた気がします。


「しくしくなのじゃ、しくしくなのじゃ」

「ツクツクボウシみたいに鳴いてんじゃねぇよ!」

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