第5話

なおちゃんの方も私に思い切りしがみつくと、さらに激しく「うわ~ん!』と大声で、号泣し始めました。

こんなに気持ち良く大泣きする女の子は初めて見たし、そもそも女の子を抱きしめ、逆に強く抱き締め返されたことも無かったので、どうすれば良いのかオロオロしつつも、あまりに柔らかく、良い香りのするなおちゃんにはクラクラしてしまいました。

私の胸の中で大声で泣くなおちゃん。

頭をナデナデするのが良いかもしれないと思い、抱きしめた格好のまま何とかナデナデすると、信じられないほど柔らかくしっとりサラサラした髪の毛に驚きました。

そしてその香りの良さにもビックリしました。

なおちゃんはこんなに悲しんでいるのに、自分はなんだか妙にえっちな気分になってしまい、一方ではそんな自分に対して自己嫌悪しながら、どうしたら良いのか判らずに黙って抱きしめていると、身体が痛くなってきました。

車の外やもっと広い部屋などで抱き締めるのであれば、何時間でもそうして居られたと思うのですが、車に座ったまま身体を捻って抱き締めているので、そんなに長時間は同じ格好で居られません。

それでも女の子を抱き締めた経験が過去には全然無く、しかも抱きしめ返されているのが夢のようで、なんとか頑張りました。

着ていたTシャツの肩の辺りが、なおちゃんの涙でぐっしょり濡れてきたのを感じた頃、ようやく気持ちが落ち着いてきたのか、「とまきちさん、ありがとう。やっと落ち着いた!」と言うので、そっと身体を離しました。

「シャツが濡れちゃったね。ゴメンね?」

というので、「全然大丈夫だよ!」と応えました。

むしろ私としてはちょっと変態的かもしれないけど、嬉しいくらいです。

グローブボックスを開けると、ボックスティッシュを箱ごと手渡し、なおちゃんはようやく泣き止んで目や鼻をかんでから、恥ずかしそうにニッコリしました。

その顔が本当に美しくて、ワザワザ自宅から深夜に一時間掛けて駆け付けた苦労が報われました。

「あぁ! スッキリしたぁ! とまきちさん、ありがとう。」

改めてそう言われると、「気持ちが落ち着いて良かったね。」としか返せませんでした。

取り敢えずお互いにシートベルトを締めた上で、再び車を走らせ始めました。

「なんだか思いっきり泣いたらお腹が減ってきちゃった。いつの間にか朝になってるし、どこかでご飯が食べたいな。」というので、「そうだねぇ。この時間だとまだお店があまり開いてないかも? 24時間営業のファミレスとかならあるかなぁ?」と提案してみたら、「実はわたし、行ってみたいお店があるんだ!」とリクエストが!

「良いよ、それはどの辺にあるお店なのかな?」と尋ねてみると意外な返事が返ってきました。

「実は…。その…。行ってみたいラーメン屋さんがあるの…。朝からラーメンはダメ?」

ちょっと意外なリクエストではありましたが、行きたい場所がラーメン屋さんだなんて気取ってないし、自分は本当にラーメンが大好き。

「もちろん朝からでも大丈夫だけど、この時間にやってるかな?」

「ちょっと遠いのだけど、神奈川県に有名なお店があるんだ。以前から凄く気になってたんだけど、1人では入りにくいし、一緒に行ってくれる人も居なかったし…。ダメかなぁ?」

その時に走っていたのは千葉県の松戸市という場所で、東京都と隣接する場所でした。

そのラーメン屋さんの名前を聞いてみたところ、なんと住所まで知っているというので、道路地図を引っ張り出してきて、目的地を確認してみると、思ったほど遠くはありませんでした。

その当時は私のボロい車にナビなどは付いて無かったので、必要な道路地図を幾つか車載しており、その地図と道路標識だけが頼みの綱だったのです。

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