第3話

車を降り、エントランスに近寄って恐る恐る「なおちゃん…ですか?」とその見知らぬ女性に声を掛けると、静かに頷きながら涙が零れる彼女。

それがなおちゃんでした。

私は正直言って驚きました。

それまでのメールのやりとりの中で、なおちゃんは誰に似ているのかを聞いていたのですが、「香港の女優でケリー・チャンに似てるとよく言われる」とのことでした。

当時、私はあまりその女優の事を知らなかったので、パソコンを使って調べてみたら、目許が涼やかで、全体的に爽やかな雰囲気の超美人。

そして目の前に立っているなおちゃんは、確かにそのケリー・チャンにとてもよく似た雰囲気の美しい女性だったのです。

それまで「パソコン通信(インターネットが普及するより少し前の時代に流行ったコミュニケーション)」で知り合って仲良くなった人々と、いわゆる『オフ会』などを通じて現実世界で会った経験が結構あった私ですが、「○○に似てる」と自己申告してた人と会ってみて、本当にその○○に似ていると感じた人は1人も居ませんでした。

でもなおちゃんは本当にケリー・チャンを彷彿とさせるような美人だったのです。

そして私は急に恥ずかしくなってしまいました。

お気に入りでは有る物の、なんとなく着古してヨレヨレになったTシャツとジーンズ。

靴だってボロボロのスニーカーで、深夜に慌てて飛び出して来たにしても、余りになおちゃんとは釣り合わない格好だったのは明らかです。

さらに乗ってきた車は、母の友達から安価に譲ってもらった錆だらけの古いシビックで、芳香剤が好きではなかったので、なんとなく前オーナーの生活臭が染み付いた車内の臭いが気になりました。

圧倒的な美しさに気圧されながらも、なんとか勇気を振り絞って「凄くボロい車で悪いのだけど、慰めに来たよ。取り敢えず…乗って貰えるかな?」と促すと、コクリと頷くなおちゃん。

なんとな~く助手席のドアを開けて、なおちゃんを座らせると、いそいそと運転席へ。

そして車の中で二人キリになると、なおちゃんの驚くほど良い香りが車の中に満たされていきました…。

「と、取り敢えず、適当に車を走らせるね。どこか行きたいところが有ったらリクエストに応えるよ。」

そう言いながら、車を走らせたのだけど、信号で停止する度にチラッとなおちゃんの方を見ると、信じられないような美女が座ってる!

「とまきちさんは、ショートボブが好きって言ってたよね? 実は最近までは腰の辺りまでのロングだったんだけど、思い切ってボブにしちゃった!」

そう言いながら、悲しさを抑えて少しニッコリしながら、「どうかな? 似合う?」と聞いてきました。

初めて会うので似合うかどうかはよく判らないのだけど、少し長めのボブがとても綺麗で、サラサラとした艶のある髪に見とれてしまいました。

「凄く似合うと思う! でもなおちゃんはどんな髪型にしても、似合いそう…。」

そう本心からつぶやくと、なおちゃんは「ありがとう」と応えてうつむきました。

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