第38話 新塾ダンジョン⑧

 目の前にはゴーストが三体。物理、魔法防御力が高いため多くの手数が必要になるはずだ。


「一度牽制するね! ハリケーン!」


 ノ宙は勢い良く大型のアックスを投げる。


「ダメだね。当たらない」


 魔王が呟く。


 アックスは、ゴーストの身体に触れることもなくノ宙の下にかえってきた。


「なんなのっ! 絶対当たったよ!!」


「透過能力じゃろうか? 物理を無効化しておるようじゃな。これではステータスの数値は参考にならん」


  『身体が透けてるタイプのゴーストか……』


  『おばけなのに身体がない。正しいような気がしてきた』


  『ちゃんとゴーストしているな。よしっ!』


 ゴーストとは幽霊であり幽霊なら透明という考え方だ。透明なら物理は効かないよねっていう。ただ、物理が効かない理由はそれではない。


 透過能力のレベルがかなり高い。それに尽きる。並みのゴーストなら先ほど放ったノ宙の一撃で終わっている。


 そもそも、物理攻撃とは魔力による攻撃だ。


 物理攻撃とは、魔石の力で武器に魔力を込めた攻撃のことで、相手に肉体があろうがなかろうが関係がないのだ。


「武器は駄目みたいだ。ここまで無力化されるなんて。私と凸さんは下がった方がいいかな。レイヤちゃん頼みになりそう」


「まかせるのじゃ」


 やれやれといった表情でレイヤが前にでた。お、カッコつけてるな。


 ともあれ、攻撃魔法が使えるレイヤのなんと頼もしいことか。魔法攻撃力が91あるため問題なく戦える。


「ちょっと待って。ここはボクにやらせて欲しい」


 レイヤを遮ったのは魔王だった。持っていた剣をクルリと回す。いつになくやる気が漲ってる。


 なんとステータス開示も許可になっていた、


 ステータス――

 武器:騎士剣


 物理攻撃力 50 A

 物理防御力 50 A

 魔法攻撃力 50 A

 魔法防御力 50 A


 スキル

 次のページ→


 なんて懐かしい並びだろうか。綺麗にならんだ50とAランク。


 まさしく当時の最強。カンストステータス。


 スキルも多すぎて次のページに列挙されているところも変わらない。ズラズラと並んだスキルも、半数以上は戦闘で見たことがなかった。


『おおおおおおおおお当時の魔王と一緒だ!!!!』


『キャラづくりが徹底してますなあ』


『どうやってこんなにスキル集めたん? まじで本物?』


『俺魔王ヲタなんだけど、本当にスキル一緒だよ』


『今見るとゴミみたいなスキルだな。ランクEを一撃って、普通に倒せやとしか。ギャンブルスキルもあるし、めちゃくちゃ使いずらいな』


 「ちょっとコメント黙って」


 魔王は口を膨らませながらコメントに文句を言っている。


 当時の最強。今の普通。ゴミと呼ばれるスキルの数々……。時間の流れのなんと恐ろしいことか。


「さずがに厳しくないか?」


 俺は正直に伝えた。


「まあ見てなよ。ボクは一度倒している」


 以前そんな事を言っていたような気がする。ステータスが能力の全てではないが、それでもこの能力では、そもそも攻撃が通らない。


「ボクのスキルを隅々まで見ることだね」


 そんな強力なスキルがあったかな? と思いながら、もう一度隅々まで目を通す。


 見れば見るほど無駄なスキルが多い。複数スキルもレアスキルではあるのだが、持っているスキルが当時のランクA詰め合わせなので、現在では実用的な物が少ない。


 特に下位レベルを対象にした攻撃無力化や即死系は、当時最強だった魔王だからこそ有用だったものだ。自分が優位に立っている前提のスキル構成も考えものだ。


 その中で一つ異質なスキルを見つけた。


「いくよ……フィクル!」


 【気まぐれ】と呼ばれるランダムスキル。いわゆるパル〇ンテみたいなものではあるが、一定の規則性は持っていた。


「グオオオオオオオオオ」


 悲鳴と共にゴーストが一体が消滅していく。どうやら即死系の魔法が選択されたようだった。


 使いにくいランダム魔法であるが、自身が得意とするスキル特性が選択されることが多かったりする。


「狙い通りだね。フィルクならボクの魔力に依存しない。運もあるけど、どんな相手でも勝てるよ」


 『おおおおクライすげええ!!!』


 『フィルクって初めて見た!! 伝説の魔法だよね』


 『↑運要素が強くて誰も使わないだけだぞ』


「昔からギャンブルな魔法が好きな奴じゃのう」


 レイヤはかなり呆れた様子だ


「どうとでも言うがいいさ。ボクは他の誰よりもフィルクを操れる。さらに……フィルク!!!」


「…………」


「…………」


「……何も起きないのじゃ」


『どうした……』


 『ゴクリ……』


「きゃ!!!」


 ノ宙が小さな悲鳴を上げた。


「どうした?」


「え、ちょっと……」


 顔が真っ赤だ。味方にデバフをかける魔法か?


「む、虫がスカートの中に飛び込んできて……」


 ノ宙が顔を真っ赤にしている。俺は魔王を見た。そういう魔法か? えっちな奴である。


「ち、ちがうぞ!!! 対象はゴーストだった。味方ではない」


 よく見ればゴーストが一体全く動いていない。


「時間停止の魔法のようじゃな」


 レイヤはもう一体を警戒しながら、動かないゴーストにトコトコと近づいた。


「うむ、停止しておるのじゃ。せっかくじゃから倒しておくかの。破滅の光~」


 気軽な感じで放たれたレイヤの魔法でゴーストがまた一体消滅した。


 敵は残り一体。これならいけそうだ。たしかにフィルクの引きが良い。魔王のスキル構成のせいだろうか。


「引き続き頼んだぞ」


「魔力切れみたいだ。あとは頼んだ」


 ……。そういえば確かにかなり魔力を使う魔法だったな。ランダム要素があり、かつ使用魔力量が多い。そりゃ誰もこんな魔法は使わないわな。


 とにかくあとゴーストは一体。さっさと倒してしまおう。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る