第32話 新塾ダンジョン②
掲示板―――
おっさんが行く! 廃墟ダンジョン解説チャンネルについて語るスレ パンツ51枚目
821名前:名無しのダンジョン募集中さん 投稿日 2023/
やっと配信当日か。わくわくするな
824名前:名無しのダンジョン募集中さん 投稿日 2023/
鯨二郎は一体なんだったんだ? てっきり一緒に配信するものだと思ったわ
830名前:名無しのダンジョン募集中さん 投稿日 2023/
秋葉波良配信の借りを返して欲しいね
833名前:名無しのダンジョン募集中さん 投稿日 2023/
>>830魔王ちゃんかわいいし大丈夫じゃない?
849名前:名無しのダンジョン募集中さん 投稿日 2023/
魔王キャラも今更感あるんだけど意外と好評だったりする? 俺は好きなんだけど。
855名前:名無しのダンジョン募集中さん 投稿日 2023/
>>849ロリは何人いてもいいものです
861名前:名無しのダンジョン募集中さん 投稿日 2023/
また魔石の幻影らしいけど凸の性癖を具現化してるだけなんじゃと思い始めたわ
888名前:名無しのダンジョン募集中さん 投稿日 2023/
>>861きっと学校の先生なんだよ。優しい先生だなあ
895名前:名無しのダンジョン募集中さん 投稿日 2023/
>>888凸は保険屋だぞ。先生だったら危なすぎる。てか次スレをそろそろお願いします
912名前:名無しのダンジョン募集中さん 投稿日 2023/
>>次スレ助かる。魔王城探索って何気にあんま配信ないから楽しみだ。子供の時を思い出す。
1000名前:名無しのダンジョン募集中さん 投稿日 2023/
まずは無事に。そして久しぶりのパンチラを願って
****
「あー聞こえますか? おっけー? 皆さんおはようございます。おっさん廃ダンチャンネルです。正式名称をいちいち言うのが面倒になってきた鈴木凸です。今日は、散々お待たせしました新塾ダンジョンこと魔王城の配信をしていこうと思います」
『こんちゃー』
『Hi』
『いよいよ魔王城か』
『解説頼んだ』
「ダンジョンの概要については魔王にやってもらおうと思います。魔王お願い」
「ん? ここはボクの家だけど」
魔王は、全てをやり遂げたような大満足のどや顔で腕を組んでいる。ちょっと待て、打ち合わせの解説と全然違うじゃないか。
「はいどうも、レイヤよろしく!」
『草』
『魔王ちゃんと解説しろww』
『お前が本当に魔王ならなんら間違ってないな!』
リスナーの反応の通りだ。上野さんの解説を聞いて「ボクの方が詳しいに決まっている」と豪語したお前はどこにいったのか。レイヤがいつになく丁寧に説明をしている。なんてありがたい。こんな気持ちになるなら最初から自分で解説をしてれば良かった。
「というのが魔王城なのじゃ。ちなみに凸のステータスは久しぶりに4Sを引いておるのじゃ。雑魚戦の見どころが消えて配信的には不安なスタートじゃがな。はははっ」
「鈴木さんのせいで、私の見せ場がなくなることが確定しました。帰っていいよね?」
レイヤとノ宙が思い出し笑いをしている。話の通り、なんと一発で4S能力を引き当ててしまった。見どころ的に少し苦戦するくらいでステータスを調整しようかな、なんて欲をかいたのがいけなかったのかもしれない。
それがまさかの一発で最高能力値。この後に能力の下振れを引き続ける恐れもあるので、再抽選はしないことにした。能力不足の配信中止だけは避けたい。
もう【4S冒険者、魔王城で無双確定】って感じでサムネのタイトルを付けた方がウケるんじゃないかと思い始めた。
「4Sの能力を生で見られるなんて楽しみです」
上野さんがそう言って慰めてくれた。配信には絶対に映らないが、俺達の目線がチラチラと上野さんを追っかけるので、リスナーの中には他に誰かいると感づいた人もいるようだ。たまに書き込みがあり、その人物が鯨二郎だと思っている人も少なからずいた。
『これでジュースでも買いな。100円』
「30円は自腹かこの野郎」
あ、スパチャありがとうございます。
****
「やっとボクの家に帰ってきた。ひゃっほい。エレベーターはこっちだ!」
ダンジョンであるビルに入ると、魔王はいよいよテンションの高さが振り切れているようで、エレベーターに向かって駆け出していた。
「ダンジョンが現れた当時、丸閥商事は業務中でした。特にダンジョンの一部になった地下1~3階フロアで仕事をしていた方々は、そのままダンジョン内に閉じ込められ、そして魔物の犠牲になったと言われています」
この話は特に有名で、勇者もとい会長を主役にした映画やドキュメンタリーでは何度も擦られている話だった。ただ、もう7、8年くらい前が映像化のピークだったので、どうも最近の若い人はこの話を知らないらしい。
『魔王悪い奴だな~』
『そこにいるから殺そう』
リスナーの言う通りだ。ちょうどそこにいるし倒してしまおうか。まあ冗談だが。魔王はエレベーターのスイッチを押し、ソワソワしながら到着を待っていた。
俺はその隣に立った。上野さんもチョコチョコと着いてきている。上野さんが仕事の連絡等で動きが止まることがあるため、俺が彼女を置いてかないように常に目を光らせていた。
今日の配信の中心はレイヤとノ宙にお願いしている。ノ宙は言うまでもなく、レイヤも盛り上げが上手い。単独で配信をしても多くのリスナーが付いてくるはずだ。
一つ気になっていることがあった。配信では映らない時を見計らって魔王に声をかけた。
「よく考えればエレベーターが動くなんて不思議だな。外界から断絶しているのに。内部で発電できるのかな」
「いや、ボクが魔力を与えて動かしている。元々こんな構造にするつもりはなかった。不便でしかたがない。この建造物ごと挿げ替えるつもりだった」
「そうなのか。ずっと聞いてみたかったんだが、もしここがそのまま魔王城と挿げ変わった場合、ここにいた人達はどうなる予定だったんだ?」
「それは死ぬに決まっている」
残酷なまでに簡単に答えた。
「なるほど。やっぱりお前は魔王だな。人間とは違う」
「そりゃそうだよ。ボクは人間ではない。そもそもユグドラシルでも人が死ぬことに抵抗なんてないよ。だた、一つ理解していて欲しいのはさ―――」
「なんだ?」
「レイヤだってダンジョンの女神だってことさ。彼女が作ったダンジョン内でも魔物はいるし、罠もある。殺意は強くないけれど、それでも人は死んでしまう時がある。そして、そんなダンジョンを彼女は愛しているんだ。ボクとの違いは、レイヤは出来る限り人が死なないようなダンジョンを作りたいと思っているということだけだ。裏を返せば、死ぬこと自体は多少許容した上でダンジョンを作っているんだよ」
魔王のその言葉に俺は何も言うことが出来なかった。どう返していいのか分からなかった。
ただ、魔王と女神は、どちらが悪でどちらが善という問題ではないということだけは理解できた。上野さんも何か言いたげであったが、俺の表情を見るや、言葉を飲み込んだようだった。
チーン。
エレベーターが間抜けな音で到着した。
そのエレベーターにはキメラが乗っていたので、俺は刀を取り出しサッと首を切り落とした。『おーすげー!』とリスナーが湧く。賞賛に反応して脳から変な汁が出てしまう。気持ち良すぎて蕩けそうだ。
久しぶりにちゃんとダンジョンの配信をしている気がした。
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